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度重なる熱波への曝露は老化を促進し得る

体が極端な高温にさらされるほど、生物学的老化は加速する。 Credit: Patricia de Melo Moreira/AFP via Getty

極端な高温事象に長期間さらされると、体の老化過程が加速し、健康問題に対する脆弱(ぜいじゃく)性が高まることが、台湾の2万4922人を対象とした長期研究で示された。

2025年8月25日にNature Climate Changeに掲載されたこの研究1は、熱波への累積曝露がやや増えると、ヒトの生物学的年齢は上昇し、その影響の大きさは日常的な喫煙やアルコール摂取に匹敵することを示唆している。極端な高温事象にさらされる回数が増えるほど、器官の老化も進行していた。これは、極端な高温が体に目に見えない影響を及ぼし、生物学的時計の進みを加速させる可能性があることを示す最新の研究結果である。

特に長期間にわたる極端な高温への曝露は器官に負担をかけ、致死的となることもあるが(2024年11月号「人間はどこまでの暑さに耐えられるのか」)、「熱波が私たちの老化を促すという事実は驚きです」と、マッコーリー大学(オーストラリア・シドニー)の環境保健科学者で、この研究には関与していないPaul Beggsは述べる。「この研究は、気候変動がもたらす健康への悪影響に対して、我々が皆脆弱であると注意を喚起するものであり、温室効果ガス排出量を緊急かつ大幅に削減すべきという声を高めるものです」と彼は付け加える。

一見するとこの数字は小さく見えるかもしれませんが、長期間かつ異なる集団にわたって見た場合、この影響は公衆衛生上、重要な意味を持つ可能性があります

老化の加速

生物学的年齢は、単に時間の経過で決まるものではない。以前の研究では、環境ストレス、社会的ストレス、遺伝的要因、医療介入など、さまざまな要因が老化に関連する生理学的変化の兆候と関連付けられてきた。これにより、心血管疾患、がん、糖尿病、認知症のリスクが高まる2

熱波が老化に及ぼす長期的な影響を研究するため、研究チームは2008年から2022年にかけての医療検査データを分析した。この期間、台湾は約30回の熱波に見舞われた(今回の研究では、熱波を「数日間にわたって高温が続いた場合」と定義している)。著者らは、肝機能、肺機能、腎機能、血圧、炎症などを評価した複数の医療検査の結果を用いて生物学的年齢を算出し、次にこの生物学的年齢を、受診前の2年間に居住していた住所に基づいて参加者が曝露したと推定される累積気温と比較した。

その結果、極端な高温事象を多く経験した人ほど老化が早まることが判明した。参加者がさらされた気温が1.3℃上昇するごとに、参加者の生物学的年齢は平均で約0.023~0.031年増加したのである。

「一見するとこの数字は小さく見えるかもしれませんが、長期間かつ異なる集団にわたって見た場合、この影響は公衆衛生上、重要な意味を持つ可能性があります」と、この研究を率いた香港大学(中国)の環境疫学者Cui Guoは言う。

健康への影響が最も大きいのは、肉体労働者と農村部に住む人々であった。こうした人々はエアコンを利用できる環境にないことが多いためだろう。しかし、予想外に良い側面も見られた。15年の研究期間中に、熱波が老化に及ぼす影響は減少することが観察されたのである。この暑熱順応の理由は明らかでないが、冷房技術を使用しやすい環境になったことが一因かもしれないとGuoは述べている。

それでも、「高温は老化速度をわずかに加速するものであり、こうした影響はできるだけ避けたいというのが、この研究から得られるメッセージです」と、ヘルムホルツセンターミュンヘン(ドイツ)の環境疫学者で、この研究には関与していないAlexandra Schneiderは言う。

科学者らは、気候変動により致死的な熱波の発生確率が30倍に高まっていると推定している。 Credit: Perry Svensson/Alamy

2023年にドイツで行われた研究では、気温の高さは、老化のエピジェネティックマーカーの増加と関連していることが明らかになった3。また、米国の3600人以上の高齢者を対象とした研究でも、DNAマーカーの分析から、極端な高温が参加者の早期老化を促すと結論付けられている4(2025年3月号「熱ストレス後に人体の老化『時計』が早まる」参照)。

今回の最新の研究は、生涯にわたって健康被害をもたらす可能性が高い長期的な高温曝露の影響に着目している。気候変動が極端な高温事象の増加につながっているため、これは重要な意味を持つ。米国では、2010年の時点で年間平均6回の熱波が発生しており、1960年代の年間平均2回から大きく増加している。科学者らは、気候変動によって、2022年にパキスタンとインドで見られたような致死的な熱波(気温が50℃に達する事象)の発生確率が30倍に高まっていると推定している。

熱波の頻度が増加していて、それが健康に及ぼす影響を踏まえると、弱い立場にある人々を守ることの重要性は明らかだとGuoは述べる。「熱波は個人のリスク要因ではなく、世界的な懸念です」。

翻訳:古川奈々子

Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2025.251207

原文

Repeated heatwaves can age you as much as smoking or drinking
  • Nature (2025-08-26) | DOI: 10.1038/d41586-025-02729-x
  • Freda Kreie

参考文献

  1. Chen, S. et al. Nature Clim. Change https://doi.org/10.1038/s41558-025-02407-w (2025).

  2. Gao, X. et al. QJM 117, 257–268 (2024).
  3. Ni, W. et al. Environ. Int. 178, 108109 (2023).
  4. Choi, E. Y. & Ailshire, J. A. Sci. Adv. 11, eadr0616 (2025).