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二次元の磁石が誕生!

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170807

原文:Nature (2017-06-07) | doi: 10.1038/nature.2017.22115 | Physicists have finally created a 2D magnet

Katherine Bourzac

原子1個分の厚さのシート状磁石が得られたことで、これまでは不可能だった数々の実験が可能になると期待される。

三ヨウ化クロム(CrI3)の結晶構造。単層シートを上から見た図(左)と横から見た図(右)。灰色がCr、紫色がI、矢印がスピンの向き。 | 拡大する

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2004年にグラフェンの単離が報告されて以来、半導体や絶縁体、超伝導体など、さまざまな物性を持つ新しい二次元(2D)材料が次々と開発・実現されている。ところが、こうした原子1個分の厚さのシート材料群には、ある重要なメンバーが欠けていた。それは、磁石、つまり「強磁性体」である。2D強磁性体は半世紀近く前から探求されてきたにもかかわらず、物理学者たちはこれまで、そうした2D材料が存在し得るかどうかさえ確信が持てずにいた。

そんな中、ワシントン大学(米国シアトル)のオプトエレクトロニクス研究者Xiaodong Xuとマサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の物性物理学者Pablo Jarillo-Herreroの共同研究チームは今回、三ヨウ化クロム(CrI3)の2D結晶が強磁性を示すことを見いだし、Nature 2017年6月8日号270ページで報告した1。これは初めて発見された「真に2D」の強磁性体であり、これまで不可能だったさまざまな実験を可能にするとともに、磁性の基礎理論を検証するためのプラットフォームになると期待される。また、将来的には、新しいデータ記憶デバイスや量子コンピューターの設計につながる可能性もある。

XuとJarillo-Herreroは、もともと別々に2D強磁性体を探求していたが、2016年に顔を合わせたのを機に、2人で力を合わせて研究を進めることに決めたという。「ちょうど考えが一致したのです。この重大な目的をどうしても達成したいという思いがありました」とJarillo-Herreroは説明する。

磁気的な個性

XuとJarillo-Herreroが2D強磁性体の候補として注目したのは、三ヨウ化クロムの結晶だった。三ヨウ化クロムの三次元(3D)結晶は、シートが幾層にも積み重なった構造をしているため、グラフェンの単離さながらに、粘着テープを使ってシートを剥がす「スコッチテープ法」で2D材料を得ることができる。また、三ヨウ化クロムには、有望な磁気特性もいくつか備わっている。

三ヨウ化クロムの3D結晶は強磁性体であり、個々の電子のスピンが全て同じ向きに整列して永久磁場を作っている。さらに三ヨウ化クロム結晶には、電子スピンがシート面に対して垂直方向に優先的に配向する、という固有の磁気異方性がある。こうした基本特性から、三ヨウ化クロム結晶は単一層まで薄くしても強磁性を維持できるのではないかと、XuとJarillo-Herreroは考えた。

今回の共同研究では、まずJarillo-Herreroのグループが三ヨウ化クロム結晶を成長させて剥離し、単層や複数層のシート試料を作製。これらの試料の磁気秩序を、Xuのグループが「磁気光学カー効果顕微鏡」と呼ばれる特殊な顕微鏡を用いて観察した。

その結果、三ヨウ化クロムの単一原子層には強磁性を示す特徴が見られることが明らかになった。また、単層のキュリー温度(それ以上では強磁性が失われる温度)は約−228℃であることが分かった。3D結晶のキュリー温度が約−212℃であることから、単層化による影響はそれほど大きくないことが示唆される。さらに、三ヨウ化クロムの2層結晶では強磁性が抑制されるが、3層結晶では強磁性が復活する、という注目すべき層依存性が見いだされた。Jarillo-Herreroによると、4層結晶では強磁性が維持されるが、別の特性も現れるといい、これについては現在調査中だという。

「真に2D」の強磁性体を求めて

2D強磁性体の研究を行っているのは、Jarillo-HerreroとXuだけではない。彼らの論文が掲載された同じ号のNatureには、別の研究グループが、クロムとゲルマニウムとテルルからなる物質の極めて薄い結晶において強磁性を観測したことを報告している2。しかし、この研究で強磁性が確認されたのは、極薄とはいえ数原子層の結晶であり、「真に2D」、つまり単一原子層での結果は得られていない。

それでも、「いずれの研究成果も意義は大きい」と語るのは、ペンシルベニア州立大学(米国ユニバーシティーパーク)の物性物理学者Nitin Samarthだ。彼は、どちらの研究にも関わっていないが、これら2報に関する解説記事「News & Views」(同号掲載)を執筆している。これらの発見がなされる前は、「真に2Dの強磁性材料を作製する一般的な方法はありませんでした」と彼は言う。研究者たちは、1970年代からずっと極薄の強磁性体の作製と研究を試みてきたが、これまでに得られた単層結晶はどれも穴や突起などがある不完全なもので、「真に2D」とはいえなかった。

物理学者たちが目指すのは、室温で機能する2D強磁性体や、酸素から保護する必要のない2D強磁性体の発見である。そうした2D材料は、家庭用電子機器に使える可能性があるからだ。Jarillo-HerreroとXuは現在、三ヨウ化クロムの2D結晶についてさらなる研究を進める一方で、この化合物と同じ化学族の材料でも2D強磁性体を探索している。

Jarillo-Herreroは、2D強磁性体に2D超伝導体を重ねたらどうなるのか知りたいと話す。強磁性体では、電子スピンが全て同じ方向に整列しているが、超伝導体では、スピンが逆向きのペアを形成して並んでいる。「超伝導体が強磁性を破壊するでしょうか、それとも強磁性体が超伝導を破壊するでしょうか。こうした実験はこれまで不可能でした」。

物理学の観点から見て、今回の成果に根本的に新しい要素があるかどうかは、現段階ではまだ何ともいえないとSamarthは言う。しかし、2D強磁性体を使った実験が可能になった今、物理学者たちは、その答えを見つけるべく意気込んでいる。

(翻訳:藤野正美)

参考文献

  1. Huang, B. et al. Nature 546, 270–273 (2017).
  2. Gong, C. et al. Nature 546, 265–269 (2017).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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