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学術界サバイバル術入門 — 助成金を申請する⑤:申請書を仕上げる

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220530

ここまで、研究提案の練り方と申請書への書き方について説明してきました。今回は「助成金を申請する」シリーズの最終回です。申請書を完成させましょう!

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学術界サバイバル術入門
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効果的な科研費の申請書(研究計画調書)の書き方は、これが最終回です! 前回までに、要約、背景、研究の目的と重要性、期待される成果など、研究提案の大部分について説明しました。今回は申請書の残りの部分の書き方についてお話しします。効果的な申請書作成戦略に関連する、重要な問題にも焦点を当てます。

まず、申請書の残りのセクション、つまり、研究提案につながった研究の開発経緯と、研究遂行能力をどのようにまとめるか、説明します。

研究提案につながったこれまでの研究開発

助成金配分機関は、あなたが提案のアイデアを思い付いた過程を知りたがっています。つまり、あなたが論理的根拠と戦略を強調することができれば、あなたへの信頼や信用を確立する助けになるわけです。

例えば、他の誰かから得たアイデアを提案すれば、助成金配分機関はあなたに対し「そのトピックに関連する専門知識に明るくない」という印象を持つ可能性があります。となると、その研究を遂行するのにふさわしくないと思われるかもしれません。研究提案のアイデアを思い付いた過程を示すことで、それに関連する「専門知識を持っている」と明確に示すことができます。助成金配分機関はリスクの低い投資を求めていることを忘れないでください。信頼を確立することは、あなたが適任者であることを示す早道となります。

では、申請書の作成に戻りましょう。「本研究の着想に至った経緯」の説明は1ページの長さに収め、次の3つのパートで構成します。

  • 研究提案の構想
  • 関連する傾向と研究の位置付け
  • 提案の準備状況と実行可能性

小見出しを効果的に使用して、このセクションを審査員に分かりやく書き上げることをお勧めします。

研究提案の構想

1つの段落で、研究のアイデアをどのように思い付いたかを説明しましょう。大事なのは、信頼と信用を確立することなのですから、申請書で提案する研究のアイデアにつながった、以前のあなたの研究について必ず論じてください。あなたの以前の研究と現在の提案をつなぐ明確な道筋が見えれば、あなたがそのトピックに精通していることが読者に分かります。また、トピックに強い関心を持っていて、それをさらに深く追求したいという意欲に満ちていることも示せます。主観的な言葉で、このトピックがあなたにとって重要であることを表現すると良いでしょう。新興企業に投資する側なら、その企業の経営者たちにモチベーションがあるか、熱意を持ってプロジェクトに取り組もうとしているかを知りたいですよね?

関連する傾向と研究の位置付け

ここでは、第1段落であなたが提案するトピックが、現在日本および世界中でどのように探求されているかを述べます。国内の観点では、資金は日本に住む納税者から得たものであるため、助成金配分機関は日本に利益があることを確認したいと考えています。グローバルな観点では、トピックへの関心が広ければ広いほど、評判の良い学術誌で発表することができ、この分野に影響を与える可能性が高くなることを助成金配分機関は知っています。ですから、この段落では、この2つの要素のバランスを取るようにしましょう。ただし、これらの傾向について述べるときには注意も必要です。あなたが提案する研究のトピックに関して、研究がほとんど行われていない場合、現在その分野ではこのトピックに関心が持たれていないという懸念が出てきます。つまり、研究の論文発表が難しいと考えられます。一方、現在そのトピックについて行われている研究が多過ぎる場合は、あなたが提案している研究の独創性または新規性が疑われます。これもまた、研究の論文発表を困難にします! ですから、論じる際にはバランスも必要なのです。このトピックを熟知している同僚と話し合うと、申請を成功させる方法について、ヒントが得られるかもしれません。

研究提案の準備状況と実行可能性

このセクションの最後の段落では、提案した研究の準備のために「既に行ったこと」を説明してください。これに関連するのは、提案した技術の訓練、必要な設備とリソースの確保、そして、既にあなたが得ている予備的な結果などです。予備的な結果は特に重要で、研究計画の実行可能性を裏付けるのに役立ちます。これによって、あなたが適切な専門知識を持っていること、そして研究の目標が現実的であることを助成金配分機関に示せます。多くの研究者にとって、予備的な結果を出すことは、助成金申請の準備段階において最も重要なことの1つです。ただし、前の段落と同様に、適切なバランスが必要です。まず、提案の信頼性と実行可能性を確立するために十分な証拠を提示しなければなりません。一方、証拠が多過ぎると、研究計画を完了するためにこれ以上の資金は必要ないと受け取られてしまいかねません。繰り返しになりますが、同僚と話し合って、申請のためのベストなバランスを決めることをお勧めします。

あなたが持っている技術や利用できるリソース、予備的な結果は、申請内容に説得力を与えてくれます。手技のほか、使用経験のある機器や設備を示すことを忘れないでください。 | 拡大する

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研究遂行能力

科研費の申請書のこのセクションでは、2ページを使って、提案した研究の信頼性と実行可能性をさらに明確に示してください。そのために、このセクションは2つのパートに分かれています。

  • 申請者のこれまでの研究活動
  • 研究環境

申請者のこれまでの研究活動

助成金配分機関はリスクの低い投資を求めているので、研究成果を上げるために必要な専門知識を持っていることを確認したいと切実に考えています。ですから、出版物や特許といったそれを裏付ける証拠と共に、提案された研究に関連する過去の成果を必ず説明してください。科研費申請では、以前は、応募者は全ての発表論文を列挙していましたが、2019年以降、申請する研究に直接関連するもののみの提示が求められるようになりました。

研究環境

助成金配分機関は、あなたの専門知識に加えて、申請された研究を効果的に遂行するために必要な機器や設備が使用可能かどうかを確認したいと考えています。ですから、そうした機器や設備を使った経験があることを示すと共に、あなたの研究施設で利用できるリソースを必ず説明してください。これらのリソースを扱った経験が少ない場合は、所属機関で訓練や支援を得られることを説明するといいでしょう。しかし、他の応募者との競争になることを考えると、これは大きなマイナス要因になる可能性があります。

執筆のヒント

1. 使用可能なスペースを全て使う

科研費申請書が1つのセクションに1ページを与えている場合は、そのスペースをできるだけ多く使用してください。そうしないと、「トピックに関する知識が不足しているために、これだけしか書けない」と受け取られてしまうかもしれません。申請した研究を遂行する能力があるという信頼と信用を勝ち得ようとしていることを忘れないでください。画像やモデルの使用も検討できます。一般に、人は視覚に頼りがちです。誰かに文書とモデルを見せると、文書を読む前に、まずモデルに目が行きます。ですから、複雑な概念やアイデアの場合、視覚的にモデルを見せ、そこに説明文を付けると非常に効果的です。これは、分野は同じでもあなたのトピックに関連するテーマの専門知識を持っていない審査員には特に重要です。

2. 読者を念頭に置く

審査員は短時間で多くの申請書を読まなければならないことを忘れないでください。審査員はできるだけ早く簡単にあなたの申請書に目を通したいと思っています。そこで、文章は短めにして、複雑な専門用語はなるべく避けます。読みやすい十分な大きさのフォント(11ポイントなど)を使用することもお勧めします。フォントが小さいと、1ページにより多くのテキストを詰め込むことができますが、審査員にとって読みにくくなってしまう可能性もあります。多くの審査員は長年にわたってキャリアを積み上げてきた人たちなので、少々年齢が高いかもしれません。年配の人なら誰もが知っているように、小さな文字を読むのは大変なのです!

3. 重要な用語やアイデアを強調する

読者の注意を引くには、特定のアイデアや単語を目立たせると効果的です。それにうってつけなのが太字のフォントです。イタリック体は、遺伝子名や種名など、イタリック体で書かれることが多い科学用語と混同される可能性があるため、避けた方がいいでしょう。また、強調のためにテキストに下線を引くのもやめましょう。多くの人はコンピューターの画面で下線が引かれている箇所を見つけると、ついカーソルをそこに移動してクリックし、Webリンクかどうかを確認しようとしてしまいます。なので、申請書でテキストを強調するには太字を使うのが一番いいのです。

4. 余白を有効活用

画廊では、絵画はぴったり並べて壁にかけられているのではなく、スペースを空けて配置されていますよね。それは余白のためです。余白は、絵画を一枚ずつ際立たせて、観覧者が一度に1つの絵画を集中的に見られるようにする、という役割を果たします。あなたの申請書でも同じ戦略を使いましょう。下の2つの例を比較してみてください。左のページと右のページ、どちらが見やすいですか?

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ほとんどの人は左と言うでしょう。なぜでしょう?

各段落は余白で囲まれているため、読者は一度に1つの段落に集中できます。これを利用して、申請書を読みやすくしましょう。整理すると、以下のようなことに気を付けるとよいわけです。

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このシリーズの最後の記事を締めくくる前に、もう1つ重要な点を強調しておきます。あなたの申請が採択されなくても、諦めないでください! 毎年、申請の約70%が不成功に終わっているのです。受け取った基準とフィードバックに基づいて、なぜ選択されなかったかを考えてください。申請が通った同僚と話すのも役に立ちます。活発な議論とフィードバックを通じて来年の申請をより良いものにし、成功の確率を高めてください!

そして、あなたの申請が採択されたら、さあ、後は研究にまい進するのみです。年次進捗報告と、助成期間が終了したときの最終報告で、助成金配分機関に最新の成果を逐次知らせる必要があります。論文発表や特許によって成果を上げれば上げるほど、あなたが「ローリスク・ハイリターン」の投資先であることを助成金配分機関に示せます。そして、これはあなたが次の助成金申請を行うときに有利に働き、採択の可能性をさらに高めるのです。

次の申請での幸運を祈ります!

次回は、2022年7月号の予定です。

(翻訳:古川奈々子)

ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)

Nature Research Academies 筆頭講師。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。


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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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