Editorial

質の高い学生指導が博士課程学生の満足度を高める

今回の調査に回答した多くの学生は、博士課程での研究を楽しんでおり、充実感を感じていた。 Credit: Getty

博士課程の満足度に最も大きく寄与する要因とは何か。生活賃金を上回る額の奨学金か、労働時間が予測可能とまではいかなくても自分でコントロールできることか、仲間意識が強くて互いに協力し合うメンバーからなるチームなのか。これらは、いずれも重要な要因であるが、満たされないことが多い。もう1つ、大事なことなのだが、見過ごされることの多い要因がある。それは、助けになってくれる学生指導だ。

3700人以上の博士課程の学生を対象としたNatureの2025年の世界的な調査で、学生のサポーター、メンターとして意識的に努力している指導教員の方が、学生の満足度が高いという結果が得られた(nature.com/articles/d41586-025-03346-4参照)。この調査は、回答者が自らの経験を自己報告した内容に基づいており、「指導教員との接触時間が週1時間未満」と回答した者が全体の約半数だった。この回答群では、博士課程に満足している(「どちらかと言えば満足している」を含む)と回答したのは約69%であった。これに対して、「指導教員との接触時間が週1時間以上」と回答した群では、博士課程に満足している学生の割合は約82%であった。

この調査結果は、博士課程の学生のウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること)が指導教員による指導とどのように関連しているかを示した研究結果(L. Tikkanen et al. High. Educ. https://doi.org/p9zq; 2024)と同じ方向性を示している。また、この調査では、調査対象となった国々の一部で、研究システムの運営責任者が好機を逸していることが明らかになっている。

例えば、英国とドイツでは、指導教員との接触時間が週に1時間未満だった回答者の割合は、それぞれ61%と60%だった。これに対して、インドでは、1時間以上とした回答者が60%を占めた。2025年の調査で最も満足度が高かった回答者は、ブラジル(83%)とオーストラリア(82%)の学生で、指導教員との関係全般に対する満足度が非常に高かった学生が50%近くに上った。これは世界平均の36%を大きく上回る。この2つの国の博士課程の学生は、指導教員との関係をオープンでお互いを尊重し合える関係と説明し、指導教員については、離れた所から評価を下す者ではなく、共同研究者と認識していた。

研究機関においても、効果的な指導を行った研究グループリーダーを表彰する制度が必要だ

相互に有益な関係

ブラジルとオーストラリアの学生の経験は、指導教員がきめ細かな指導を行うことで、学生のやる気と業績がどれほど高まるのかを示している。指導教員にとっては、前途有望な研究者が燃え尽き症候群になったり、幻滅したりという事情で研究をやめてしまう事態を防ぐことが、学生と積極的に関わるという方法を採用する十分な動機となるはずだ。そして、その恩恵は指導教員も得ることができる。全米アカデミーズが2019年に発表した、科学分野のメンターシップに関する報告書では、自分の学生のために時間を費やす指導教員は、そうしない指導教員と比べて、協力的なメンバーからなる集団を率いる傾向が強く、将来的にも優秀な学生を集めることができると指摘している(go.nature.com/47e6xfk)。学術界のメンタリングの質に関する2022年の総説論文(S. E. M. Hill et al. J. Clin. Psychol. Med. Settings 29, 557–569; 2022)をはじめとして、他の研究でも、学生と密接に関わる指導教員は、新しい技術を学んだり、新たな分野を発見したりすることで恩恵を得て、知的な充電の機会になっていると感じることが多いと報告されている。

主な懸念事項

Natureの調査は、学生の指導に関連したより暗い部分、つまり、いじめとハラスメントにも鋭く切り込んでいる。何らかの形での差別やハラスメントを経験したことがある回答者は、全体の約43%を占め、最も多かったのが、いじめ、あるいは広義の虐待だった。懸念すべきなのは、いじめ事例の約4割は、学生が自分の指導教員によるいじめを報告した事例だったことだ。これらの回答者のうち、報復を恐れずにそのような行為を報告できると感じていた回答者は全体のわずか28%だった。

大学は、もう一段踏み込んで、学生を指導する時間を説明責任の問題として扱うことができる。また、研究機関においても、研究グループリーダーに対して、どのようにすれば良き上司になれるのかという研修を行い、効果的な指導を行った者を表彰する制度が必要だ。表彰制度は、実績ある方法の1つであり、Natureはこの制度を全面的に支持する。「Nature Award for Mentoring in Science」は、2025年に20年目を迎える。ちょうど候補者リストが発表されたところであり、12月に2025年の受賞者が発表される(go.nature.com/4o6mvsm参照)。

既に実績のある研究者の中には、上司による指導をほとんど受けずに輝かしいキャリアを築いたと語り、自分たちにできたことは、現世代の研究者にもできるはずだと指摘する者がいる。しかし、現代の研究は高度に学際的であり、共同作業を伴うことが多い。また、キャリア初期の科学者の雇用は往々にして不安定である。今回の調査では、回答者の約41%が、論文を発表しなければならないというプレッシャーを主な懸念事項として挙げており、自分たちが受けたキャリア指導に満足している回答者は、全体の半数程度だった。こうした事柄全てが、指導による支援の強化が必要な理由となっている。

博士課程進学を考えている人にどのようなアドバイスをするか、という質問に対して、最も多かった回答(20%)は、適切な指導教員あるいはメンターを見つけてほしいということだった(nature.com/articles/d41586-025-03229-8参照)。質の高い学生指導と学生のウェルビーイングや成績との間の関係を考えれば、この回答は驚くに当たらない。「研究者として、そして、ある程度は1人の人間としても、あなたが気に入り、あなたと気の合う指導教員を必ず選ぶように努力してください」と1人の回答者は記していた。

研究グループリーダーは、現代の学術界には長時間の会話をする余裕がないと感じているかもしれない。しかし、短い時間でも定期的に顔を合わせることで、変化が生まれることがあるのだ。時間をかけて学生が問題を解決するのを助けたり、単にプロジェクトの進捗状況を尋ねたりすれば、何らかの利益が得られる。また、小さな問題が、大きな問題になる前に発見でき、結果的に時間の節約につながる。

質の高い指導には、研究分野の知識と共に、好奇心、共感力、頼りがい(学生が必要としているときにそばにいてくれること)が必要とされる。これらは、優れた研究を生み出すために必要な資質の一部でもある。次世代の科学者と過ごす時間は投資なのだ。研究チームが高度な訓練を積んだスタッフ(短期契約に基づいていることが多い)に依存しているという環境下では、質の高い指導には相当な見返りが期待される。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 23 No. 1

DOI: 10.1038/ndigest.2026.260105

原文

What makes PhD students happy? Good supervision
  • Nature (2025-10-22) | DOI: 10.1038/d41586-025-03416-7