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コムギ:コムギ属の塩基配列決定により得られたコムギの適応進化についての新たな知見

Nature Genetics 52, 12 doi: 10.1038/s41588-020-00722-w

パンコムギは、約1万年の間に、その生育地を「肥沃な三日月地帯」の中心地域から地球規模に拡大させた。この進化における驚くべき成功をもたらした遺伝的メカニズムについては、まだよく分かっていない。コムギ属Triticumとタルホコムギ属Aegilopsに属する25亜種の全ゲノム塩基配列決定を行った結果、パンコムギゲノムの相当な部分(4~32%)が野生種からの複合的な遺伝子侵入によって形成されていることが明らかとなり、そのことがパンコムギの遺伝的多様性を増加させ、さまざまな環境への適応を可能にしていた。一方、人為選択による収斂進化により、ランダムに受け継がれたと仮定した場合の2~16倍に濃縮された遺伝子群もあった。倍数性や生育域が異なるという非常に大きな違いがあるにも関わらず、Triticum属の種において特定の遺伝子群が繰り返し選択されており、これは、人為選択という進化上の制約がパンコムギの適応進化の過程で重要な役割を果たしたことを示している。これらの結果は、世界的作物としてのコムギに欠かせない遺伝的性質を示すとともに、作物の改良のための、種をまたいでの好ましい遺伝的適応の導入について、新たな視点を提供している。

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