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がん治療:RAF→ MEK→ERKの阻害により引き起こされる保護的オートファジーによって示唆されたRAS誘導性がんに対する治療戦略

Nature Medicine 25, 4 doi: 10.1038/s41591-019-0367-9

米国では、膵管腺がん(PDA)による2018年中の死者数が約4万4000人となり、PDAは薬理学的治療が効きにくいがんタンパク質のKRASにより誘導される難治性がんの典型とされている。KRASの下流にあるRAF→MEK→ERKシグナル伝達経路は、膵管腺がん発生に中心的な役割を担っている。しかし矛盾するようだが、この経路を阻害してもPDA患者に臨床的な効果がもたらされることはない。今回我々は、KRAS→RAF→MEK→ERKシグナル伝達の阻害が、細胞の再生利用過程であるオートファジーを誘導し、これがKRAS経路阻害の細胞傷害性の影響からPDA細胞を保護していることを明らかにした。機構的には、MEK1/2の阻害は、オートファジーの主要な調節因子であるLKB1→AMPK→ULK1シグナル伝達軸の活性化につながる。さらに、MEK1/2とオートファジーを組み合わせて阻害すると、in vitroではPDA細胞株に対する相乗的な抗増殖作用が見られ、マウスでは患者由来PDA腫瘍の異種移植片の退縮が促進された。トラメチニブとクロロキンの併用の影響はPDAに限られたものではなく、NRAS変異型黒色腫やBRAF変異型大腸がんの患者由来異種移植片(PDX)など、他の腫瘍でも同様の応答が見られた。さらに、PDA患者に対してトラメチニブとヒドロキシクロロキンの併用療法を行ったところ、部分的とはいえ、がんに対する明らかな応答が認められた。これらのデータは、この併用療法がRAS誘導性がんを標的とする新たな戦略となる可能性を示している。

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