Editorial

個別化を進めるコスト

Nature Medicine 25, 12 doi: 10.1038/s41591-019-0700-3

たった1人の患者のために設計されたアンチセンスオリゴヌクレオチドを使うという治療は、薬剤の毒性や有効性の実証などに関する規制や薬剤作製に必要な莫大なコストに関わる問題に加えて、倫理の問題が注目を集めた。このような「超個別化医療」に使われる可能性のある技術や薬剤は、単一遺伝子疾患の治療に使われるアンチセンスオリゴヌクレオチドだけではなく、がんに対するCAR T細胞療法についても同様の問題が浮上している。CAR T細胞療法のコストは47万5000ドルと見込まれており、いったいどうやったらこれだけの費用を支払えるのかがやはり問題となっていて、全く新しい支払い方法や価格設定のモデルが緊急に必要だと考えられている。

このような莫大な費用を必要とする治療法は医療へのアクセスの不平等をさらに拡大する可能性があり、これらを使えるのは社会経済的最上層だけに限られることになるかもしれない。だが、進歩した精密医療は特権階級だけではなく、社会の全ての階層が享受できるようにすべきものだ。こうした方向に向けた動きもすでにスタートしていて、米国では2019年10月に、サハラ砂漠以南のアフリカのような、資源が乏しく疾病リスクの高い地域でも使用可能な、HIVや鎌状赤血球症に対する新しい遺伝学的治療法の開発を目的とするイニシアチブが、ゲイツ財団とNIHの協力によって開始された。

次の10年間、個別化医療の進展は加速する一方と予測されるが、治療に要する費用はさらに高額になるだろう。製薬会社や医療費支払者は将来の研究への投資ファンドの必要性と治療の利用可能性のバランスを保てるような革新的な解決法を考える必要がある。ハイテク治療法の可能性が大きな興奮を巻き起こす中にあって、「全ての人の健康を改善する」という基本的目標を我々は忘れてはならない。個別化医療が抱えるこうした問題に対しては、しっかりした取り組みが緊急に必要なのだ。

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