インスリン受容体基質1(IRS-1)とIRS-2は、インスリ
ン受容体が発するシグナルを変換し増幅することが
知られている。本論文では、Grb2-associated
binder 1(Gab1)は、IRSタンパク質と構造的に似
ているにもかかわらず、肝臓におけるインスリン作
用を負に調節していることを示す。肝臓特異的に
Gab1をノックアウトしたマウス(LGKO)は、肝臓
におけるインスリン感受性が増強しており、血糖が
低く耐糖能が増大した。LGKOの肝臓では、IRS-1 お
よびIRS-2のチロシンリン酸化レベルが基礎値・イン
スリン刺激後とも上昇しており、これにはAkt/PKB
活性の増強が伴っていた。逆に、インスリンによる
Erk活性化はLGKOの肝臓では抑制されており、IRS-1
のSer612のリン酸化に障害をきたしていた。したが
って、Gab1はErk経路の促進を介して、IRSとAktタ
ンパクの間を流れるインスリンからのシグナルを減
弱させており、これは肝臓でインスリンシグナルの
強度を制御するための新しいバランス機構にあたる。
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