Editorial

インフルエンザワクチンへの投資を怠ってはいけない

Nature Medicine 24, 4 doi: 10.1038/nm.4535

インフルエンザによる死者数は全世界で毎年約65万人に上るが、幅広いウイルス株に有効で、効果が長続きする「ユニバーサルワクチン」への道はまだ見えてこない。

WHOは、流行中のウイルス株についての国際的監視と臨床データに基づいて、季節性インフルエンザワクチンが標的とすべきウイルス構成を選び、実際に流行が始まる6〜8か月前に公表している。こうして年ごとに実情に合わせて構成が変更されるにもかかわらず、ワクチンの有効性には年によって10%から60%という大きなばらつきがあり、6か月前に選定されたウイルス株が実際に流行中のものと異なっていれば、その年のワクチンの効果は大きく低下する。また、鶏卵を使ってウイルスを培養する現行のワクチン生産方法も有効性低下の一因となっており、この段階でウイルスに変異が起こると、標的とするウイルス株に効果が見られないワクチンが作られてしまう。

しかし、開発中のワクチンの中で、ユニバーサルワクチンとして使えることが確認されたものはまだない。米国ではユニバーサルインフルエンザワクチン開発用の予算は減額の一途をたどり、2013年に3億ドル近くだったものが、2018年には新たな法律が制定された場合の増加分を入れても2億1500万ドルと見込まれている。実際、米国立アレルギー・感染症研究所で、ユニバーサルワクチン研究に使われた昨年度の研究費は6400万ドルだけだった。だが、インフルエンザ関連の医療費は米国だけで年間104億ドルに達している。インフルエンザの発生病理がもっと詳しく解明されれば、ユニバーサルワクチン設計の成功率はもっと上がるはずである。

ユニバーサルワクチンの開発と臨床試験が成功したとしても、市販できるまでには5〜7年かかると考えられるし、たとえ市販段階に至ったとしても、全く新しい方式のワクチンを世界中に必要なだけ、迅速に供給できるかどうかについては皆目見当がつかない。つまり、広範囲にわたる大規模な投資が今必要なのは、基礎研究とワクチン開発だけではない。ワクチン生産技術の改善、またユニバーサルワクチンがないままパンデミックが到来するという最悪の場合に迅速に対応できるだけのインフラストラクチャーの整備にも投資は必要である。ユニバーサルワクチンの研究・開発への投資に加えて、基礎研究以外への科学的、経済的な投資が共に積極的に行われ、持続されなければ、我々は今後ずっと、インフルエンザに関して後手に回ることになるだろう。

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