Nature ハイライト

遺伝:トランスポゾンを飼い慣らす

Nature 429, 6989

「動く遺伝子」、すなわちレトロトランスポゾンは自律性の遺伝因子で、ヒトなどの動物ゲノムでかなりの割合を占めている。レトロトランスポゾンは、本物の遺伝子の発現を調節してゲノム全体を「きめ細かく調整」している可能性があり、上手に利用すればバイオテクノロジーの便利な道具として使えるかもしれない。今週号ではこれに関する2本の論文が掲載されている。 1編めの論文で、J S HanたちはヒトDNAの17%を占めるLINE-1(L1)因子に着目した。L1は広く分布してはいるが、その配列は何らかの理由により細胞の遺伝子読みとり装置では完全な複製が難しいため、移動の効率が非常に低くなっている。この奇妙な特性のために、ゲノムのどんな領域においても、L1因子があると遺伝子の発現は抑制される。このことから、HanたちはL1因子の分布によってゲノム全体の活動が調節されているのではないかと考えている。L1因子はゲノムに散らばるがらくたのようにも見えるが、進化の道筋に大きな影響を及ぼしてきたのかもしれない。 2編めの論文でHanとJ D Boekeは、活発な合成L1を作ることによって、L1因子の読みとりにくさを克服する方法を示している。この合成L1因子は、天然のL1因子に比べ200倍も効率的に自己複製し、ゲノム中を動き回る性質をもつ。この性質は、ゲノム操作の有効な手段となるかもしれない。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度