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レーザー核融合の新記録を米国の「国立点火施設」が達成

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211208

原文:Nature (2021-09-09) | doi: 10.1038/d41586-021-02338-4 | US achieves laser-fusion record: what it means for nuclear-weapons research

Jeff Tollefson

米国の「国立点火施設」が、レーザー核融合発生エネルギーの新記録を達成した。この成果は米国の核兵器研究にとって何を意味するのか。

米国の国立点火施設(NIF)の標的室の内部。標的室は球形で直径10m。 | 拡大する

LAWRENCE LIVERMORE NATIONAL LABORATORY

米国が建設した世界最大のレーザー核融合研究施設「国立点火施設」(NIF)で2021年8月、1回の実験で1.3メガジュール(MJ)の核融合エネルギーが発生し、発生エネルギーの新記録が達成された。この発生エネルギーは、核融合を起こすために使われたレーザーのエネルギーの70%に相当し、核融合の「点火」に大きく近づいた。NIFは、点火を実現できるのか疑問視されていたが、その目標を達成できるかもしれないという期待が出てきた。Nature は、NIFのこれまでの経緯、今回の成果が米国の核兵器研究にどんな意味を持つか、今後予想されることを調べた。

NIFは、カリフォルニア州のローレンス・リバモア国立研究所の中にあり、35億ドル(約4000億円)の費用をかけて建設された。米国は東西冷戦終結後の1992年、地下核実験を停止した。米国エネルギー省(DOE)は、核実験を行わずに核兵器の性能を科学的に維持するため、核兵器備蓄性能維持計画を開始し、その一環としてNIFの建設を提案した。核融合反応の研究を進め、核兵器を爆発させることなく、その信頼性を確保することが目的だった。

一方で、NIFは慣性閉じ込め方式による核融合エネルギーの研究施設でもあり、「点火」(核融合反応を起こすために使われたレーザーのエネルギーを核融合反応で生じたエネルギーが上回ったときとされる)の達成も期待されている。しかし、NIFでの点火は難しいという見方も強まっていた。

1.3MJは、時速約180kmで走る1tの車の運動エネルギーに相当する。エネルギー発生の時間は0.1ナノ秒(1ナノ秒は10億分の1秒)ほどで、これは1016ワットに相当する。今回の記録達成で、同研究所の科学者たちは自信を深めている。同研究所基礎兵器物理学部門の副プログラムディレクターMark Herrmannは「私たちの現在の科学的な関心事は、今後、どれだけの発生エネルギーを達成できるのか、ということです」と話す。

NIFが核融合反応を起こす方法は?

NIFは、アメリカンフットボール場3つ分の広さ、10階建ての高さを持つ巨大な施設だ。光のパルスを、光学系や鏡を使って分岐・増幅し、192本の紫外レーザービームにして消しゴムよりも小さな標的(金の円筒)に集める。ビームは標的に約1.9MJのエネルギーを20ナノ秒ほどの短い時間に与える。

金の円筒の中には、凍結した重水素(デューテリウム)と三重水素(トリチウム)が入った小さな球形カプセルが保持されている。レーザービームを浴びた金の円筒から発生したX線がカプセルを爆縮させ、高温・高圧を作り出す。重水素と三重水素が高温・高圧の中で核融合し、ヘリウム原子核、中性子、電磁波放射を出す。

十分なエネルギーを得るには、反応で発生したエネルギーがさらなる核融合を起こし、核融合反応が持続することが必要だ。2021年8月8日に行われた実験の予備的な結果がこのほど公表され、レーザーエネルギーの70%に当たるエネルギーが核融合反応で生じ、「点火まであともう少し」の記録が達成されたことが報告された。

点火に近い記録を達成するのになぜこれほど長くかかったのか?

NIFの建設は簡単だとは考えられていなかったが、想定よりもさらに難しいことが分かった。建設は1997年に始まり、予定よりも数年遅れて2009年3月に完成した。建設費は当初の見積もりを少なくとも24億ドル(約2800億円)超過した。NIFの是非については、その建設の前から議論があり、科学者たちはNIFの設計と運営の両方に異議を唱えた。

しかし、NIFは、2012年までに点火を実現するという目標を達成できなかった。2016年5月には、エネルギー省傘下で、核兵器を管理し、NIFに多額の資金を提供している国家核安全保障局(NNSA)が、NIFが点火を達成できるかを疑問視する報告書を公表した。

NIFの科学者たちは、施設を調整し、標的室に入れる標的を最適化することに年月を費やした。最近の成功は、新たな計測方法の導入、カプセル表面を滑らかにするなどの標的製作技術の改善、レーザー精度の向上など、巨大なシステムにいくつもの改良を加えることで達成された。

研究チームは今回の実験結果を精査中だが、予備的なデータによると、発生エネルギーは2021年4月の実験と比較して一挙に8倍に増え、2018年に達成された記録と比較すると25倍に増えている。米国海軍研究所(ワシントンD.C.)のレーザー核融合部門の元責任者であり、NIFを長く批判してきたStephen Bodnerでさえも、今回の結果は意義のある進展だと認め、「驚くとともに喜んでいます。とはいえ、それが再現可能ならばですが」と話す。

NIFが点火を達成したら、核兵器について何が分かる可能性があるのか?

理論的には、NIFは、核融合反応を開始、維持するために必要な正確な条件の理解を深める可能性がある。これはある意味では、NIFの科学者たちが、この12年間にシステムの最適化を進める中でつかんできたものだ。核融合反応を開始、維持する条件の解明は、米国の核兵器備蓄性能維持計画にとっても極めて重要なものだ。

1992年以降、米国の物理学者たちは核兵器の研究を持続するため、包括的な計画を構築してきた。この計画では、強力なスーパーコンピューターが使われ、核物質、部品、爆薬などを試験する数十の研究施設が関わっている。NIFの実験は、核兵器の爆発を模擬するコンピューターモデルの改善に役立ち、モデルの不確かさを減らす。

科学者たちは、NIFが米国の核融合研究を持続させ、若い研究者を核科学の分野に引き付けることにより、米国は備蓄核兵器の信頼性を高め、外国からの脅威に対抗することができると主張する。「NIFは米国の科学技術力を示すことになり、それも重要なことです」とHerrmannは話す。

NIFは米国の核兵器備蓄性能維持計画に不可欠なのだろうか?

一部の批判者は、米国の核兵器を維持するためにNIFが本当に必要であるかについて疑問を表明してきた。彼らは、備蓄核兵器の信頼性は既に十分に高いと主張する。またNNSA自身が、現在の備蓄核兵器を単に維持するのではなく、新しい核兵器を作ることを提案している、と彼らは指摘している。

核兵器削減を目指している政策シンクタンク「米国科学者連盟」(FAS;本部ワシントンD.C.)で核情報プロジェクトを率いるHans Kristensenは、「そうした批判は、NIFがもたらす科学的データなしでも今後50年間に必要な多くのものを作ることができるという傲慢な自信を示しています」と話す。

Herrmannは、核兵器科学者らはシミュレーションを評価する際、常に限られた実験データから外挿していることを指摘する。「NIFでのエネルギーの高い核融合反応で得た情報のおかげで、核兵器科学者たちはモデルを直接的にテストし、不確かさを減らすことができます。NIFは、備蓄核兵器が必要なときには爆発し、必要ないときは決して爆発しないことをNNSAが保証できるようにするための施設なのです」と彼は話す。

NIFは次に何を行うのか?

研究所幹部によると、8月8日の実験結果を再現できるか確かめる実験は、早ければ2021年10月にも行われる。Herrmannは「NIFが行っていることは現在可能な最先端の取り組みであり、標的カプセルの製造における小さな変化やレーザーのチューニングで、発生エネルギーは以前の実験よりも多くなることも少なくなることもあります。私たちは標的を破壊してしまうので、全く同じ標的を用いた実験は行えないのです。しかし時間と共に今回の実験結果を再現できるようになるはずです」と話す。

(翻訳:新庄直樹)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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