Brief Communication

ヘモグロビン異常症:良性の遺伝的疾患に関連する変異の再現によりβヘモグロビン異常症を治療するというゲノム編集戦略

Nature Medicine 22, 9 doi: 10.1038/nm.4170

ヘモグロビンβサブユニット遺伝子(HBB、βグロビンをコードする)の変異によって引き起こされる疾患は主に鎌状赤血球症(SCD)とβサラセミアであり、これらの疾患は出生後に症状が見られるようになる。それは、胎児期には2つのパラログ遺伝子であるヘモグロビンγ1サブユニット(HBG1)とHBG2からγグロビンが発現されるが、出生後には発現が低下して、成人のβグロビン発現が増加し、その結果として赤血球(RBC)中ヘモグロビンが胎児型(HbFあるいはα2γ2)から成人型(HbAあるいはα2β2)に移行するためである。これらの疾患は、胎児で起こるγグロビン発現が出生後にも維持されていれば軽減される。例えば、良性の遺伝性疾患である遺伝性高胎児ヘモグロビン症(HPFH)では、変異のためにγグロビンからβグロビンへの切り換えが低下することによって、一生を通じて高レベルのHbF発現が維持される。βサラセミアあるいはSCDに関連する遺伝子変異では、HPFHが共に遺伝した場合に臨床症状が軽減される。今回我々は、ヒト血液前駆細胞でCRISPR-Cas9によるゲノム編集を行い、HBG1およびHBG2の遺伝子のプロモーター中に存在する13塩基からなる配列を変異(欠失)させることで、自然に生じるHPFH関連変異を再現した。編集された前駆細胞はHbFレベルが上昇したRBCを産生し、このHbFレベルの上昇はSCDで見られる低酸素誘導性の異常なRBC形態を抑制するのに十分であった。我々の知見はβヘモグロビン異常症のゲノム編集による治療のためのDNA標的候補を明らかにしたものである。

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