リサーチハイライト
卵の最適な調理法は周期的加熱
卵黄と卵白をそれぞれ最適な温度で加熱できる調理法が開発された。 Credit: Getty
シミュレーションと実験により、卵の最適な調理法は熱湯とぬるま湯に交互に入れて加熱する方法であることが示された。
卵は主に卵黄と卵白からなるが、卵黄と卵白の成分は異なるため、それぞれを最適に調理するための温度は異なる。卵を割って卵黄と卵白に分け、それぞれを適切な温度で調理すれば問題はないが、そのためには一連の複雑な工程が必要となる。
今回、フェデリコ2世ナポリ大学(イタリア)のEmilia Di Lorenzoらは、卵を割らずに卵黄と卵白をそれぞれ最適な温度で加熱できる調理法を開発した。彼らの調理法では、卵を熱湯に約2分間入れ、その後ぬるま湯に約2分間入れるという工程を、卵黄と卵白の両方が最適な状態になるまで繰り返す。研究チームはシミュレーションと実験により、周期的加熱法で調理した卵は、固茹で卵や半熟卵などよりも食感と栄養価に優れていることを明らかにした。
研究チームは、この周期的加熱の戦略は、調理だけでなく材料工学などの分野にも応用できる可能性があると述べている。
Commun. Eng. 4, 5 (2025).
COVIDワクチンがブレークスルー感染を抑制する仕組み
Credit: Michael Dantas/Contributor/AFP/Getty
新型コロナウイルス感染症(COVID- 19)ワクチンの接種は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染に対する免疫応答の暴走を防ぐのに役立つ。それが、COVIDワクチン接種後にSARS-CoV-2に感染する「ブレイクスルー感染」を単一細胞レベルで分析した結論である。
ワクチン接種には、COVID-19の重症化リスクを低減する保護効果がある。これはしばしば、ワクチンが免疫系の構成要素(抗体やT細胞など)を刺激するからだとされている。スタンフォード大学医学系大学院(米国カリフォルニア州)のLeslie Chanらは、ワクチン接種後に免疫系の構成要素がSARS-CoV-2に応答する仕組みを探るために、軽症または中等症のCOVID-19を発症したワクチン接種済みの人と未接種の人の免疫細胞を比較した。
研究チームは、ワクチン未接種の人の単球とナチュラルキラー細胞という2つの免疫細胞の活性が、接種済みの人よりも高いことを見いだした。これらの細胞の活性を抑えることは、極端な炎症が体を損傷するのを防ぐ方法の1つとなり得る。研究チームは、この傾向には性別による違いがあり、ブレークスルー感染した女性ではこれらの細胞の活性が男性よりも高いことも明らかにした。
Sci. Transl. Med. 17, eadq1086 (2025).
衛星画像が明らかにする熱帯雨林の崩壊
Credit: FG Trade/E+/Getty
ブラジルの大西洋岸森林は危機に瀕しているが、わずか10年の間に膨大な面積が伐採されていたことが明らかになった。主な原因は農業の拡大である。
生物多様性に富む大西洋岸森林(写真)は、元の面積の4分の3以上を失った。ブラジル国立宇宙研究所(サンパウロ)のSilvana Amaralらは、衛星画像と土地記録を用いて、成熟した森林のある地域における2010〜2020年の森林破壊の傾向を分析した。彼らは18万6290 haに及ぶ1万4401件の森林破壊を特定し、そのほとんどが違法であると明らかにした。これは、残存する原生林の1%以上が失われたことを意味する。
研究チームは森林破壊のホットスポットを2カ所特定した。1つは、法執行のためのリソースがほとんどない、貧しい北部地域である。もう1つはパラナ州南部で、こちらは人口密度や経済活動と関連した破壊である。森林破壊のほとんどは私有地で行われていて、開墾された面積の約70%が牧草地や農地、植林地に転換された。
森林破壊を食い止めるには、法の執行、土地保護の強化、私有地所有者へのインセンティブを組み合わせた対策が必要であると、Amaralらは述べている。
Nature Sustain. https://doi.org/g8459b (2025).
生後1カ月の赤ちゃんでもにおいを嗅ぎ分けられる
Credit: Kelvin Murray/Stone/Getty
赤ちゃんの視界は生後8カ月までぼやけているが、においについてはもっと早い時期から嗅ぎ分けられている可能性があることが、このたび明らかになった。
乳児によるにおいの知覚は授乳などの行動において重要な役割を果たしているが、研究者はこれについてほとんど知らない。ローズカレッジ(米国テネシー州メンフィス)のLaura Shanahanらは、赤ちゃんの嗅覚の使い方を理解するために、生後1カ月の乳児12人の睡眠中の脳をスキャンした。研究者らはスキャン中に、バナナやイチゴなどの食欲をそそるにおいか、ガソリンや汗などの不快なにおいを乳児に嗅がせた。
乳児に提示されたさまざまなにおいは、成人の嗅覚と関連する脳領域の活動を引き起こした。平均すると、乳児の脳はガソリンなどのにおいに対して強い活動を示し、汗などのにおいに対する活動は弱かった。成人では異なるカテゴリーのにおいに対してそれぞれ固有の脳活動パターンが見られるが、乳児では提示された全てのにおいに対して同様の脳活動パターンが見られた。
この研究は、新生児がにおいを知覚できることの神経学的証拠であるが、新生児が覚醒時ににおいを処理する仕組みを理解するためにはさらなる研究が必要であり、より多くのにおいをテストすべきであると、著者らは結論付けている。
J. Neurosci. https://doi.org/n38b (2025).
9本の環を持つ記録破りの環状銀河
Credit: NASA, ESA, Imad Pasha (Yale), Pieter van Dokkum (Yale)
星々からなる同心円状の環を9本も持つ銀河が発見された。この発見は、このような環状銀河の形成と進化の仕組みの解明につながる可能性がある。
池に石を投げ込むと、石が水面に衝突した所から円形の波紋が広がってゆく。同様に、小さな銀河が大きな銀河を通り抜けると、波紋のように拡大する環が形成され、衝突環状銀河と呼ばれる構造が生じることがある。この構造を持つ既知の全ての銀河において、環の本数は最大で3本だった。
エール大学(米国コネチカット州ニューヘイブン)のImad Pashaらはこのほど、NASAのハッブル宇宙望遠鏡とハワイのケック望遠鏡を使って、9本の環を持つ衝突環状銀河を発見した。「ブルズアイ(標的の中心)」という愛称を付けられたこの銀河(写真)は、天の川銀河の約5倍の大きさで、隣のアンドロメダ銀河よりも約200倍遠い所にある。
研究者らは、ブルズアイ銀河の環が形成される原因となった小規模な銀河も特定し、銀河同士の衝突は約5000万年前に発生したと推定した。今回望遠鏡が検出した環の位置は、ブルズアイ銀河には当初10本目の環があったが、やがて消滅したとする理論の予測と見事に一致していることが分かった。
Astrophys. J. 980, L3 (2025).
SARS-CoV-2と同じ受容体を利用するコウモリウイルスに「スピルオーバー」のリスク
Credit: Rolf Nussbaumer/imageBROKER/Getty
新たに発見されたコウモリコロナウイルスは、ヒトのCOVID-19を引き起こすSARS-CoV-2と同じ経路でヒトの細胞に侵入するため、ヒトの間でアウトブレイク(集団発生)を引き起こすリスクが高い。
コウモリは多数のコロナウイルスを保有していて、まれにこうしたウイルスがヒトに感染することがある。その場合は、ヒトに感染する前に別の動物を介することが多い。コウモリが起源である可能性が高いウイルスの例としては、SARS-CoV-2や、中東呼吸器症候群(MERS)の原因ウイルスであるMERS-CoVなどがある。
武漢ウイルス研究所(中国)のJing Chenらは、2014年に中国で捕獲されたアブラコウモリ属のコウモリから採取した遺伝物質の塩基配列を解読した。これらのコウモリから単離されたウイルスの1つであるHKU5-CoV-2は、MERS-CoVと関連があり、ACE2受容体というタンパク質を用いて細胞内に侵入する。この受容体は、多くの鳥類やヒトを含む哺乳類の細胞に存在している。HKU5-CoV-2が細胞内への侵入に用いるタンパク質が多くの動物に存在していることは、ヒトへの異種間伝播(スピルオーバー)のリスクがあることを意味する。
SARS-CoV-2と同様、HKU5-CoV-2には、細胞内への侵入を助けるフリン切断部位というアミノ酸配列がある。このウイルスは、ヒトの腸と気道の3D細胞モデルに感染するが、SARS-CoV-2ほど容易にはヒト細胞に侵入しないと、Chenらは指摘している。
Cell https://doi.org/g85k32 (2025).
貝殻ビーズで装飾した衣装で埋葬された銅器時代の高位の女性
Credit: Antonio Acedo García, courtesy of Research Group ATLAS, University of Sevilla
スペイン南西部の4800年前の埋葬地から27万個ものビーズが発掘された。ビーズはこの場所に埋葬された高位の女性たちの衣装を飾っていたもので、これほど大量に発見されたのは初めてである。
2007年、セビリア近郊の大規模な考古学遺跡を発掘していた研究者らが、複数の人骨が埋葬された墓を発見した。そのほとんどが女性だった。一部の女性は、数千個の極小なビーズ(写真)をあしらったチュニックやスカートを身に着けた姿で埋葬されていた。ビーズの重量から、研究者はその総数を27万個以上と推定している。
ほとんど全てのビーズが、地元で採れるザルガイやホタテガイなどの貝殻から作られていた。研究者らは、これだけの量のビーズを作るには、10人が1日8時間ずつ作業をしても7カ月近くかかり、使った貝殻の量は1トン近くに上ったと見積もっている。
研究者らは、この衣装は、埋葬された女性たちが高い地位にあったことを反映していて、銅器時代のイベリア半島の宗教的・政治的指導者であった可能性もあると考えている。
Sci. Adv. 11, eadp1917 (2025).
遺伝子編集で作物にサプリを産生させる
陸上植物の進化を丹念に分析した結果、人気の抗酸化サプリメントを産生する農作物を作り出す方法が明らかになった。
補酵素Qは、細胞内のエネルギー産生装置であるミトコンドリアが正常に機能するために不可欠な分子であり、一部の人は、心臓の健康を増進するためにこれをサプリメントとして摂取している。中国科学院(上海)のJing-Jing Xuらは、67科134種の陸上植物における補酵素Qの生合成を調べた。その結果、コムギやイネを含む多くの作物種が補酵素Qの一種であるCoQ9を産生していることが分かった。その他の一部の植物やヒトは、CoQ10という別のタイプの補酵素Qを産生している。
研究チームは、補酵素Qの合成に関与するCoq1という植物タンパク質の塩基配列を分析し、どのタイプの補酵素Qを産生するかを決定する塩基配列中の領域が、進化の過程でどのように変化しているかを追跡した。彼らは次に、プライム編集と呼ばれる遺伝子編集技術を用いて、コムギとイネのCoq1タンパク質を微調整してCoQ10を産生するようにした。この結果は、植物の進化史から、科学者が有用作物の形質を操作するためのヒントが得られる可能性があることを示している。
Cell https://doi.org/n6wc (2025).
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 5
DOI: 10.1038/ndigest.2025.250502
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