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有毒な黄色の色素を生成する深海の蠕虫

マリアナイトエラゴカイ(Paralvinella hessleri)は外皮にヒ素の微粒子を蓄積させている。 Credit: Wang et al./PLoS Biol (CC BY 4.0)

雄黄は、芸術家が古来より19世紀まで用いていた鮮やかだが有毒な鉱物だ。このたび、深海の熱水噴出孔に生息する鮮やかな黄色の蠕虫が、この雄黄を作り出していることが明らかになった。これは動物としては初めての例であり、この知見は2025年8月26日にPLoS Biologyに報告された(H. Wang et al. PLoS Biol. 23, e3003291; 2025)。

マリアナイトエラゴカイ(Paralvinella hessleri)というこの蠕虫は、西太平洋の沖縄トラフにある深海の熱水噴出孔の最も高温域に生息する唯一の生物である。海底から噴出する高温で鉱物に富む水には、有毒な硫化物とヒ素が高濃度で含まれている。

研究チームは、この蠕虫が、外皮の細胞に加え、内部器官の上皮細胞内にもヒ素の微粒子を蓄積することを見いだした。こうして蓄積したヒ素の微粒子が熱水噴出孔由来の硫化物と反応して雄黄の小さな塊を形成することで、この蠕虫を有毒な環境から保護する微細な鎧(よろい)を作り出している。

雄黄は天然に生じる硫化ヒ素(As2S3)を主成分とする鉱物で、熱水鉱床やマグマ鉱床によく見られる。

これらの知見は、研究チームにとって驚きだった。今回の研究の筆頭著者である中国科学院海洋研究所(青島)の深海生物学者Hao Wang(王昊)によると、深海では、生物は完全な暗闇の中で暮らしており、体色は通常、灰白色か、オレンジ色~暗赤色であるという。「真っ暗闇の中で色素を作っても意味がありません」とWang。

マリアナイトエラゴカイは意図的に、自らの細胞内で、複数の毒素をまとめて単一の『安全な』鉱物結晶にしているのかもしれません

未知の機構

ヒ素がどのようにしてこの蠕虫の内部器官に輸送されるのか、研究チームはまだ解明できていない。

他の深海生物も、防御のための鎧として鉱物を産生することが知られている。例えば、スケーリーフットとも呼ばれるウロコフネタマガイ(Chrysomallon squamiferum)では、共生細菌の代謝過程で生じた硫化物が、鱗へ運ばれて、鱗における細胞外バイオミネラリゼーションを通じて無毒化され、硫化鉄の鎧が生じると、グリーンランド天然資源研究所(GINR、ヌーク)の海洋研究者Narissa Baxは説明する。

「マリアナイトエラゴカイは意図的に、自らの細胞内で、複数の毒素をまとめて単一の『安全な』鉱物結晶にしているのかもしれません」とBaxは言う。このように毒をもって毒を制す能力は注目に値すると、彼女は付け加える。

しかし、彼女によると、深海の噴出孔という極限の条件であること、自然環境外でこのような種を調べるのが困難なことから、雄黄が生じる仕組みを確認するためのさらなる研究は難しいという。現時点では、マリアナイトエラゴカイを実験室環境で培養することはできないのだ。

翻訳:三谷祐貴子

Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2025.251214

原文

This deep-sea worm creates a toxic yellow pigment found in Rembrandt and Cézanne paintings
  • Nature (2025-08-28) | DOI: 10.1038/d41586-025-02771-9
  • Mohana Basu