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学術界サバイバル術入門 — 助成金を申請する③: 研究課題の準備(後編)

Nature ダイジェスト Vol. 19 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2022.220134

前回は、研究課題を明確に確立するために、新規性と関連性を検討し、練り上げました。今回は、確立した研究課題に付随する「目的」を練り上げていきましょう。

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学術界サバイバル術入門
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前編で説明した過程を踏んで研究課題が明確に確立できたら、文献やデータベースに戻って研究課題の独創性を再確認しておきましょう。まだ誰もこの課題を研究していないと確信できますか? 誰も手を付けていないことが分かったら、目的の決定に取り掛かります。

目的

目的を書く際には、あなたが適切な専門知識とリソースを持っていることをアピールするために、次に示すSMARTを念頭に置きましょう。SMARTとは次の5つの言葉の頭字語です。

Specific(特定性)
Measurable(測定可能性)
Achievable(達成可能性)
Realistic(現実性)
Timely(適時性)

Specific(特定性)

目的の照準が絞られていることを確認する必要があります。目的を照準の絞られたものにするために役立つ戦略は、変数結果試料という3つの重要な要素を考慮することです。変数(独立変数と呼ばれることもあります)は、あなたが研究の対象としているものです。上記の研究課題でいえば、「ナノポーラス膜」ということになります。一般的な変数として、材料/デバイス、タンパク質、介入、戦略、またはモデルなどがあります。結果は、その研究で測定されるものです(従属変数と呼ばれることもあります)。上記の研究課題では、「廃水からの重金属の除去」ということになるでしょう。そして、試料はこれらの測定が行われる場所です。この例では、「日本の都市部」になりますが、場所のほか、人や動物/組織、資料やデータベースの場合もあります。あなたの目的の中の変数、結果、および試料が、あなたの研究課題で特定されたこれらの要因と一致することを必ず確認してください。

Measurable(測定可能性)

実際にデータを取得して分析するために利用可能な方法は、あなたの結果に関連しているでしょうか? 本当に興味深い結果があって、あなたはそれを検討したいと考えているかもしれませんが、そのための適切な手法がない場合は、それは実行可能なゴールではありません。従って、選択した結果が、標準化された最新の手法で確実に得られることを確認しておくとよいでしょう。ただし、適切な手法がなくても、あなたに新しい適切な手法を開発する専門知識がある場合には、それによって申請のインパクトと独自性を大幅に向上させることができます! けれども、審査委員を納得させるためには、申請の際に十分な予備的証拠を示してこの新しい手法の有効性を実証する必要があります。

Achievable(達成可能性)

研究を実施するために必要な専門知識を持っていますか? これは、審査委員にとって重要な懸念事項です。そうです、これは対処するべき非常に重要な問題かもしれません……しかし、それに対処するのはあなたですよね? 申請者にその分野の専門知識がほとんどないのに課題に取り組もうとする提案があり、審査委員がそれについて不満を述べているのをよく聞きます。専門知識は、該当する研究者の所属/学位および論文発表歴に基づいて評価されることが多いものです。あなたの履歴では提案している研究を実施するのに十分な専門知識を持っていることを裏付けられないと不安に感じるなら、そのような専門知識を持つ人を共同研究者にすることが重要でしょう。これにより、提案が大幅に強化され、採択の可能性が高まります。

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Realistic(現実性)

上記と同じく、研究を実施するためのリソース/設備を持っていますか? リソースとは、機器、設備、および予算などです。機器や設備に関しては、必要なものがない場合、このようなリソースにアクセスできる研究チームと協力して、提案に対する信頼性を高めることを検討する必要があります。しかし、予算も審査委員にとって特に大きい関心事です。あなたが500万円の予算を要求しているとしましょう。研究を完了するには少なくとも1000万円必要だと審査委員が考える場合、その提案が採用される可能性は低いでしょう。採択の可能性を高めるには、要求する予算が現実的なものでなければなりません。

Timely(適時性)

最後に、申請する助成金ごとに研究期間が定められていますが、設定された期間内にあなたは研究を完了することができますか? 目的が実に印象的な研究をときどき見かけますが、実際の研究には助成金の期間よりもはるかに長い時間がかかる場合があります。ほとんどの科研費助成金の期限は5年であることを忘れないでください。ですから、その期間内に研究を完了することが期待されるのです。試料の取得、データの収集(特に縦断研究)、新しい人員のトレーニング、さらには所属する教育機関において研究以外の責務にかかる時間を必ず考慮してください。

SMARTに基づいて目的を決定したら、必ず同僚と話し合ってフィードバックをもらってください。彼らは、あなたの専門知識とあなたが申請している助成金の両方の観点から、目的の照準が絞られ実行可能であることに同意しますか? 一般に、研究者たちは、申請書を書く前に、目的の焦点と実現可能性を改善するために、数回の修正を行います。

目的を準備するときに避けるべきこと

明確な目的のない「探り出し」的研究。これは目的に変数や結果が明確に定義されていない場合を指します。つまり、この研究で何を評価または測定するかが分かっていないことを示唆しており、審査において信頼性に大きな影響を与えます。上記の研究課題の例を使用すると、「探り出し」的な目的は次のようなものです。

「この研究の目的は、日本の都市部の廃水から重金属汚染を除去する方法を調べることである」。この目的には変数がなく、著者はこの目標を達成する方法が分かっていないことが伺えます。審査委員は、この研究に関連するリスクについて強い懸念を感じ、積極的に採択を推奨しようとは思わないでしょう。

「この研究では、日本の都市部の廃水処理におけるナノポーラス膜の特性を評価する」。この目的には明確な結果がなく、どの特性を評価することが重要であるかを著者が分かっていないことを示唆しています。この目的には大きなリスクも伴いますから、採択の可能性は低くなるでしょう。

先入観のある目的。これは著者が結果を既に決めてしまっている目的であり、研究計画がそれを達成するためにゆがめられている可能性があることを示唆しています。以下は、先入観のある目的の例です。

「この研究では、日本の都市部の廃水から重金属汚染を除去する上で、ナノポーラス膜が従来の膜よりも効果的であることを実証する」。

ナノポーラス膜がまだ評価されていない場合(私たちは今回、そのように仮定して研究課題を練り上げていますから)、ナノポーラス膜が従来の膜よりも効果的であると、著者はどのように推測できるのでしょうか? これは、著者が既にデータを取得していて、そのデータに適合するように目的を書いていることを示唆しています。これをHARK(hypothesizing after the results are known;結果が分かってから仮説を立てる)といい1,2、倫理に反していると考えられます。あるいは、著者たちはナノポーラス膜に有利になるような実験計画を立てている可能性もあります。いずれの場合も、これにより誤った結果が得られる可能性が高まりますから、再現性と分野への関連性が低くなります。

では、確立した私たちの研究課題に対する良い目的とはどんなものでしょうか? ここまで説明してきたことを組み込むと、次のようになります。

「この研究の目的は、ナノポーラス膜の表面改質により、日本の主要都市部の廃水から工業用重金属を除去する能力を向上させることができるかどうかを判断することである」

この目的は照準が絞られており、研究者の専門知識(表面改質)に基づいたものであるため信頼性と新規性が確立され、さらに、産業界と社会の両方に幅広いインパクトを与える強力な波及効果を持ちます。

この情報が、あなたの申請の基礎となる、インパクトのある研究課題と実行可能な目的を決定するのに役立つことを願っています。次回は、申請書提出の準備をするときに、あなたが計画している研究に、審査委員を論理的に導く方法について説明します。

次回は、2022年3月号の予定です。

(翻訳:古川奈々子)

ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)

Nature Research Academies 筆頭講師。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。


Nature Research Academies は、科学コミュニケーションの基礎から、よりインパクトの高い発表戦略、研究データの原則や、助成金作成、求人応募、臨床研究方法論ほか、学術界で成功するためのノウハウを提供するワークショップです。

参考文献

  1. Kerr, N.L. Personality and Social Psychology Review. 2, 196–217 (1988).
  2. https://www.natureindex.com/news-blog/the-seven-deadly-sins-of-research

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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