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次なる「緑の革命」作物の育種

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2018.181102

原文:Nature (2018-08-15) | doi: 10.1038/d41586-018-05980-7 | ‘Green revolution’ crops bred to slash fertilizer use

Jeremy Rehm

1960年代に「緑の革命」を起こした作物は、高収量だが窒素吸収能が低いために窒素肥料使用量が増加し、環境へ悪影響を及ぼしていた。今回、この「緑の革命」作物の育種によって、高収量を維持しつつ、窒素吸収能の改善に成功したことが報告された。

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植物の窒素吸収能を増強する遺伝子を利用して育種することで、イネやコムギなどの主要作物の収量を維持したまま、施肥量を減らせる可能性があるという論文が、Nature 2018年8月30日号595ページに掲載された1。今回の研究は、世界中の農家の経済的負担を大幅に軽減するとともに、窒素に富む水や土壌が農地から河川や海洋へ流出して起こる環境汚染を抑制するのに役立つ可能性がある。

この研究を行った中国科学院遺伝学発育生物学研究所(北京)の植物遺伝学者Xiangdong Fu(傅向東)らは、1960年代の「緑の革命」で育種された高収量作物に注目した。当時、農業科学者たちは、一般的な作物を、より短稈で倒伏しにくいよう育種することで収量を増大させた。農家は、こうした品種に改良型の灌漑法、強力な農薬、効率的な肥料を組み合わせた。それにより、1961年に7億4100万tだった世界の穀類作物生産量は、1985年には16億2000万tに急増した。

Fuらが示した成果は、緑の革命品種にはまだ改善の余地があることを示していると、カーネギー科学研究所(米国カリフォルニア州スタンフォード)の植物科学者Kathryn Bartonは言う。「緑の革命品種が最終形と考えるのなら、それは誤りです。まだできることはあります」。

というのも、現在の高収量作物には欠点がある。従来型の作物に比べて窒素吸収能が劣るため、栽培には大量の肥料が必要なのだ。世界の農家は2015年だけで、窒素に富む肥料を計約1億400万tも使っている。

緑の革命作物は、従来型作物をより短稈で倒伏しにくいよう育種したものである。これによって収量が増大したが、窒素吸収能が低く、窒素肥料を多く必要とするという欠点があった。今回、Fuらは、緑の革命作物の育種によって、高収量を維持しつつ、窒素吸収率を高くすることに成功した。 | 拡大する

Fuによれば、こうした従来型の農法は農家への経済的負担が大きいだけでなく、環境に有害だという。窒素に富む水が農地から河川や湖沼、海洋に流れ込むと、藻類の異常発生の引き金となり、これによって酸素が消費されて水生生物を窒息させてしまうことがある。「このため、収量が高く施肥量の少ない新しい品種を見つける必要があるのです」とFuは話す。

Fuらはこの問題に取り組むため、緑の革命作物に窒素吸収能不良と短い稈長をもたらした「DELLAタンパク質」という分子の役割を調べることにした。従来型作物では、DELLAタンパク質は、植物の成長を刺激するホルモンによって破壊される。これに対し緑の革命作物では、そのホルモンがあまり産生されなかったり、DELLAタンパク質がその作用を受けなかったりするため、高濃度に蓄積する。

2つのタンパク質の関係

Fuらは、DELLAタンパク質の蓄積を妨げる方法を見つけようとした。彼らはまず、矮性(稈長の短い)イネ36品種のDNAを比較し、各品種の窒素吸収能を調べた。その結果、2つの遺伝子の発現バランスが、窒素の消費を制御していることが突き止められた。DELLAタンパク質をコードする遺伝子と、GRF4(GROWTH-REGULATING FACTOR 4)というタンパク質をコードする遺伝子である。GRF4は、穀粒の大型化と収量の増加にのみ働くとこれまで考えられていた。しかしFuらは今回、GRF4が植物に窒素と炭素の吸収・代謝を促して作物の成長を促進することでDELLAタンパク質に拮抗する役割を持つことを見いだしたのだ。

さらにFuらは、GRF4タンパク質をより高濃度に産生するイネを育種した。得られたイネは短稈かつ高収量で、必要とする窒素は既存の緑の革命品種よりも少なかった。

デラウェア大学(米国ドーバー)の環境基準の専門家Jennifer Volkは、今回の戦略は有望だと言う。彼女によれば、農家は、作物を育てる際に過剰となった栄養素が環境に及ぼす害を和らげるため、湿地を設けて河川に流れ込む過剰な窒素やリンを水生植物に除去させるなど、さまざまな方法を用いているという。「Fuらによる手法をさらに発展させ、作物による栄養素の取り込みをより効果的・効率的なものにすれば、こうした環境保護システムはより強固なものとなるでしょう」。

しかし、カーネギー研究所の環境工学者で、気候変動と水系の栄養素流出との関係を研究しているAnna Michalakは、Fuらの研究結果が持つ意味に関してもっと慎重だ。「高収量をかなえる上に環境にも優しいなんて、事がうまく運び過ぎているように思え、何か見落としているのではないかと考えてしまいます」とMichalakは話す。「これから起こることがすぐに予測できるほど、決して私たちは聡明ではありません」。

そうした意見もあるが、Fuらは現在、特許出願の準備中であり、すでに中国でこうした知見を生かした植物育種計画を開始させている。Fuは、5年もすれば中国国外でもこうした新たな作物品種が見られるようになるだろうと予想している。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Li, S. et al. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-018-0415-5 (2018).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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