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Nature およびNature リサーチ誌も、全著者向けOAオプションを提供

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210307

原文:Nature (2020-11-24) | doi: 10.1038/d41586-020-03324-y | Nature journals reveal terms of landmark open-access option

Holly Else

論文を即時OA出版するための論文掲載料(APC)は9500ユーロ(約120万円)に決まった。

購読型学術誌であったNature およびNature リサーチ誌32誌が、OA出版のオプションの提供を開始する。 | 拡大する

Nature

選択性の高い学術誌で出版される論文が出版後直ちに無料で公開されることを、科学者たちは長い間待ち望んできた。このほど出版社であるシュプリンガー・ネイチャーは、その実現に向けた動きの一環として、Nature およびNature リサーチ誌(※)で即時オープンアクセス(OA)出版のオプションを提供すると発表した。

同社はこれまでほとんどの論文をペイウォール(課金の壁)の後ろに置き、その購読料によって資金を調達してきたが、Nature およびNature リサーチ誌32誌において、著者が9500ユーロ(約120万円)の論文掲載料(APC)を支払うことで論文を即時OA出版できる仕組みを2021年より導入すると発表した。また一部の学術誌では、1回の投稿で複数の学術誌での出版の可能性を検討する共通査読システムである「提案型(guided)OA」の試験的運用が行われる。このシステムでは、APCがほぼ半額になる場合もある。

シュプリンガー・ネイチャーが2020年4月にこの計画を発表したとき、OA擁護派は、全ての著者にOA出版のオプションを提供する方法がついに見いだされたと喜んだ(2020年6月号「Nature およびNature 関連誌が「プランS」に準拠して、オープンアクセス化へ」参照)。けれども彼らは今、同社が発表したその料金に懸念を抱いている。ロンドン大学インペリアルカレッジ(英国)の構造生物学者Stephen Curryは、今回の進展について、誰でも無料で科学論文を読めるようにしようという流れの中で「非常に重要」なものではあるが、「それにしても高過ぎる」と批判する。

即時OA出版への流れを後押ししたのは、「プランS(Plan S)」の運動だ。プランSは、主要な研究資金配分機関の資金を受けた著者に対し、論文の出版後の即時OA化を義務付ける。2020年11月、シュプリンガー・ネイチャーは、ドイツのマックス・プランクデジタルライブラリーと契約を締結し、これによって一部の研究機関に所属する科学者は、Nature およびNature リサーチ誌に無料でOA出版できるようになった。この契約では、論文1本当たり9500ユーロというAPCが、彼らの所属機関の購読料に含まれている。しかし今回、同社は、論文の即時OA出版を希望する全ての著者のためのオプションを発表した(Nature は、その出版元であるシュプリンガー・ネイチャーと編集上の独立を保っている)。

プランSが発表されて以来、選択性が非常に高いNatureScience などの学術誌を発行する出版社は、購読モデルからOAモデルへの切り替えを行う方法を模索してきた。こうした出版社では、制作費の大きな部分を占めるのは、最終的に不採択になる原稿を評価するのにかかる費用である。出版されるごく少数の論文からしかAPCを徴収できないとなると、1本当たりの料金はどうしても高くなってしまう。

高価格の理由

OA出版のために9500ユーロもの費用を請求する学術誌は他になく、高価格といっても、せいぜい6000ドル(約63万円)である〔訳註:オランダのエルゼビア社は2020年12月、セル・プレス(Cell Press)の学術誌について、Cell のAPCを9900ドル(約100万円)、その他の大部分の学術誌のAPCを8900ドル(約93万円)に設定すると発表した〕。OA擁護派の中には、シュプリンガー・ネイチャーのAPCは高過ぎると批判する人もいる。ハーバード大学学術コミュニケーション室(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)の室長であるPeter Suberは、「Nature」というブランドの威信を守るために著者に重い負担を課していると批判する。高額なAPCは、学術誌の不採択率の高さを埋め合わせるものではあるが、掲載される論文の品質の高さや発見のされやすさを保証するものではないというのがその理由だ。「どの資金配分機関、大学、著者にとっても、APCを負担するのはばかげたことでしょう」と彼は言う。これに対してイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(米国)の図書館員Lisa Hinchliffeは、著者にとっては、この料金は高過ぎるとは限らないと言う。「多くの著者は、その価値からすれば妥当な料金だと感じると思います」。

サイモン・フレイザー大学(カナダ・バンクーバー)のコミュニケーション学者Juan Pablo Alperinは、シュプリンガー・ネイチャーの今回の発表は「ユニバーサルOAが必然であることを知らせる」ものだが、この価格では貧しい国の研究者には手が届かないと言う。

シュプリンガー・ネイチャーの広報担当者は、Nature 関連誌(※)は、実際に出版する論文よりもはるかに多くの論文の査読を行っているのと、研究者にとって「非常に価値ある」仕事をする社内編集者と広報担当者を雇っているため、他の学術誌に比べてコストがかさむと答えている。彼らはまた、「選択性の高い学術誌のポートフォリオの中で、これほどの規模でOAオプションを提供しているものは他にないため、比較するのは困難です」と言う。広報担当者はさらに、OAオプションを選択しない著者は、従来通り、ペイウォールの後ろで研究論文を発表することができると説明する。これらの論文は購読者のみが利用することができるが、著者は、受理された自分の論文を公開猶予期間後(Nature の場合は出版から6カ月後)にオンラインで公開することができる。

プランSを策定した資金配分機関の団体「コアリションS(cOAlition S)」は、出版料金が提供されるサービスとどのように関連しているかを分析できるように、出版社はデータを提供するべきだと主張している。コアリションSのコーディネーターで、生物医学研究の資金提供機関ウェルカムトラスト(英国ロンドン)のオープンリサーチ部門長であるRobert Kileyは、「この情報が提供されれば、研究コミュニティーは、出版社が徴収する料金が適正で妥当であるかをよりよく判断できるようになるでしょう」と言う。

「提案型」OA

シュプリンガー・ネイチャーは今回、一部の学術誌でのOA出版に要する費用をほぼ半額にするシステムも紹介しており、Nature PhysicsNature GeneticsNature Methods での試験的運用を開始した。著者が各学術誌に論文を投稿する際、提案型OAと呼ばれるこの制度にオプトイン(同意)すると、まずは担当編集者がその原稿が当該学術誌と関連学術誌2誌での出版に適しているかどうかをチェックする。この最初の品質チェックに論文が合格すると、著者は2190ユーロ(約28万円)の編集評価料(Editorial Assessment Charge:EAC)を支払う。EACは、編集者による評価と査読プロセスをカバーし、払い戻しは不可能である。その後、著者には、詳細な編集評価報告書(Editorial Assessment Report)が送られ、シュプリンガー・ネイチャーのどの学術誌で投稿プロセスを進めるべきかが提案される。

例えば、Nature Physics に投稿された論文は、この学術誌に受理されるか、受理されるためにはどのような修正が必要かを伝えられるか、選択性がより低いNature CommunicationsCommunications Physics での出版を提案されるか、不採択となる。編集評価報告書だけ受け取ってオプトアウト(辞退)することもできるし、受理された場合には、さらに2600ユーロ(約33万円)の補塡論文掲載料(top-up APC)を支払ってNature PhysicsNature Communications で論文を出版することもできる。合計4790ユーロ(約61万円)という料金は、Nature Physics で通常ルートでOA出版するための料金の半額だが、Nature 関連誌で唯一の完全OA学術誌であるNature Communications で出版するための料金に比べるとわずかに高い。Communications Physics の補塡論文掲載料は800ユーロ(約10万円)で、やはり総額はこのOA学術誌の現在の掲載料よりも若干高くなっている。シュプリンガー・ネイチャーは、提案型OAルートではOA学術誌に直接投稿する場合に比べて余分な編集作業があり、費用の増加分はこれをカバーするものだと説明する。

ネイチャー・ポートフォリオとBMC(シュプリンガー・ネイチャーが所有する出版社)の学術誌担当部門長であるJames Butcherは、この仕組みは「複数の著者の間でより均等にコストを分担する」ためのものであり、別々の学術誌で何度も査読を繰り返さずに済むため、時間を節約できると言う。Hinchliffeはこれを経済的リスクを管理するための「創造的な実験」として捉えている。

Alperinは、このシステムはNature 関連誌で論文を出版したいと希望する研究者には魅力的かもしれないと考えている。通常価格のOAオプションと比べると、「最初の投稿時点の障壁は低く、掲載への障壁は高い」と彼は言う。しかしCurryは、このシステムで論文を評価した査読者は、自分が査読した論文が最終的に出版されなかった場合、「Nature 関連誌は自分たちの無償の労働力を著者に売っているようなものではないか」と感じるかもしれないと指摘する。

試験的運用

Kileyは提案型OAというアイデアが今後どうなるのか、見守りたいとしている。「最終的には、出版社が提供する各種サービスを反映するよう、出版コストを分割していく必要があると思います。シュプリンガー・ネイチャーによる今回の実験によって、このアプローチに関する情報が得られるでしょう」と彼は言う。

プランSの参加機関のほとんどは、基本的にハイブリッド学術誌(一部の論文をペイウォールの後ろに置き、それ以外の論文は無料で公開する学術誌)に対してAPCを支払わないが、今後OAコンテンツを増やしていくと約束している(「転換ジャーナル」と呼ばれる)Nature 系列誌(※)にはAPCを支払うとしている。しかし、欧州委員会(EC)やオランダ研究評議会(NWO)を含むいくつかの機関は、これにはまだ同意していない。

選択性の高いジャーナルを発行する他の出版社は、プランSに対する方針をまだ発表していない。セル・プレスによると、Cell はそのアプローチを最終的に承認しているところだという。Cell は現在、同誌との間に「適切な合意」がある資金提供機関から資金を得ている著者に対してのみ、5900ドル(約62万円)でOA出版を提供している。この方針はプランSにはそぐわないとKileyは言う。

(翻訳:三枝小夜子)

※訳註
Nature リサーチ誌:一次研究を出版するNatureの名前が入ったジャーナル。ただし、NatureNature Communications およびNature Protocols を除く。

Nature 関連誌:Natureの名前が入った全てのジャーナル。NatureNature Communications およびNature Protocols を含むが、Nature Partner Journalsは含まない。

Nature 系列誌:ネイチャー・ポートフォリオの全てのジャーナル。Nature 関連誌に加えて、Scientific Reports、Communications journalsおよびNature Partner Journalsを含む。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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