学術界サバイバル術入門 — 助成金を申請する②
Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210927
申請書を作成する際に、まず何を念頭に置くべきか、第1回で説明しました。今回は、あなたの研究に「資金を提供する価値がある」ことを示す方法をお話しします。
Intpro/iStock/Getty
学術界サバイバル術入門
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「助成金を申請する」第2回へようこそ! 前回は資金配分機関が何を求めているかについて説明しました。読者を念頭に置くことが重要でしたね。また、分野や社会に重要で関連性のある研究を提案することこそ、機関が求めているものであることも強調しました。そこで今回は、あなたの研究がその分野で斬新かつ独創的な重要トピックにフォーカスしていることを確実に示す戦略について説明します。
配分機関は、学術誌の編集者と同じく、斬新さと独創性に興味を持っていますから、あなたの研究が分野に新しい何かをもたらすことを確信したいと思っています。これがなぜ、それほど重要なのでしょうか? 配分機関が助成に使える金額は限られているので、助成金が賢明に使われていることを確信したいわけです。あなたの研究には助成に見合うだけの価値があると配分機関に納得してもらうためには、あなたの研究課題が、その分野で現在分かっていないことや明確になっていないことに取り組むものでなければなりません。そして、あなたがこの分野の最新知識を持っていなければ、それを明確に示すことはできません。
では、どのようにしたら最新知識を維持できるでしょうか? 残念ながら、多くの人が査読済みの公開された研究を読むだけにとどまっています。もちろんこれは重要ですが、最新情報を常に知っておくための3つの重要な方法のうちの1つにすぎません。他の2つとは、現在進行中の研究と将来の研究にアンテナを張っておくことなのです。
1 完了した研究
研究者たちは研究を完了すると、自分の考えを、さまざまな方法で分野の人々と共有します。私たちがおそらく最も馴染みがあるのは査読済み論文の発表で、最も重要な方法でしょう。専門家の査読を経ているため、結果や論文で議論されている考え方により深い信頼を置くことができます。
ヒント 論文を検索するデータベースは1つに限定しないでください。代表的なものにPubMedがありますが、データベースごとに掲載している学術誌が異なりますし、キーワード検索で引っ掛かる論文を特定するためのアルゴリズムも異なります。ですから、「最新の研究を特定できている」と安心するためには、もっと徹底的に、2つまたは3つのデータベースを使用することが肝要です。
ヒント これらのデータベースのもう1つの大きな利点は、検索内容が保存できることです。何度も同じ検索を繰り返す必要はありません。繰り返し検索する代わりに、検索を保存する設定を行えば、あなたのキーワード検索に関連する新しい論文がデータベースに載るたびに、メールで知らせてくれるようになるでしょう。こうすれば、貴重な時間を無駄にすることなく、最新の情報を常に入手できます(2018年7月号「学術界サバイバル術入門 — Training 3:英語論文の読み方」参照)。
ただし、「完了した研究」の情報源は、査読済み論文だけではありません。研究結果をプレプリントサーバーやデータリポジトリで共有する研究者が増えているので、自分の分野に関連するプレプリントサーバーやよく使われるデータリポジトリでも検索を行うことをお勧めします。
ヒント データリポジトリに収められている論文の場合、途中で中止した研究の可能性があります(従って、研究結果は公開されません)。著者らはそのデータを研究コミュニティーで共有したいと考えたのです。ですから、あなたの研究に使用できそうなデータであれば、データの所有者に書面で使用許可を求めることを検討してください。彼らがその研究を公開するつもりがない場合、あなたの研究でそのデータを使うことを許可してくれるかもしれません。そのときは、デジタルオブジェクト識別子(DOI)を使用してそのデータセットを引用し、データ所有者にクレジットを与えるようにしてください。ほとんどの学術誌では、データセットからの引用が許可されています。そうすることであなたは、①研究の完了までにかかる時間を大幅に短縮することや、②追加のデータによりあなたの研究の堅牢性を向上させることができるかもしれません。どちらの場合でも、それはあなたにとって大きなメリットです!
査読済み論文のデータベース、プレプリントサーバー、そしてデータリポジトリを調べておけば、自分のトピックに関連する「完了した研究」に精通していると自信を持つことができます。
名称 | URL | 分野 |
---|---|---|
arXiv | arxiv.org | 物理学、数学、統計学、計算研究、コンピューターサイエンス |
bioRxiv | www.biorxiv.org | 生物学および生物医学研究 |
medRxiv | medrxiv.org | 医学研究および臨床研究 |
chemRxiv | chemrxiv.org | 化学 |
techRxiv | www.techrxiv.org | テクノロジーとエンジニアリングの研究 |
SSRN | www.ssrn.com | 元々は社会科学だったが、現在は学際的 |
リサーチスクエア | www.researchsquare.com | 学際的 |
FigShare | figshare.com | データリポジトリ |
Dryad | datadryad.org | データリポジトリ |
2 進行中の研究
しかし、全ての研究が完了しているわけではありません! もちろん、あなたの考えの独創性に影響を与えるであろう「進行中の研究」もたくさんあります。特に、あなたが助成金申請をする前にその研究が発表されてしまった場合は、影響が大きいです。進行中の研究に精通するための最良の方法は、ネットワークを介すること(自分の分野の人々と、彼らやその他の研究者が現在どんな研究をしているかについて話し合うこと)、そして、研究仲間たちが出版前の研究を発表する学会に参加することです。現在のパンデミックの状況下では、学会の開催ははるかに困難になっていますが、多くの学会がオンライン開催されています。それらも最新の情報を維持する機会となるでしょう。
3 将来の研究
私がこの話……つまり「将来の研究」を特定する方法の話を始めると、たいてい研究者たちは困惑します。気付いていなかっただけで、未来を予測する水晶玉のようなものが存在していたのかと。もちろん、そういうことではありません。しかし、あなたが関心を持つトピックに関連して、将来どんなことが起こるかを予想する方法はあります。
研究課題データベース
科研費にはKAKEN1という研究課題データベースがあります。ここにアクセスして自分のトピックを検索すると、過去の採択課題だけでなく、最近採択されたばかりの課題も見つかります。これらは研究のごく初期の段階であり、学会ではまだ発表されません。あなたが提案しようとしているトピックに類似した採択課題を見つけた場合、あなたの申請が通る可能性は低いとすぐに分かりますね。配分機関に斬新さと独創性を売り込むには、アイデアを練り直す必要があります。例えば、「van der Waals heterostructures(ファンデルワールスヘテロ構造)」をKAKENで検索すると、107件の研究課題がヒットし、2020年に3つ、2021年に1つ採択されていました(2021年8月6日時点2)。最新の4つの研究には注意が必要です。おそらく学会や論文ではまだ発表されたことがないものでしょうから。
ヒント このデータベース検索にはさらに、あなたのトピックとそれに付随する資金に関連するもののうち、どの種目への申請が最も頻繁であったかを確認できるという利点もあります。例えば、上記の検索で、私はさらに興味深い統計結果を見つけました。
- 最も多く採用された申請課題は、新学術領域研究(17)で、特別研究員奨励費(14)、基盤研究AおよびB(各13)がそれに続きました。
- これらの助成金の最も一般的な金額は、100万円から500万円(39件、主に特別研究員奨励費)、1000万円から5000万円(35件)、または1億から5億円(19件)のいずれかでした。
研究助成金を申請する際には、オンラインで入手できる全ての情報を最大限活用してください。
事前登録された報告
医学や社会科学などの分野では、研究を開始する前に、オンラインで自身の研究を事前登録することがよくあります。例えば、医学では、無作為化比較対照試験をWHOが承認した臨床試験レジストリにオンラインで登録する必要があり3、Prosperoなどのデータベースにオンラインで登録するには、体系的レビューが強く推奨されます4。これらも、現在行われている研究についての非常にユニークな手掛かりを与えてくれます。ただし、公開された結果が見られるまでに2、3年待たなければならない場合があります。
まとめ
あなたが申請を準備している、関心を持っているトピックに関連する研究課題に、配分機関が求めている斬新さと独創性があることを確信するには、①完了した研究を共有するデータベースを評価し、②現在進行中の研究について同僚と話し合い、③将来の研究を予測できるデータベースを確認しましょう。これにより、「私は関心のあるトピックに関する最新情報を入手できている」と自信を持つことができます。
次の記事では、助成金申請の要となる「関心を持っているトピックに関連する研究課題」を準備するときの戦略をおさらいします。
次回は、2021年11月号の予定です。
(翻訳:古川奈々子)
ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)
Nature Research Academies 筆頭講師。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。
Nature Research Academies は、科学コミュニケーションの基礎から、よりインパクトの高い発表戦略、研究データの原則や、助成金作成、求人応募、臨床研究方法論ほか、学術界で成功するためのノウハウを提供するワークショップです。
参考文献
- kaken.nii.ac.jp/index
- kaken.nii.ac.jp/search/?kw=van+der+waals+heterostructures
- www.who.int/clinical-trials-registry-platform/network/primary-registries
- www.crd.york.ac.uk/prospero