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がん治療:PTPN12によって調節される複数の受容体を組み合わせて阻害する手法はトリプルネガティブ乳がんで広く有効となる治療戦略につながる

Nature Medicine 24, 4 doi: 10.1038/nm.4507

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、乳がんの悪性度の高いサブタイプで、毎年20万人以上の女性がこの病気と診断されており、標的療法に不応性である。TNBCでは多数の受容体チロシンキナーゼ(RTK)が過剰活性化されているが、これまでのところ、TNBC患者ではRTK阻害剤の大半で効果が見られない。我々は、負の調節因子PTPN12を共有する受容体群を組み合わせて阻害する方法を基盤として、TNBCに広く有効な治療戦略を開発した。チロシンホスファターゼPTPN12が腫瘍抑制因子であって、TNBCでは不活化されていることが多いことは、我々および我々以外の研究チームがこれまでに明らかにしている。PTPN12は複数のRTKを抑制するため、PTPN12欠損は、多数のRTKの異常活性化やこれらの受容体への共依存につながる。このことから、PTPN12を欠損するTNBCならばRTK阻害剤の組み合わせに応答性となる、という治療仮説が考えられる。しかし、ヒト細胞でPTPN12によって阻害されるRTKのレパートリーは、これまで系統的に調べられていない。今回我々は、PTPN12によって阻害される一連のRTK基質(MET、PDGFRβ、EGFRなど)を組織的に突き止めることによって、RTK阻害剤併用療法を理論付けた。この併用療法はTNBCの異種のモデルにわたって、強力な腫瘍退縮を引き起こす。直交する手法から、PTPN12はリガンド刺激後にこれらの受容体に集められてその働きを阻害し、これによって受容体シグナル伝達を制限するフィードバック機構として機能していることが分かった。がんに関連してPTPN12に生じた変異、あるいはPTPN12タンパク質レベルの低下によりこのフィードバック機構は消失し、これらの受容体の異常な活性化が引き起こされた。PTPN12タンパク質のレベルを回復させると、PDGFRβやMETを含むRTKからのシグナル伝達が阻害され、TNBCの生存が低下した。単剤の場合とは対照的に、PDGFRβおよびMET受容体を標的とする阻害剤との併用は、in vitroおよびin vivoでTNBC細胞にアポトーシスを誘導した。この治療戦略により、化学療法抵抗性の患者由来のTNBCモデルで腫瘍退縮が起こった。治療応答がPTPN12欠損と相関したことから、受容体フィードバックの障害がこれらの原がん遺伝子受容体への複合依存を確立するのかもしれない。まとめると今回のデータは、TNBCなどの受容体活性化変異を持たない悪性腫瘍にRTK阻害剤の併用を適用することの合理性を明らかにしている。

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