Nature ハイライト

生態:中立説に合わなかったサンゴの分布

Nature 440, 7080

生物多様性の中立説は、生態学において過去数十年の間に出現した説の中で最も刺激的なものと言える。しかし、実際に得られるデータへの適用では、新たな疑問や問題が生じてきている。M Dornelasたちは、インド洋および太平洋の 1万キロメートルにわたる海域のサンゴ分布データについて中立説の予測を検討し、その分布が局所的な環境要因の影響を受けている可能性を示している。  生態学の根本は、生物の分布と存在量の取り扱いである。生物多様性の中立説は、生物の分散に関して生態学的複雑性をいくつかの簡単な法則に帰納させる単純なモデルである。現実のデータに適用した場合に中立説の予測から外れるならば、環境の影響などの混乱を招く因子の重要性がはっきりすると考えられる。  中立説では、群集は類似しないものとなる傾向があり、その不同性は距離と共に増すと予測している。中立説の予測を検証する際には、実際の群集は中立説の予測よりも「同じ」で、世界のどこに行っても、同じようなニッチには同じような種が存在するのだろうと期待しがちである。だが意外にも今回の分析では、サンゴ群集が実際には中立説の予想を超えて場所ごとに異なっていることが明らかにされた。その理由ははっきりしていないが、この結果からサンゴ礁の種の多様性を決定する際に局所的環境要因が重要であることがはっきりしたようだ。サンゴ礁の構造と生物多様性に関する解明が進めば、この壊れやすい生態系を保護する新しい方法の発見に役立つだろう。

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