Volume 35 Number 3

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特集: RNA治療薬

ZamecnikとStephensonが1979年にアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)による遺伝子サイレンシングを初めて発表して以来、RNA治療薬には創薬の革新が期待されている。RNA治療薬は、特異性と選択性が極めて高いうえに設計、合成、製造が容易であるため、遺伝子発現を変化させたり転写物のスプライシングやプロセシングを変えたりすることのできる新世代製品の開発が活発に行われるようになった。また、細胞内の標的と結合するRNA・DNAアプタマーや、遺伝子をノックダウンする効果が極めて高い低分子干渉RNA(siRNA)などの新たなRNA治療薬の登場により、創薬研究者は、細胞のRNA調節装置を調整するためのさまざまな手段を自由に利用することができるようになった。マイクロRNA/抗マイクロRNA、合成mRNA、そして最近のシングルガイドRNA誘導型CRISPR-Cas9ゲノム編集などがその例である。

これまでに米国の連邦政府関係機関によって承認されているのは、わずか1種類のアプタマーと4種類のASOだけであり、そのうちのエクソンディス51とスピンラザは、ここ6カ月の間に承認されている。効果を高めて副作用を減らす効率的な化学と新たな疾患部位に対応する送達方法の導入によって商業開発は加速しているが、RNA治療薬がバイオ医薬品業界全体で広く採用されるまでには、あと数年かかる可能性が高い(Editorial, p. 181)。

RNA治療薬の大きな課題は、脂質二重層を越える送達であることが分かっている。高電荷のRNA分子は、エンドサイトーシスによって取り込まれるが、エンドソームから出て細胞質や細胞核にある標的部位へ移動することができず、それが大きな障害となっている(Perspective, p. 222)。RNA分子の化学設計は、基本的な化学原理の理解が深まり、それを利用して安定性、特異性、輸送、取り込みの問題が克服されることにより、有効性と安全性の改善に向けて大きな進歩を遂げている(Review, p. 238)。

N-アセチルガラクトサミン複合体が導入されて、ASOもsiRNAも肝臓を標的とすることができるようになったが、数多くの組織と応用先では今なお送達が障害となっている。それでも研究は急速に進展しており、現時点では、脳脊髄液への髄腔内送達によって中枢神経系での治療応用が一定範囲まで広がっている(Review, p. 249)。送達効率の向上にはRNA薬の取り込みに寄与する細胞装置の十分な理解が不可欠であるが、そうした過程の理解は進んでおらず、Crookeらの論文では、このことがASOに関して論じられている(Perspective, p. 230)。

ASOとアプタマーはいずれも実用化された製品が存在するが、バイオ医薬品業界は、今もsiRNA薬の承認を待望している。現在、2種類のsiRNAオリゴヌクレオチドの後期臨床試験が行われており、アルナイラム社(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)のトランスサイレチン型アミロイドーシス薬「パチシラン」に関する極めて重要な試験結果が、2017年の半ばに発表される予定である(News Feature, p. 198)。

合成mRNAを治療薬として用いる可能性は実証されていないが、RNAワクチンの可能性に対する関心は高まっている。病原体や腫瘍のゲノム塩基配列を利用して注射可能なRNAワクチンを開発するという構想は魅力的であるが、抗原探索、製剤、送達といった極めて困難な課題が解決されていない(News Feature, p. 193)。

Editorial

News Feature

RNAワクチンは期待に沿えるか

The 'anti-hype' vaccine p.193

doi: 10.1038/nbt.3812

RISC(リスク)を冒す価値は?

Worth the RISC? p.198

doi: 10.1038/nbt.3810

Perspective

RNA治療薬のための細胞の障壁の突破

Overcoming cellular barriers for RNA therapeutics p.222

doi: 10.1038/nbt.3802

アンチセンスオリゴヌクレオチドの細胞への取り込みおよび輸送

Cellular uptake and trafficking of antisense oligonucleotides p.230

doi: 10.1038/nbt.3779

Review

臨床的に有用なオリゴヌクレオチド治療の化学的進化

The chemical evolution of oligonucleotide therapies of clinical utility p.238

doi: 10.1038/nbt.3765

神経系の障害に対するオリゴヌクレオチド治療

Oligonucleotide therapies for disorders of the nervous system p.249

doi: 10.1038/nbt.3784

News

巨額買収でアリアド社とアクテリオン社の時代に終止符

Billion-dollar deals end eras of Ariad and Actelion p.183

doi: 10.1038/nbt0317-183

USPTO、CRISPR特許がブロード研究所に帰属すると裁定

CRISPR patents belong to Broad, says USPTO p.184

doi: 10.1038/nbt0317-184

バイオテクノロジー企業の役員室に蔓延する形ばかりの男女平等と偏見

Gender tokenism and bias prevail in biotech boardrooms p.185

doi: 10.1038/nbt0317-185

独メルク社、バーテックス社の4つのがん治療薬開発プログラムを獲得

Merck KGaA lands four Vertex cancer programs p.186

doi: 10.1038/nbt0317-186

ソリスロマイシンの承認却下で冷え込む抗生物質業界

Solithromycin rejection chills antibiotic sector p.187

doi: 10.1038/nbt0317-187

トランプ米大統領の指名をバイオ後発薬業界が歓迎

Trump's pick rallies biosimilar makers p.189

doi: 10.1038/nbt0317-189b

バイオジェン社、テクフィデラの特許紛争でフォワード社に支払い

Biogen pays Forward in Tecfidera dispute p.189

doi: 10.1038/nbt0317-189c

セルジーン社、アノキオン社およびデリニア社との取引で「逆ワクチン」に注目

Celgene eyes 'inverse vaccines' in Anokion and Delinia deals p.189

doi: 10.1038/nbt0317-189a

ニューヨークが11.5億ドルのバイオ計画を発表

New York spreads the news with $1.15 billion biotech plan p.191

doi: 10.1038/nbt0317-191

世界の1カ月

Around the world in a month p.192

doi: 10.1038/nbt0317-192

著名人ポッドキャストシリーズ:Stephen Quake

First Rounders podcast: Stephen Quake p.192

doi: 10.1038/nbt.3808

News & Views

Articles

1c型アッシャー症候群マウスモデルの聴覚機能および前庭機能を遺伝子治療で回復させる

Gene therapy restores auditory and vestibular function in a mouse model of Usher syndrome type 1c p.264

doi: 10.1038/nbt.3801

経路非依存性クオラムセンシング回路を用いた遺伝子組換え細菌の代謝フラックスの動的調節

Dynamic regulation of metabolic flux in engineered bacteria using a pathway-independent quorum-sensing circuit p.273

doi: 10.1038/nbt.3796

合成AAVベクターが哺乳類内耳への安全で効率的な遺伝子導入を可能にする

A synthetic AAV vector enables safe and efficient gene transfer to the mammalian inner ear p.280

doi: 10.1038/nbt.3781

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