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欧州の研究助成金を巡る競争が激化

科学者は、研究助成金の調達において、厳しい競争に直面している。 Credit: Guillaume Souvant/AFP via Getty

近年、欧州の代表的な研究助成金の採択率(助成金が交付される割合)が低下していて、中には一桁台まで落ち込んでいるものもある。急増する申請件数が、用意された予算をはるかに上回っているからだ。Natureが収集したデータは、研究者、特に学者としてのキャリアを歩み始めたばかりの若手研究者が、研究キャリアを追求する上でますます激しい競争にさらされていることを示している(「資金を巡る競争」参照)。

欧州委員会は2025年9月に、欧州連合(EU)の研究・イノベーション枠組みプログラムが同年に受けた助成申請の件数は、プログラムの40年の歴史で最多となったと発表した。

2025年のマリー・スクウォドフスカ=キュリー・アクションズ(MSCA)ポスドクフェローシップには1万7000件を超える申請があり、2024年に比べて約65%の増加であった。MSCAの予算案には4億430万ユーロ(約731億円)が計上されていて、1650件前後のプロジェクトを支援する予定だが、2024年に約17%だった採択率は10%を下回る見込みである。

基礎研究を支援する欧州有数の資金配分機関である欧州研究会議(ERC)も、その各種プログラムへの申請が急増中だと報告している。例えば、博士号を取得して2~7年の若手研究者を対象とするスターティング助成金(ERC Starting Grant)への申請件数は、既に2024年に比べて13%多くなっている。2024年の採択率は14%であったが、2025年は12%に低下すると予想されている。

実績のある研究者を支援するERCのアドバンスト助成金(ERC Advanced Grant)への申請件数も増加しており、2024年比で31%、2023年比で82%も多くなっている。しかし採択されるのは276件(8%)と推定されていて、2024年の11%からさらに低下する見込みである。

ERCの会長であるMaria Leptinは、「私たちは、ERCの助成金への需要の高さを非常に喜ばしく思っています。基礎科学やフロンティア科学のアイデアが存在していて、助成金へのニーズがあり、強く求められていることの証拠であるからです」と語る。「一方で、私たちの資金には限りがあります。その結果、採択率は低下し、研究コミュニティーには不満が生じることになるでしょう」。

欧州分子生物学機構(EMBO)のポスドクフェローシッププログラムの責任者であるKarin Dumstreiは、2025年の申請件数は「歴史的」な多さだったと言う。

その結果、多くの研究者が、ますます競争が激化する学術システムにとどまるために争うようになっている。ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(UCL、英国)の認知神経科学者のChristina Carlisiは、「どれだけ努力しても、結局は申請件数や採択枠といった数字の問題です。運次第なのです」と言う。彼女は2025年の助成金への申請を続けていて、大きな負担を感じている。「ほとんどが自分のコントロールの及ばないところにあるという事実が、モチベーションを維持することを困難にしていると思います」。

落ち込み続ける採択率

申請件数の増加は、欧州各国の国家レベルの資金配分機関でも起きている。ドイツ最大の独立系研究資金配分機関であるドイツ研究振興協会(DFG)はNatureに、若手研究者向けの助成金への2025年1月から8月までの申請件数は、2024年の同時期に比べて20%多かったと語った。また、ドイツのもう1つの主要な資金配分機関であるアレクサンダー・フォン・フンボルト財団が2025年1月から10月末までにポスドクから受け取った申請件数は、前年の同じ時期に比べて少なくとも20%増加している。同財団の代表者はNatureに対し、この増加分のうち大きな部分を占めているのはインドと中国からの申請で、米国からの申請も、これほどではないものの増加していると語った。

英国の主要な研究資金配分機関であるUKリサーチ・アンド・イノベーション(UKRI)が2025年に発表した報告書によると、同機構に寄せられた助成金申請の件数は、2017〜2018年度に比べてほぼ倍増しているという。しかしながら、同じ期間の採択率は2017〜2018年度の36%から2024〜2025年度の19%へとほぼ半減し、過去10年間で最低となった。UKRIの英国医学研究会議(MRC)がNatureに提供したデータによれば、同会議の2つの助成プログラムで、2025年の申請件数が2020年以降で最多となっている。

スウェーデン研究会議はNatureに対し、この3年で申請件数が大幅に増加したと認めた。一方、ノルウェー研究会議は、大きな変化は見られないとしている。

欧州での競争

研究者や資金配分機関の担当者は、申請が急増した要因を特定するには時期尚早だと言う。しかしながら米国の研究者らは、科学予算の削減と政治的な不安定さを理由に、欧州で職を探すようになってきている。米国の学者は、欧州の機関で研究を行うことを条件に、EUの助成金を申請することができるからだ。米国でキャリアを築いた欧州出身の科学者が、帰国する機会を模索している可能性もある。

MSCAプログラムのデータは、1万7058件の申請の大半(1万5820件)がEUの加盟国と研究・イノベーション枠組みプログラムの関連国からのものだったことを示している。ちなみに英国からの申請は21%を占めていた。残る1238件の申請は、EUの旗艦研究プログラムと提携していない48カ国からのもので、その半数近くが米国の研究者からものだった。

アダム・ミツキェヴィチ大学(ポーランド・ポズナン)の学術キャリア研究者であるMarek Kwiekは、採択率の低下について、「全く満足できる状況ではありません。くじ引きに近い場合さえあるからです」と述べる。「科学は極端に競争的になっています」。

Carlisiは、「本当に気が滅入ります」と言う。「素晴らしい人々が素晴らしい申請書を提出しているのに、それを支える資金が全く足りていないのです」。

資金調達への圧力

資金獲得競争の激化に伴い、助成金を確保することは、科学を進歩させるための手段から、自分が科学界に留まるための手段へと変質しつつある(S. Meirmans Sci. Eng. Ethics 30, 6; 2024)。研究者にとって国・地域・国際機関からの外部資金は、研究室の運営だけでなく自分の雇用を維持するための基盤となっている。「大学の資金はますます圧迫されています」とCarlisiは言う。「外部資金がなければ、実質的に何もできません。給料は出ますが、それだけなのです」。

Kwiekは、機関の基盤となる予算を回復すれば、研究者はもっと持続可能で長期的な研究を行えるようになると主張する。もう1つの問題は、一部の申請者が、助成制度で定義されたキャリア段階のはざまに取り残されてしまうケースがあることだ。Carlisiは、こうした研究者を支援するために、資金配分機関が応募資格の範囲を調整したり、的を絞ったプログラムを導入したりすることを提案している。

欧州委員会は、2028年に始まる次期の研究・イノベーション枠組みプログラムにおいて、研究プログラムへの支出をほぼ倍増させることを提案している。Leptinはこの動きについて「問題に対処する上で、良い一歩となるでしょう」と述べている。この予算が承認されれば、ERCやMSCAなどのプログラムに440億ユーロ(約8兆円)が割り当てられることになる。Leptinは、「それがどのように運用されるかは、現時点ではまだ不明です」と言い、ERCの助成金は2007年以来、インフレ調整が行われていないと指摘する。

研究者らはまた、予算が増えたとしても、申請に伴うコストを削減する方法や資源の配分を最適化する方法について議論する必要があるだろうと述べている。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 23 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2026.260113

原文

Is academic research becoming too competitive? Nature examines the data
  • Nature (2025-10-17) | DOI: 10.1038/d41586-025-03119-z
  • Miryam Naddaf