Research press release

抗がん技術

Nature Biotechnology

高深度配列解読法、一細胞プロファイル解析、腫瘍破壊性ウイルス、T細胞養子免疫療法といった技術の進歩が、がんの診断法と治療法に活力を与えている。今月号では、有望な新技術を概観し、がん研究の積年の課題が克服されるかどうかを探る。

最大の課題は、腫瘍が生物学的に複雑で変幻自在な点である。さまざまながんの不均質性の程度に関する理解が深まってきた[News & Views, p. 620]ことで、試験的な治療法と診断法の設計に対するアプローチが練り直されている[Feature, p. 604]。最先端ツールによる一細胞解析では、単一腫瘍内の点変異、融合、部分的重複、コピー数多型、後生的異常の多様性が明らかにされている。ただし、そうした方法では一細胞レベルで全ゲノム塩基配列が解析されず、高度なデータ解釈法の導入が必要となろう[Review, p. 639]。とはいえ、末梢血の循環腫瘍細胞(CTC)は採取可能で、次世代捕捉装置を用いて少数のCTCを調べることでがんの特性が非侵襲的に解析されるようになりつつある[News Feature, p. 578]。

ヒト腫瘍の性質をモデル化した動物の作製も課題である。既存のマウス腫瘍モデルが不十分なことは、臨床試験の成功率の低さが示している。腫瘍微環境を標的とする薬剤に関する最近の臨床試験結果とそれに対応する前臨床試験との比較から、マウスモデルの実験の予測能力を向上させる方法が示唆された[Review, p. 648]。

臨床では新しい治療法が有望な結果を示している。近年、T細胞養子免疫療法が進歩したが、腫瘍の免疫生物学的性質には未解明の部分があるため、この治療法の潜在能力がすぐに生かされる可能性は低い[Feature, p. 611]。腫瘍破壊性ウイルスは、ウイルスと患者の免疫応答の複合作用によって腫瘍細胞を死滅させると考えられる。現在、転移性黒色腫患者への腫瘍破壊性単純ヘルペスウイルスの腫瘍内注射に関して第III相試験が行われている一方、腫瘍への静脈内投与と腫瘍内増殖という課題を克服して腫瘍破壊性ウイルスを増強する研究も行われている[Review, p. 658]。6月には、タキサンとハーセプチンの投与を受けたHER2陽性の局所進行性乳がんや転移性乳がんの女性の無進行生存率がトラスツズマブ・エムタンシンで大幅に改善されたことが発表され、免疫複合体が注目された。昨年は、抗微小管薬アウリスタチンをCD30発現細胞に送達する抗体薬物複合体アドセトリス(ブレンツキシマブ ベドチン)が米食品医薬品局の迅速承認を受けている [Perspective, p. 631]。

腫瘍の性質に関する最近の研究成果を受け、新規創薬標的の探索は、発がんシグナル伝達経路以外の領域にも広がった。腫瘍細胞の増殖と転移を促進する代謝過程の調節不全、とりわけ特定の酵素アイソフォームと自食作用関連酵素を標的とすることが、新たな方針として注目されている[Review, p. 671]。同時に、有用な治療標的や診断標的となる可能性のあるヒストンメチルトランスフェラーゼの範囲が前臨床研究で広げられつつある[News & Views, p. 622]。

さらに、治療法に対する腫瘍の耐性を解決するために新たな方法の開発が進められている。この課題への取り組みは、システム生物学研究の成果に基づく合理的な多剤併用療法によって行われる可能性が高い[Review, p. 679]。承認薬や試験薬を組み合わせる場合は、現在のヒトでの試験方法と適応治験でのバイオマーカーの使用をある程度見直す必要があろう[Commentary, p. 596; Editorial, p. 567; Patent Table, p. 619]。また、治療法を選ぶ際の参考にするために、がん患者別の遺伝的特性を知るための研究が、営利企業でも進められているが、最も臨床的に有用な解析法は不明である[News Feature, p. 581]。これに加え、見落とされていた種類のがんの臨床橋渡し研究を支援するための新たな資金調達モデルも、新たな治療法の臨床導入を推進している[Commentary, p. 600]。

doi: 10.1038/nbt.2293

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