血管損傷部位での血小板の活性化は出血阻止に必須
である。しかし、アテローム性動脈硬化斑が破綻し
た部位に過剰に血小板が集積すると動脈血栓が形成
されることがあり、これは急性心筋梗塞や虚血発作
等につながる。レオロジー的な擾乱(大きな剪断応
力)は、血小板のインテグリンαIIbβ3(GPIIb-IIIa)の
接着およびシグナル伝達機能を亢進させるため、動
脈血栓症を助長する重要な要因となる。本研究では、
タイプIAホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)のア
イソフォームp110βが、血小板の剪断応力による活
性化に必要なインテグリンαbIIbβ3の接着結合の形
成とその安定性の制御に重要な役割をもつことを明
らかにする。また今回アイソフォーム選択的に作用
するPI3Kp110β阻害剤を開発したが、これはイン
テグリンαIIbβ3の安定な接着結合の形成を阻止する
ので、形成される血小板血栓に欠陥が生じる。これ
らの阻害剤はin vivoで閉塞性の血栓形成をなくす
が、出血時間の延長は見られない。これらの結果は、
PI3Kp110βが抗血栓治療の重要な新しい標的であ
ることを明らかにしている。
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