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がん治療:BRAFV600E変異を有するがんでの治療抵抗性の進化を抑える手法の一例

Nature Medicine 23, 8 doi: 10.1038/nm.4369

標的治療を受けた腫瘍の進化を支配する原理については、ほとんど分かっていない。本論文では、ERKキナーゼの直接的阻害薬の単独使用療法、あるいは他のERKシグナル伝達阻害薬との併用療法を受けた患者由来の腫瘍異種移植片(PDX)を使い、BRAFがん遺伝子(BRAFamp)増殖の際の選択と伝播をモデル化した。単一細胞塩基配列解読と多重蛍光in situハイブリダイゼーション解析によって、同じ腫瘍で治療直後に見られた並行進化の軌跡中に、染色体外増殖の出現がマッピングされた。適応度の閾値はサブクローン性集団が治療薬の存在下での適応性を再獲得するために克服しなければならない障壁で、BRAFampの進化的選択はこの閾値によって決定されていた。この値はERKシグナル伝達の阻害薬によって異なることから、単剤を順次投与する療法は有効性が低く、BRAFのコピー数の漸進的増大が選択される。しかし、キナーゼのRAF、MEK、ERKを同時に標的とする並行療法では適応度閾値は十分に高くなり、高レベルのBRAFampを持つサブクローンの増殖が回避された。また薬剤の間欠的投与は、マウスに移植された肺がんやメラノーマのPDX 11例の全てで、明らかな毒性を示すことなく、腫瘍の増殖が抑えられた。従って遺伝子増幅は、並行進化を介して獲得され増加すると考えられ、これによって腫瘍は、腫瘍内部の不均一性を維持しながら、標的治療へ適応することが可能となる。適応度閾値が最大となる治療は、治療抵抗性を生じさせる遺伝子変化の進化を防止する可能性が高く、このような治療は患者での試行に値するだろう。

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