Editorial

今はSFを語っている時ではない

Nature Medicine 26, 6 doi: 10.1038/s41591-020-0955-8

COVID-19を引き起こすSARS-CoV-2ウイルスは、我々の周囲にこれからもずっと存在し続けると予想され、経済がロックダウンの影響からすぐに立ち直るとはとても考えられないことも次第に明らかになっている。こうした状況の中で、科学的証拠を歪曲し、健康問題の専門家だけでなく科学そのものへの世間の信頼を失うという危険を冒しても、政治的目標を達成しようとする米国政府の傾向は、次第に顕著になってきている。

特に問題なのは、SARS-CoV-2の起源、つまりこれが中国の実験施設で作られたものであり、中国政府は武漢でのアウトブレイクが始まった際に情報を隠蔽したという主張である。パンデミックがどのようにして始まったかを解明することは重要であり、その知識は各国が今後のアウトブレイクに備える助けとなるし、流行がさらに拡大するのを防止するのにも役立つだろう。しかしこの問題に対する答えは簡単に得られるものではない。SARS-CoV-2のゲノムの解読は流行の初期から試みられ、野生動物のウイルスとの比較や進化の道筋をたどることも行われている。現在得られている最良の「科学的証拠」は「SARS-CoV-2は自然界で、おそらくはコウモリで発生した」ことを示しており、その後いくつかの媒介動物を経てヒトに感染するようになったと考えられているのだ。

進行中のCOVID-19パンデミックに対する政府の貧弱な施策から注意をそらすために、偽の情報をばらまき、恐怖心をあおることは、米国政府の常習的な手口になりつつある。米国トランプ大統領は、ウイルスの拡散を防ぐための隔離やロックダウンの重要性を示す科学的証拠を無視し、効果が証明されていない治療法を国民に勧めている。こうした科学的懐疑主義は以前にも見られたが、今回のように大量の偽情報を流し、政府が先頭に立って非主流科学を推奨したようなことは以前に例がない。

軌道を修正して正しい方向に戻るのは容易なことではなく、多方面からの取り組みが必要だろう。COVID-19という危機の解決に科学が重要であることがしっかり認められていることは、大きな利点である。科学者はパンデミックについて積極的に発言し、人々に正しい情報を伝え、官僚には政策決定に責任を持たせ、陰謀の正体を曝露し、従来通りの国際的な協力を世界に求め、科学的記録を歪曲するさらなる計画に反対しなくてはいけない。米国だけでなく、世界全体でのコロナウイルスの持続的制圧は、隔離、ソーシャル・ディスタンシング、接触追跡やワクチン接種といった公衆衛生的介入によってのみ達成されると考えられる。人々が選択の自由を持つ社会では、このような介入の成功はひとえに、科学の専門家と公衆衛生当局への社会の信頼に依存している。パンデミックの速やかな終結をもたらすには、政府のリーダーたちが、政略はひとまず置いて、科学に基づいて緊急に政策決定を行い、国際的な協力を支援することが重要なのだ。

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