Research Highlights

がんナノ技術:T細胞の磁気駆動

Nature Nanotechnology 2018, 118 doi: 10.1038/s41565-017-0055-1

養子T細胞移入は、患者からT細胞を抽出し、生体外で増殖して活性化し、体内に再注入して腫瘍を標的にするがん免疫療法の戦略である。生体外で処理している間に、T細胞は、抗原提示細胞(APC)にさらされるとがんバイオマーカーを認識するよう訓練され、腫瘍を認識して殺す抗原特異的細胞傷害性T細胞(CTL)に再プログラムされる。しかし、天然APCの利用はT細胞刺激の精密な制御を阻害するため、再現性が低下し、CTLの生存率が低くなることが多い。

今回、Zhangたちは、アジドで修飾した脂質を含む白血球膜で被覆した磁性酸化鉄ナノクラスターからなる人工APCを設計し作製している。この人工APCによって、特定のT細胞刺激部分による機能化に役立つクリックケミストリーハンドルが得られる。さらに、この白血球膜は、このナノクラスターに生体適合性を与えるとともに、T細胞とのより優れた相互作用を可能にする流体皮膜も与える。著者たちは、可溶性抗体を用いた活性化と比べて、今回の人工APCによって、T細胞がより効率よく増殖し、細胞毒性が増大することを示している。さらに、このAPC–CTL複合体は、動物への静脈注射で生存し得るほど十分に安定しており、その磁性を活用して、APC–CTLを腫瘍に特異的に誘導し、MRIを用いて組織内の分布を画像化できることも示されている。磁気的に誘導されたAPC–CTL複合体の送達によって、CTLのみを与えられた対照群やAPC–CTL複合体を与えられたが磁気誘導を行っていない対照群と比べて、腫瘍の増殖が弱まり、副作用が軽くなり、動物の生存率が高くなった。

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