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学術界サバイバル術入門 — 査読をする③:査読レポートを書く(後編)

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210530

編集者と著者に伝わる査読レポートの書き方の後半は、体裁についてお話しします。

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学術界サバイバル術入門
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査読レポートの体裁には3つの共通するセクションがあることを、前編の最後で触れました。その3つとは、①要約、②編集者に宛てた非公開のコメント、③著者へのコメント(重要なものおよび軽微なもの)です。

査読者レポートの体裁

① 要約

これは論文原稿を最初に読んだ後に書かれることが多く、その研究のこの分野における総合的な意味を述べるものです。良い例として、Nature Communications1に論文と共に掲載されたものを紹介します。

1In this paper, the authors investigate the non-uniform distribution of the electron polarization in the quantum Hall (QH) system, using locally excited, resistively detected nuclear resonance. 2The resonance was excited by applying a localized radio-frequency electric field via AFM tip; by measuring the Knight shift of the resonance peak, quantitative information about the spatial distribution of the electron polarization was extracted. The authors investigated several QH regimes, including the breakdown regime, where the electron spin polarization is strongly nonhomogeneous along the sample. As a result, the authors, firstly, demonstrated the potential of a new microscopic imagning technique, and, secondly, obtained an interesting direct information about the microscopic structure of the QH system as a function of the current. 3In my opinion, the results of this paper are of interest for a broad community of physicists working in different areas, and have a good chance to attract attention of the audience of Nature Communications. 4Thus, in my opinion, the paper can be published, although some revisions would be desirable, see the list below.

参考訳:
1 この論文で、著者らは、局所励起抵抗検出核共鳴を用いて、QH(quantum Hall)システムにおける電子分極の不均一な分布について調べている。2 共鳴はAFMチップを介した局所無線周波数電場を適用することによって励起された。共鳴ピークのナイトシフトを測定することにより電子分極の空間的分布についての量的情報が抽出された。著者らが調べたいくつかのQHレジームには、電子スピン分極が試料に沿って強度に不均質であるブレイクダウンレジームも含まれる。その結果、著者らは、最初に新しい顕微鏡イメージング技術の可能性を立証し、次に、電流の機能としての、QHシステムの微細構造についての興味深い直接的情報を得た。3 私の意見では、この論文の結果は異なる領域で研究を行っている物理学者の広いコミュニティーにとって興味深いものであり、Nature Communications の読者の関心を集める可能性が大きいと考えられる。4 従って、私の意見としては、この論文は発表に足るものだが、以下に列挙した点において、いくつか改訂を行うことが望ましいだろう。

査読者は最初に研究の目的(1)を明確に示し、次に主要な研究結果(2)を述べています。これらはどちらも、編集者と著者に、査読者が明確に研究内容を把握し、この研究で何を達成しようとしているかを理解していることを示します。その後、この研究がこの分野とどのような読者にとって意味を持つか(3)を述べています。Nature Communications の読者層は広いので、このことは特に重要です。最後に、この研究を発表すべきだという自分たちの推奨理由(4)を述べています。この理由が、証拠に基づいていることが重要です。これこそが、編集者が求めているものなのです。

② 編集者へのコメント(著者には非開示)

このコメントにより、査読者と編集者は直接対話することができます。編集者は研究に関するあなたの忌憚なき意見を知りたがっています。前述のように、どのようなときも、主張は証拠で裏付けられていること。もしあなたが、改訂後にこの研究が発表されることを推奨するなら、それはなぜですか? この研究の強みは何ですか? 例えば次のように述べましょう。

Overall, I recommend the paper may be suitable to be published after minor revisions. The authors address the role of matrix rigidity in supporting tissue functionality in vitro, which is an important problem in the field. The study is carefully conducted with robust results that support their aims and validate their conclusions. Further, their novel approach in the development of the bioreactor would have broad applicability across disciplines making it suitable for the broad readership of Nature Communications.

参考訳:
全体として、私はこの論文は軽微な改訂を行った後に発表するのが適当であると推奨する。著者らはin vitroで組織の機能の支持におけるマトリックスの剛性の役割について研究しており、これはこの分野の重要な問題である。この研究は慎重に行われ、そのロバストな結果は、研究目的を支持し、結論の妥当性を立証している。さらに、バイオリアクターの開発における彼らの新しいアプローチは、種々の学問分野において幅広い適用性があると思われることから、Nature Communications の広い読者層に適しているだろう。

研究がこの学術誌のスコープには合っていないため、この論文の不採択を推奨する場合は、代わりにより適切な学術誌を示唆するとよいでしょう。あるいは、研究設計における欠陥のために不採択を示唆するなら、証拠によってそれを裏付けましょう。

Overall, I feel that this paper is not suitable to be published by the Journal of Economics and Finance. Although the study addresses an important problem related to the relationship between corporate governance policy and corporate financial performance, the analyses are insufficient to support the conclusions. Importantly, it is unclear to me why the authors did not use logistic regression analysis when using binary dependent variables.

参考訳:
全体として、私はこの論文はJournal of Economics and Financeature に掲載するのは適切でないと感じる。この研究は企業統括方針と企業財務実績との間の関係に関連する重要な問題に取り組んでいるが、結論を裏付けるには分析が不十分である。重要なことに、二値従属変数を使用するとき、著者がなぜロジスティック回帰分析を使用しなかったかが、私には不明確である。

また、論文原稿で倫理的問題(例えばデータ操作など)を発見した場合、このセクションでそれをはっきりと述べることができます。問題があると疑われるなら、それが何であるか、なぜそれを疑うかを示しましょう。

Although the study appears to be robustly conducted, I do have concerns with Figure 4. I often perform similar analyses in my research, but I have never seen such little variability between samples. It almost looks too good to be true. Would it be possible to have the authors to send the raw data for further review to ensure there is no evidence of data manipulation?

参考訳:
この研究は一見ロバストに行われているように見えるが、図4にひっかかりを感じる。私は自分の研究で同様の分析をしばしば行うが、サンプル間の可変性がこれほど小さい例を一度も見たことがない。話ができ過ぎていると思えるほどである。データ操作が行われた証拠が全くないことを確認するために、著者から生データを送ってもらい検討することは可能だろうか?

最後に、あなたにトピックや技術に関する適切な専門知識がないために、評価ができなかった部分が原稿中にあれば、編集者にそれを必ず伝えましょう。場合によっては、編集者は別の査読者を探すことになるので、その時間を作るためにも、できる限り早く伝えることができれば、なお良いでしょう。

This appears to be a robustly conducted study; however, I recommend that you have a statistician review the extensive statistics conducted in the study. Although I have some familiarity with statistics, I do not have enough expertise to ensure the authors used the appropriate analyses on Figures 2 and 4.

参考訳:
これはロバストに行われた研究であるように見える。しかし私は、この研究で行われた大規模な統計を統計学者に検討してもらうことを勧める。私も統計に関する知識を多少は持っているが、著者が図2と4で適切な分析を使用したと保証できるほどの専門知識を有していない。

③ 著者へのコメント

ほとんどの編集者(少なくともNature の編集者)はあなたの本当の意見と語調を著者に伝えたいと考えるため、あなたのコメントを修正したり変更したりしないでしょう。ですから、著者へのコメントは明確に、編集者へのコメントと同様の語調で書くようにしましょう。編集者は両方を読む、ということを忘れないように。編集者へのコメントは非常に厳しいものなのに、著者へのコメントは優しい感じであれば、編集者は、あなたが本当はどんな意見を持っているのか分からず困惑してしまいます。常に一貫した姿勢を崩さないようにしましょう! 著者には、要約と共にコメントが送られますが、コメントには2タイプがあります。重要な改訂と、軽微な改訂です。

ⓐ 重要な改訂
これらは研究の結果の妥当性確認に必要な改訂です。言い換えれば、それらがなければ、研究は妥当なものではなく、不採択にする必要があるでしょう。一般に、これらは研究設計かデータの解釈に関連しています。重要な改訂は通常、著者らが適切に査読者の懸念に対処していることを査読者が確認できるように、査読者に送り返されてくることを覚えておきましょう。明確な良い例として、Nature Communications2に論文と共に掲載された文章を下に示します。

I like how the authors consider the effect of the fs-laser (detection) regarding trapping. However, I miss a control experiment where they show how actually similar data with their experiment cannot be obtained by just looking at the trapping laser. In other words, repeat what they show in plots 5(b) but without their detection laser. I think this is important in order to sustain their claim that using a second harmonic generated signal provides more advantages than just monitoring the transmitted light of the trapping laser.

参考訳:
私は、トラッピングに関するフェムト秒レーザー(検出)の効果についての著者の考え方を評価する。しかし、彼らの実験で得られたデータと実質的に類似したデータは、ただトラッピングレーザーを観察するだけでは得られない、ということを示す対照実験がなく、その点が惜しまれる。言い換えれば、彼らがプロット5(b)に示したことを、彼らの検出レーザーなしで再現するのである。彼らの「第二高調波発生シグナルを使用すると、単にトラッピングレーザーの透過光線をモニターするよりも多くの利点が提供される」という主張を裏付けるために、対照実験は重要であると私は考える。

ⓑ 軽微な改訂
通常、これらは、論文や研究の内容を強化するものですが、研究の妥当性立証には必要ではありません。言い換えれば、これらの改訂がなくても、研究の妥当性は変わりません。よくある問題は、多少の追加的分析、参考文献の修正、図の軽度の誤りの訂正、文法的誤りの改善などです。軽微な訂正の場合は編集者が対処できるので、再検討のためにあなたに送り返されることはないかもしれません。以下に示したのは軽微な改訂案の良い例で、この論文の文章の1つが強過ぎて、この研究2のインパクトを一般化し過ぎていることをはっきりと示しています。

2. Lines 130-131: ‘These interactions result in the E proteins on virus surface being locked together and are critical for its neutralization mechanism.’

This statement is far too strong. No mutational studies are described to conclusively show which, if any of the estimated epitopes are necessary for neutralization. This is simply the authors’ best guess for how the Fab may neutralize. While the story seems likely, the statement cannot be made so conclusively without actual experimental evidence.

参考訳:
2. 130~131行:『これらの相互作用は、ウイルス表面上のEタンパク質の固定を引き起こし、その中和メカニズムに極めて重要である』。

この文章はあまりにも強過ぎる。推定されたエピトープのどれかが中和に必要であると述べているが、それがどれであるかを明確に示すための変異研究については全く説明されていない。これは、Fabが中和する仕組みに関する、著者の最良の推測にすぎない。そのようなストーリーは可能性が高そうだが、実際の実験的証拠なしに、これほど明確に述べることはできない。

最終回を締めくくる前に、査読過程の透明性が学界で勢いを増していることを強調しておきたいと思います。Nature4およびその関連誌などの一部の学術誌は、掲載された論文と共に査読レポートを公開することを始めています。私たちは、いくつかの理由でこれには価値があると考えています。

第1に、読者にとって価値があります。論文を読むとき、私たちはしばしばその論文原稿は発表前にどれくらい徹底的に査読されたのだろうかと考えます。査読レポートが透明性を持って公開されることによって、その研究が信頼できるとより強く確信を持つことができます。

第2に、著者にとって価値があります。もし査読者が、自分のレポートが公開されることを知っているなら(名前が匿名のままであっても)、コメントを書く際に特別な慎重さを持って綿密かつ建設的であろうとするでしょう。

第3に、将来の著者にとって価値があります。ある学術誌で発表することを切望していて、その査読過程を通過するのに必要な仕事の量が明確かつ的確に分かれば、発表にこぎ着けるために、それに倣ってより周到に論文原稿を準備できるでしょう。

最後に、将来の査読者にとって価値があります。スキルを磨く最良の方法の1つが、例を検討することです。オンラインで読むことができる査読レポートのうち信頼できる例は非常に少なく、また多くの査読者は査読者となるための専門的教育を受けていません。ですから、査読レポートが公開されて、該当論文と共に掲載されれば、キャリアを始めたばかりの研究者にとって素晴らしいリソースとなります。

有能な査読者になるためのシリーズはこれで終わりです。この情報が皆さんの査読スキルの改善に役立ち、洞察を与えるものであったらいいのですが。そして、最終的には編集者が分野の発展を助ける質の高い論文を掲載する助けになれば、と願っています!

次回は、2021年7月号の予定です。

(翻訳:古川奈々子)

ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)

Nature Research Academies 筆頭講師。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。


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参考文献

  1. Hashimoto, K. et al. Nature Communications 9, 2215 (2018).
  2. Yoon, S.J. et al. Nature Communications 9, 2218 (2018).
  3. Zhang, S. et al. Nature Communications 7, 13679 (2016).
  4. www.nature.com/articles/d41586-020-00309-9

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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