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質量90ミリグラムの重力場を検出

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210632

原文:Nature (2021-03-11) | doi: 10.1038/d41586-021-00591-1 | Ultra-weak gravitational field detected

Christian Rothleitner

ニュートンの重力の法則は、2つの質量が約90mgと小さくても成り立っていることが実験で分かった。量子力学的な領域に入るほど弱い重力場の測定に一歩近づいた。

英国の科学者ヘンリー・キャベンディッシュが1798年に重力定数を決定するために用いたねじりばかりの48分の1の模型。 | 拡大する

SSPL/Getty Images

物理学では4種類の基本的な力があることが分かっている。弱い相互作用、強い相互作用、電磁気力、重力だ。重力は、この4つの中で最も弱い。このため、また、地球の重力を遮って実験を行うことはできないため、試験物体の重力場を実験室で測定することは、数kgの質量を持つ物体であっても難しい。オーストリア科学アカデミー量子光学・量子情報学研究所(IQOQI;ウィーン)のTobias Westphalらは今回、約90mgしかない2つの質量間の重力結合を検出し、Nature 2021年3月11日号225ページで報告した1

弱い相互作用、強い相互作用、電磁相互作用は、物理学の標準模型で統一して理解されている。しかし、重力をこの模型に統合することはできていない。重力を記述する、既にある最も良いモデルは一般相対性理論だ。一般相対性理論は、これまでのところ、いかなるテストにも合格しているが、おかしなところがある。一般相対性理論は、量子力学の言葉で説明することができないからだ。

たいていの科学的目的では、重力を説明するのに一般相対性理論を使う必要はない。アイザック・ニュートン(Isaac Newton)の万有引力の法則で完全に事足りる2。ニュートンの法則は1687年に発表され、2つの物体間の重力による引力は、それらの質量に比例し、それらの間の距離の2乗に反比例すると主張する。この法則は、ほとんどの天文学観測を記述するのに正確なだけではなく、実験室実験でも正確であることが分かっている。例えば、自由落下する物体(木から落ちるリンゴなど)の軌道は、1億分の1よりも良い精度で測定でき3、その結果はニュートンの法則で予想される軌道とよく一致する。

しかし20世紀になって、この法則が常に正しいのか、という疑いが生じた。1930年代初めに銀河の星の異常な速度分布が観測され4、この現象はニュートンの法則だけでは説明できなかった5。一般相対性理論でもこの現象は説明できない。1つの説明は、暗黒物質の存在を仮定することだ6。暗黒物質は、目に見えないけれども重力相互作用をする宇宙の成分だが、暗黒物質が何からできているのかは誰も知らない。

もう1つの説明は、ニュートンの重力の法則は修正が必要だ、というものだ。この説明は物議を醸すものだが、既存のモデルに統合するのは暗黒物質よりも易しい。そうした修正を試みる1つの理論が1980年代に提案され、修正ニュートン力学と呼ばれている7。この理論の基礎は、重力場の強さ(重力による加速)は、大きな距離ではニュートンの逆2乗則に従わないということだ。

さらなる謎は、重力が電磁気力よりも約36桁も弱いことだ。これは階層性問題と呼ばれる8

超弦理論と呼ばれる枠組みは、一部には、重力を量子理論的に記述するために開発されたものだが、階層性問題については、空間次元は私たちが観測できる3つよりも多いのだと提案する。重力は、他の3つの基本的な力と異なり、これらの余剰次元を伝わるとされる。もしそれが正しければ、なぜ重力が電磁気力よりもこれほど弱いのかを説明できるかもしれない9。この仮定のもう1つの結果は、ある距離以下では、重力はニュートンの逆2乗則では記述できないということだ。

重力のもう1つの奇妙な点は、ニュートンの重力定数(G、重力効果の計算に使われる基礎定数)の独立した測定結果の変動が大きいということだ10。ボルツマン定数11や光速12など、他の基礎定数の実験的決定結果は、測定の数と精度が増すにつれて収束してきた。しかし、Gについてはそうではなかった。

Westphalらの実験により、私たちは重力の謎の解明に一歩近づいたのかもしれない。彼らは、小さなねじりばかり(トーションバランス)を使って重力を調べた。ねじりばかりは、1798年に英国の科学者ヘンリー・キャベンディッシュ(Henry Cavendish)が初めて地球の密度を測定する実験(Gの測定と等価な実験)に使った装置であり13、Gの決定ではいまだに基準になる方法であり続けている14

ねじりばかりは、水平の棒の中央を垂直な細いワイヤーでつったもので、棒の両端には試験質量が付けられている。地球の重力は垂直方向に働き、ワイヤーは垂直方向には大きな剛性を持つ。しかし、ワイヤーは水平方向には容易にねじられ、そのばね定数は小さい。非常に弱い力でも、棒に適切な角度で加えられた場合、棒は大きく回転する。だから、ねじりばかりは、水平面内ではほぼ無重力(正確に言えば微小重力)の環境を作る。これは、近くの物体(重力源質量)から棒に働く重力のような小さな力の検出には最適だ。

通常のGの決定では、重力の弱さを補うため、重力源質量は数kgと大きかった。しかし、Westphalらは質量わずか92mgの金の球を使った(図1)。これはイエバエ約4匹の質量であり、これまでにこうした実験で使われた重力源質量としては最も小さい。

図1 弱い重力場の検出方法
Westphalらは、両端に2つの球(それぞれ質量約90mg、半径約1mm)が付いた水平の棒(質量中心間の距離40mm)をワイヤーでつるした1。彼らは、棒の1つの質量(試験質量)に別の約90mgの質量(重力源質量、半径約1mm)を近づけ、重力源質量の位置を周期的に変えて(質量中心間の距離で2.5mm~5.8mm)、試験質量に働く重力源質量の非常に弱い重力場を変調した。変調された重力場は、つるされた棒に回転方向のごく小さな振動を起こした。2つの質量の間の電磁相互作用を抑えるため、ファラデーシールド(金めっきしたアルミニウム板)が使われた。試験質量の運動は、棒に取り付けた鏡で反射されたレーザービームの変位から測定され、試験質量と重力源質量の間の距離は、カメラ(図に示していない)で測定された。この測定から、重力効果の計算で使われる基礎定数、Gの値が決定された。 | 拡大する

質量中心間の距離2.5mm(Westphalらの実験のおよそのパラメーター)で、2つの90mgの球形の質量の間に働く力は、ニュートンの重力の法則で計算すると約9×10-14ニュートンにすぎない。これは、地球の重力場の中で9ピコグラム(pg;1pgは10-12g)の質量に働く力とほぼ同じだ。ちなみに9pgは、ヒト赤血球の質量の約3分の1に当たる15。だから、この極端に小さな重力のシグナルを、実験の背景雑音から、また、重力源質量と試験質量の距離が小さいときに重力よりも大きくなる他の力(電磁相互作用など)の効果から抽出することが大きな課題だった。

このため、Westphalらは、ねじりばかりの試験質量に対する重力源質量の位置を周期的に変えることにより、シグナルを変調した(変化させた)。時間に依存した重力相互作用の結果、ねじりばかりは、シグナルの変調の周波数(12.7ミリヘルツ)で水平面内で振動した。ニュートンの逆2乗則により、球形の質量の重力場は非線形なので、ねじりばかりには、変調周波数の倍数である、より高い周波数(高調波と呼ばれる)の振動も誘起された。この効果は、実験で明瞭に検出でき、質量間の重力結合の証拠になった。

そうした非常に小さな重力シグナルの検出はそれだけでもエキサイティングな結果だが、Westphalらはさらに、今回の実験からGの値を決定した。彼らの見積もりは、国際的に合意された値(go.nature.com/2bwkrqzを参照)から約9%外れている。彼らの系での実験の不確かさがGの正確な測定に最適化されていないことを考えれば、これは小さな逸脱であり、この実験は、ニュートンの重力の法則がこれほど小さな重力源質量でも正しいことを初めて示したといえる。

次のステップは、さらに小さな質量に挑戦することだ。Westphalらは、10-8kgのオーダーの質量の重力場はやがては測定できるだろうと述べている。しかし、この目標の達成にはまだ多くの研究が必要だろう。最初の課題は、ねじりばかりの振動の減衰を大きく減らすことだ。それは容易ではないだろうが、もしも実現されれば、そのとき、ついに量子重力効果が観測されるかもしれない。

(翻訳:新庄直樹)

Christian Rothleitnerは物理工学研究所(PTB;ドイツ・ブラウンシュバイク)の力学・音響学部門に所属。

参考文献

  1. Westphal, T., Hepach, H., Pfaff, J. & Aspelmeyer, M. Nature 591, 225–228 (2021).
  2. Newton, I. Philosophiae Naturalis Principia Mathematica (sumptibus Societatis, 1687).
  3. Niebauer, T. M., Sasagawa, G. S., Faller, J. E., Hilt, R. & Klopping, F. Metrologia 32, 159–180 (1995).
  4. Oort, J. H. Bull. Astron. Inst. Neth. 6, 249–287 (1932).
  5. Rees, M. J. Phil. Trans. R. Soc. Lond. A 361, 2427–2434 (2003).
  6. De Swart, J. G., Bertone, G. & van Dongen, J. Nature Astron. 1, 0059 (2017).
  7. Milgrom, M. Astrophys. J. 270, 365–370 (1983).
  8. Dvali, G. in Proc. 2011 CERN–Latin-American School of High-Energy Physics (eds Grojean, C., Mulders, M. & Spiropulu, M.) 145–156 (CERN, 2013).
  9. Arkani-Hamed, N., Dimopoulos, S. & Dvali, G. Phys. Lett. B 429, 263–272 (1998).
  10. Rothleitner, C. & Schlamminger, S. Rev. Sci. Instrum. 88, 111101 (2017).
  11. Wood, B. M. Phil. Trans. R. Soc. Lond. A 372, 20140029 (2014).
  12. Klein, J. R. & Roodman, A. Annu. Rev. Nucl. Part. Sci. 55, 141–163 (2005).
  13. Cavendish, H. Phil. Trans. R. Soc. Lond. 88, 469–526 (1798).
  14. Li, Q. et al. Nature 560, 582–588 (2018).
  15. Philips, K. G., Jacques, S. L. & McCarty, O. J. T. Phys. Rev. Lett. 109, 118105 (2012).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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