News in Focus

Nature およびNature 関連誌が 「プランS」に準拠して、オープンアクセス化へ

Credit: Nature

総合科学雑誌Nature などを出版するシュプリンガー・ネイチャーは2020年4月8日、「プランS(Plan S)」と呼ばれる大胆なオープンアクセス(OA)実現計画の規定が変更されたことを受け、非OA誌であるNature およびNature 関連誌を、プランSに準拠させると表明した。なお、論文掲載料(APC)などの詳細については今後も検討を続けるという。

同社の広報担当者によると、出版した論文の即時OAを希望する研究者や、研究資金配分機関からこれを要請されている研究者は、2021年1月以降、一次研究論文をNature およびNature 関連誌にOA形式で出版できるようになる(Nature は、その出版元であるシュプリンガー・ネイチャーと編集上の独立を保っている)。

今回の発表は、同社が発行する中でも特に知名度が高い学術誌をプランSに準拠させる意思を初めて明らかにしたものである。つまり、プランS参加機関から資金を受ける研究者は、今後もこうした学術誌で論文を出版できるようになったことを意味する。これまでシュプリンガー・ネイチャーは、Nature やNature 関連誌でもOA形式での出版を可能にしたい気持ちはあるが、プランSの規定が変更されるまでは従うことはできないと述べていた(2019年5月号「主要学術出版社はプランSをどう見ているか」参照)。

生物医学分野の資金配分機関であるウェルカム財団(英国ロンドン)のオープンリサーチ部門長で、2018年にプランSを策定した資金配分機関の団体「コアリションS(cOAlition S)」の暫定コーディネーターであるRobert Kileyは、「シュプリンガー・ネイチャーが、その学術誌の完全OA化に乗り出したことをうれしく思います」と言う。

しかし、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(米国)の図書館司書Lisa Hinchliffeは、規定の変更は、出版社がプランSとの戦いに勝利し、そのガイドラインを緩和させて期待をしぼませたことを意味すると指摘する。それが最も顕著に出ているのが、ハイブリッド型学術誌と呼ばれるものだ。ハイブリッド型学術誌では、一部の論文はOAだが、他の論文はペイウォールの後ろにある。「コアリションSは当初、ハイブリッド型学術誌を認めない強硬な姿勢で臨んでいました。しかし今回、規定を変更して、ハイブリッド型学術誌に対し徐々にプランSに準拠した形に移行するよう働き掛けを続ける方針に転換したのです」と彼女は言う。

プランSとは何か?

プランSの目標は、科学論文などの学術出版物を、出版と同時に誰もが無料で読めるようにすることにある。コアリションSに参加している機関は、欧州諸国を中心とする17カ国の公的資金配分機関をはじめ、世界保健機関(WHO)、生物医学分野の世界最大の民間助成機関であるビル&メリンダ・ゲイツ財団やウェルカム財団などである。欧州委員会も、プランSに沿ったOA方針の採用を予定している。ある推定によると、プランS参加機関からの資金を受けた論文は、世界の全科学論文の約7%を占めるという。出版情報サービス会社クラリベイト・アナリティクスの2019年の報告書によると、2017年にNature に掲載された論文の35%が、プランS参加機関からの資金を受けたもので あった。

プランSについて簡単に説明すると、プランS参加機関から資金を受けた研究者は、その成果である論文をOA誌に投稿するか、査読済み論文をオンライン上で公開することが義務付けられる。この要請の対象となるのは、遅くとも2021年1月1日以降に募集される、プランS参加機関からの資金を受けた研究に関する論文だが、個々の機関はそれよりも早い時期からこの規則の適用を始めることができ、その方法についても細かい規定がある。プランSが問題視する「完全OA誌以外での出版」については、状況はもっと複雑だ。一時は、完全OA誌ではない学術誌での出版を禁止するとみられたコアリションSだが、規定を変更したり特別な取り決めを結んだりすることで、この条件を徐々に緩和してきたからだ。

2018年11月、コアリションSに参加する資金配分機関が、研究結果をハイブリッド型学術誌においてOA形式で出版することは禁止しないがAPCは負担しないと表明し、この方法での出版は、研究者にとって魅力的ではなくなった。ただし、投稿先のハイブリッド型学術誌を発行する大手出版社が、図書館や大学コンソーシアムと「転換契約(transformative agreement;移行契約とも呼ばれる)」を結んでいる場合は例外である。転換契約は、コンソーシアムなどが出版社に、APCおよび購読にかかる費用を一括で支払い、研究者が論文をOA形式で出版するのを後押しするのが狙いである。現在、多くの出版社がこうした契約に署名しており、この方法での準拠に関するプランSの方針の評価は、2024年に行われる予定だ。

しかし、転換契約は全ての学術誌をカバーしておらず、この契約には影響力の大きい購読型学術誌であるNatureScience は含まれていない。これらの学術誌がOA形式での出版を認めたとしても、完全OA誌ではないため、プランS参加機関は出版費用を支払わない。そこで出版社と資金配分機関は、交渉により「転換ジャーナル(transformative journal)」という新しい準拠カテゴリーを設けた。学術誌がOA形式のコンテンツを段階的に増やしていけば、個別に「転換ジャーナル」として認められるようにしたのだ。

「転換ジャーナル」に関する規定の変更

この1年間、出版社とプランS参加機関は、どのような学術誌を「転換ジャーナル」として認めるかについて議論してきた。出版社との交渉の後、コアリションSが4月8日に発表した規定によれば、学術誌が「転換ジャーナル」として認められるためには、完全OA化に向けて移行中であることを明示する必要があるという。具体的には、OA形式のコンテンツの絶対数を毎年5%ずつ増やし、これが75%を超えたところで完全OA誌に転換する。ただし、コアリションSは「転換ジャーナル」は2024年12月までにOA化を完了しなければならないという条項を削除して、期限を撤廃した。

こうした規定変更を受け、シュプリンガー・ネイチャーは、自社の学術誌をプランSに準拠させることができると表明した。シュプリンガー・ネイチャーの出版・ソリューション部門の最高責任者であるSteven Inchcoombeは、変更された目標は「非常に困難なものですが、私たちはその達成に向けて全力を尽くします」と述べた。この方針は、2024年にコアリションSによる評価を受けるまで維持される。

とはいえ全ての交渉が終わったわけではない。プランSは、学術誌がプランSに準拠していると認められるためには、OAの価格戦略について透明性がなければならないなどの細かい要請をしている。Inchcoombeは、プランSはシュプリンガー・ネイチャーに対してこうした詳細な点を明確にする必要があると言う。ややこしいのは、個々のプランS参加機関がコアリションSの定めるガイドラインから逸脱する可能性があることだ。例えば、英国の主要な資金配分機関で、プランS参加機関の1つであるUKリサーチ・アンド・イノベーション(UKRI)は、ハイブリッド型学術誌での出版に関する方針についてはまだ考慮中であるとしている。

シュプリンガー・ネイチャーがNature やNature 関連誌でのOA出版をどのような形で認めるのか、その費用はどうなるのかなどの詳細は、まだ決まっていない。2020年1月、同社を含む学術出版社8社は、価格設定に関する匿名化した情報を共有できるようにする予備的な研究を立ち上げた。その目的は、コンサルティング会社「インフォメーション・パワー」(Information Power;英国)がコアリションSからの委託を受けて作成した報告書で提案されている「透明性のためのテンプレート」(訳註:資金配分機関や図書館が、出版社のどのような項目に対してどれだけの費用を払っているかを明確にするためのひな型)を試すことにある。その結果は年内に発表される予定だ。

Science を出版する米国科学振興協会(AAAS;米国ワシントンD.C.)は、プランSに従って同協会の非OA誌を「転換ジャーナル」とする計画は持っていないが、別の解決策を模索しているという。著者が、論文が出版されるのと同時に、受理されたバージョンの論文のオンラインリポジトリへの投稿を認めるという方法だ。広報担当者によると、AAASは、2013年からこれを許可しているという。しかしプランSの要請はそれにとどまらず、論文がオープンライセンスの下で共有され、誰でもそれを再配布したり改編したり(例えば翻訳したり再出版したり)できるようにすることを求めている。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 6

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200616

原文

Nature to join open-access Plan S, publisher says
  • Nature (2020-04-09) | DOI: 10.1038/d41586-020-01066-5
  • Richard Van Noorden