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不妊:出生前に起こるミュラー管抑制物質の濃度上昇は胎児を再プログラム化し、成人では多嚢胞性卵巣症候群を誘発する

Nature Medicine 24, 6 doi: 10.1038/s41591-018-0035-5

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は世界的に女性不妊の主な原因であり、共存症や高い経済的負荷と相関している。PCOSが世代間で受け継がれていく仕組みは明らかではないが、発生に関係する病態の1つである可能性がある。PCOS患者の大半は、健常な女性と比較すると循環血中の黄体形成ホルモンの濃度が高く[これは性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の放出亢進を示唆している]、またミュラー管抑制物質(AMH)の濃度も高い。子宮内にAMHが過剰に存在すると、女児胎児の発生に影響を及ぼす可能性がある。しかしながら、妊孕性が正常な女性ではAMHの濃度は妊娠期間中に低下するので、PCOS患者では妊娠期間中にもAMH濃度が高いのかどうかは分かっていなかった。我々は、妊娠中のPCOS患者コホートと対照となる妊娠中の健常女性コホートでAMH濃度を測定し、AMH濃度が前者では後者に比べて大幅に高いことを見いだした。PCOS患者の妊娠期間中のAMH量の上昇がバイスタンダー効果なのか、胎児側の病態のドライバーとなっているのかを明らかにするため、妊娠マウスへのAMH投与によって我々の臨床知見をモデル化し、出生後の雌産仔の神経内分泌に関わる表現型を追跡した。AMH投与により、母マウスでは神経内分泌性のテストステロン過剰が見られるようになり、胎盤でのテストステロンからエストラジオールへの代謝が減弱した。その結果、AMHに曝された雌胎仔は雄性化し、成体期にはPCOSと類似した生殖表現型と神経内分泌表現型が生じた。AMHの影響を受けた雌マウスのGnRHニューロンは持続的に過剰活性化されており、成体となった雌マウスではGnRHアンタゴニストの投与によって神経内分泌表現型が正常な状態に回復することが分かった。今回の結果は、PCOSの神経内分泌機能不全状態でのAMHへの出産前の過剰な曝露とそれに続く異常なGnRH受容体シグナル伝達が果たす重要な役割を明確にしたものであり、また成体期にこの病態を治療するためのこれまで知られていなかった治療法候補を示している。

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