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免疫系の制御機構を解明した科学者らにノーベル生理学・医学賞

Fred Ramsdell、Mary Brunkow、坂口志文は、制御性T細胞という免疫細胞を発見した。 Credit: F. Ramsdell, Institute for Systems Biology, Michaela Rihova/CTK Photo/Alamy

2025年のノーベル生理学・医学賞は、体が自身の組織を攻撃するのを防ぐ免疫細胞の一種を発見した、3人の科学者に授与されることが決まった。

システムズ生物学研究所(米国ワシントン州シアトル)の分子生物学者Mary Brunkow、ソノマ・バイオセラピューティクス社(米国ワシントン州シアトル)の科学顧問Fred Ramsdell、大阪大学(大阪府吹田市)の免疫学者 坂口志文(さかぐち・しもん)の3氏が、「末梢性免疫寛容に関する発見」に対して1100万スウェーデンクローナ(約1億8000万円)の賞金を分け合う。

カロリンスカ研究所(スウェーデン・ストックホルム)のリウマチ専門医で、ノーベル委員会の委員を務めるMarie Wahren-Herleniusは受賞者決定の記者会見で、「免疫系がどのように調節されているかについての基礎的知見を提供しました」と述べた。彼らの発見は「あらゆる微生物と闘いながらも自己免疫疾患を回避できるよう、免疫系を制御する仕組み」の解明に寄与している。

この発見は、現在臨床開発の初期段階にある自己免疫疾患治療法の開発につながったと、以前、Ramsdellと一緒に研究を行っていたこともある、グレイウルフ・セラピューティクス社(英国オックスフォード)の免疫学者Samantha Bucktroutは言う。

「これら初期の発見、そして彼らが開拓したこの分野がなければ、治療法について議論できる現在の段階には決して到達できなかったでしょう」とBucktroutは話す。1型糖尿病、関節炎、多発性硬化症のような自己免疫疾患の罹患率は、およそ10人に1人である1

T細胞と呼ばれる白血球の一種は、感染細胞やがん細胞を攻撃することで、体の免疫系において重要な役割を果たす。ところが1995年、坂口らは、これまで知られていなかったサブタイプを発見し、制御性T細胞(Treg細胞)と名付けた(2017年10月号「制御性T細胞研究とともに歩む」参照)2。このまれな細胞は、免疫系の過剰反応を防ぐための重要なブレーキとして働く。BucktroutはTreg細胞を精鋭警察部隊に例える。T細胞全体のわずか1~2%を占めるに過ぎないが、極めて効果的に「全員の秩序を保つ」のだ。免疫応答が起きている現場に到着すると、「全てのことを終わらせるのです」とBucktroutは話す。「あらゆるものをきれいにし、炎症をとても効果的に鎮めます」。

坂口は、Treg細胞を欠くマウスが甲状腺や膵臓などの臓器の自己免疫疾患を発症すること、Treg細胞を含む溶液を投与すれば疾患の進行を阻止できることを示した。免疫系に組み込まれたブレーキ機構の存在は、数十年前から推測されていたが、証明できていなかった。坂口の発見により初めてTreg細胞を分離して研究できるようになり、他の研究チームも、免疫抑制の特性が異なるTreg細胞サブタイプを次々と突き止めた。

その後2001年になってBrunkowとRamsdellが、Foxp3遺伝子の変異がマウスに致死的な自己免疫疾患を引き起こすことを発見した3。さらにヒトにおいて相当する遺伝子の変異が、まれな遺伝性自己免疫疾患を引き起こすことも明らかにした4。「変異を正確に特定するのは、本当に分子レベルでの骨の折れる作業でした。というのも、ごく小さな遺伝子の変化が免疫系に甚大な影響をもたらすからです」と、Brunkowは受賞発表直後の電話インタビューで語った。「多くの頭脳が協力して取り組む必要があるのです」。

2003年には坂口らによる追跡研究で、Foxp3はTreg細胞に特異的に発現し、その分化に必須であることが示された5

ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(UCL、英国)の免疫学者であるAnne Pesenackerは、この研究は「多くの疾患に対する私たちの見方を根本から変え、今もなお変え続けています」と語る。Treg細胞の発見とそれを特定するマーカーは「自己免疫疾患の理解に大いに貢献しました。この制御機能を強化できないか検討を始めています」。

有望な新しい治療法

T細胞の走査型電子顕微鏡像。「制御性T細胞」は、免疫系の過剰反応を防ぐための重要なブレーキとして働く。 Credit: BSIP/Contributor/Universal Images Group/Getty

いくつかの研究で、1型糖尿病、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、多発性硬化症などの自己免疫疾患のある患者は、血中のTreg細胞が極端に少ないか、正常に機能していないことが多いと分かっている。マウスで行われた初期の実験ですら、Treg細胞がこうした疾患の治療法として有望であることを示していたとPesenackerは言う。

イーライリリー社(米国インディアナ州インディアナポリス)を含む大手製薬企業は、Treg細胞の産生を促進する薬剤の開発に投資している。現在、1型糖尿病、自己免疫性肝炎、移植片対宿主病の治療を支援する治療法が臨床試験の段階にある。

ソノマ・バイオセラピューティクス社は2024年、関節リウマチ、または痛みを伴う腫瘤が皮下にできる慢性疾患を有する成人を対象に、2種類の薬剤を試験する2つの臨床試験を開始した。薬剤は試験参加者の自己由来のTreg細胞を用いて製造された。

ノーベル委員会の委員を務めるカロリンスカ研究所の生物学者Rickard Sandbergは授賞発表の場で、「これらの手法が、Treg細胞を刺激する上で有効であり、それによって自己免疫疾患の抑制の助けとなること、あるいは免疫系が移植臓器を拒絶する能力を弱めて臓器移植の問題が軽減されることを期待しています」と述べた。

翻訳:藤山与一

Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2025.251218

原文

Medicine Nobel goes to scientists who revealed secrets of immune system ‘regulation’
  • Nature (2025-10-06) | DOI: 10.1038/d41586-025-03193-3

参考文献

  1. Conrad, N. et al. Lancet 401, 1878–1890 (2023).
  2. Sakaguchi, S., Sakaguchi, N., Asano, M., Itoh, M. & Toda, M. J. Immunol 155, 1151–1164 (1995).
  3. Brunkow, M. E. et al. Nature Genet. 27, 68–73 (2001).
  4. Wildin, R. S. et al. Nature Genet. 27, 18–20 (2001).
  5. Hori, S., Nomura, T. & Sakaguchi, S. Science 299, 1057–1061 (2003).