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2018年を振り返る

Nature Medicine 24, 12 doi: 10.1038/s41591-018-0293-2

本誌恒例の年末特集の冒頭を飾るのは、今年のニュースを賑わした人々の中から編集部が選んだ「我々を啓発し、真剣に考え込ませた」5人である(p. 1780)。トップは、「教える絶好の機会を最も活用した」ビル・ゲイツで、彼は米国トランプ大統領にHIVとHPVの違いを説明し、それがHIV対策のトップにあたる人物の無知さを世界に知らしめることになった。彼はまた、この機を逃さず、大統領が考えている「ワクチンの悪影響を調査する委員会」の設立も思いとどまらせた。続いて、#MeTooが頻繁に見かけられた今年、科学界の深刻な女性蔑視に対してソーク研究所に対する訴訟を起こした女性研究者たち、個人が自分の遺伝データを売れるようにウェブ市場を創設し、個人のDNAの資本化を助けたネビュラ・ゲノミクス社の共同設立者ジョージ・チャーチ、妊娠合併症を起こすリスクがヨーロッパ系女性よりずっと高いアフリカ系アメリカ人女性として産後のうつや肺塞栓症との闘病について飾らない報告を公表したテニスのスーパースター、セリーナ・ウイリアムズを、我々は選び出した。そして5人目は、「DNAの構造を発見したのは、クリックとワトソンではなく俺だ!」というジョークを飛ばしたポール・マッカートニーである。彼は1960年代にLSDでトリップした際にヒントを得た(!)と語っているが、残念ながら、ワトソンとクリックがDNAの構造を報告したのは1953年である。

Notable advances 2018(p. 1781)では、2018年に発表され、生物医学の進歩に寄与した論文を、老化、感染症、遺伝子治療、マイクロバイオーム、免疫療法といった注目の分野から選び出して研究の経緯と成果を紹介している。今年も、型破りな考え方によって新たな生物学的事象を解明したり、新規な薬剤標的を見つけ出したりした研究が多数発表された。

Timeline of events(p. 1783)では、良くも悪くも大きな話題となった科学界の出来事を月ごとに選び出して要約している。NIHが計画していたアルコール飲用に関する110億円規模の臨床試験が、業界からの資金提供が明るみに出たために中止され、また血液検査ベンチャーのセラノス社が検査の信頼性に対する疑念が高まったことで、ついに解散にいたるなど、2018年は「操業中止」の多い年だったが、そうした騒動の中でも、人工知能(AI)を使って卒中の診断を助ける医療プラットフォームの認可など、新たな進展もいくつか見られた。

Treatments that made headlines in 2018(p. 1785)では、話題になった治療薬やワクチン、CD19 CAR療法のような治療法、また避妊用アプリ(Natural Cycles)や心臓の状態を把握できるApple Watchのようなヘルスケアグッズも取り上げてその現況を解説し、これから青・黄・赤の信号のどれが点灯するかを予想している。今年は、がんのようなよく見られる疾患の治療薬に加えて、βサラセミアやさまざまな型のアミロイド症のような希少疾患の治療薬がいくつか承認された。遺伝子編集技術CRISPRを使った臨床研究は時間がかかっているとはいえ、治療への適用が進んでいるが、その一方で、アルツハイマー病治療薬の開発は依然として難航しており、解決すべき問題が多数残っている。また、患者数の多い偏頭痛の予防薬も承認され、市場の拡大が予想されている。

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