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COVIDワクチンと血栓症:これまでに分かったこと

頻度は非常に低いとはいえ、COVIDワクチンの接種後に原因不明の血栓症を発症する人がいる。その機序の解明に、科学者たちは取り組んでいる。

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LEONARDO MONTECILLO/AGENCIA PRESS SOUTH/GETTY

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211026

原文:Nature (2021-08-26) | doi: 10.1038/d41586-021-02291-2 | COVID vaccines and blood clots: what researchers know so far

Heidi Ledford

「何かおかしいぞ……」。Phillip Nicolsonがそう気付いたのは、奇妙な血栓症を発症した2人目の若い患者を診たときだった。若い人が血栓症を起こすことは珍しく、血小板(血栓の形成に関わる細胞断片)の数が著しく減少しているのに血栓症を起こすというのは、それ以上に珍しいことなのだ。

ところが2021年3月のある週、そのような所見を呈する2人の若者が、血液内科専門医であるNicolsonが勤務するクイーンエリザベス病院(英国バーミンガム)を立て続けに受診した。2人とも、オックスフォード大学/アストラゼネカ社のCOVID-19(SARS-CoV-2により引き起こされる、新型コロナウイルス感染症)ワクチンの接種を受けたばかりだった。

土曜・日曜と当直勤務が続いていたNicolsonは、ゆっくり休める月曜日を心待ちにしていた。ようやく迎えた月曜日、気が付いてみれば研究用の検体採取の同意を得るために院内を忙しく走り回っているではないか。Nicolsonが2人目の患者のベッドサイドに何とかたどり着いたときには、3人目の患者の入院が決まっていた。

その週、Nicolsonらは、現在研究者が「ワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia;VITT)」と呼んでいる病態を初めて経験した。これはオックスフォード大学/アストラゼネカ社またはジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)社のCOVID-19ワクチンの接種を受けた人に、非常に低い頻度ではあるが発生することのある原因不明の副反応で、命に関わることもある。オックスフォード大学/アストラゼネカ社のワクチンの接種を受けた50歳未満の人では、約5万人に1人の割合で発生すると推定されている1。英国以外の国でも同じような副反応が観察されたことから、これらのワクチンの接種を当面見合わせとし、対象を絞った上で再開する国も出てきた(2021年8月号「ワクチンの利益とリスクを一人一人が正しく理解するための対話とは」参照)。

Nicolsonをはじめとする研究者たちの精力的な研究にもかかわらず、ワクチンとVITTを結び付ける機序はまだよく分かっていない。その機序を解明できれば、VITTの予防法や治療法の開発につながるだけでなく、今後のワクチン開発に役立てることもできる。この数カ月間、研究者たちは手掛かりを集め、さまざまな仮説を立ててきた。

しかし、こうした仮説を証明するのは非常に難しい。マックマスター大学(カナダ・ハミルトン)の血液学者John Keltonは、「仮説を立てるのはいいとしても、せいぜい10万人に1人くらいにしか起こらない副反応の原因がそれであると、どうやって証明できるというんですか?」と疑問を投げ掛ける。「本当に難しい課題です」。

血栓症が起こる機序

抗凝固薬として使われるヘパリンに対して反応を起こす人が稀にいる。治療経験のある血液内科医は、所見の類似性を指摘した。ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia;HIT)と呼ばれるこの症候群も、VITTと同じように血小板の数が少なく、時には血栓が見られることが特徴だ。

HITがヘパリンにより引き起こされる仕組みはこうだ。ヘパリンは負の電荷を帯びた分子であり、血小板が血栓形成を促進するために放出する血小板第4因子(PF4)と呼ばれるタンパク質は正の電荷を帯びているため、ヘパリンがこのタンパク質と結合して、血小板表面で複合体を形成する。一部の人では、免疫系がこの複合体を異物と見なし、抗体が産生されることがある。

この画像で白く見える血小板は、血栓の形成に関わる細胞断片である。 | 拡大する

LENNART NILLSON, BOEHRINGER INGELHEIM INTERNATIONAL

産生された抗体の中に、血小板に結合して活性化させるものがある場合、活性化された血小板は凝固カスケードを開始し、凝集して血栓を形成する。血栓は重要な血管を詰まらせ、患者は場合によっては死に至ることもあるが、治療すれば救命できる可能性がある。

HITの研究を行っている研究室は世界中でも数えるほどしかない。しかし、VITTと診断されたわずかな数の患者の検体を入手するために、彼らは奔走した。検体を分析したところ、この原因不明の血栓症を起こしたワクチン接種者は、自身のPF4に対する抗体を産生していることが分かった2–4。だが、抗体産生の引き金が何なのかは、誰にも分からなかった。何十年も前からHITを研究してきたKeltonでさえ、VITTの患者の貴重な検体を入手するのには苦労した上、品質がまちまちの検体を注意して扱わなければならなかった。患者に投与された治療薬で汚染されていた検体もあったからだ。「汚染されていない検体はほとんどなかったのです」と彼は言う。「VITTの患者は非常に重症で、医師はさまざまな投薬を行います。患者の体内からはあらゆる種類の化学物質が見つかります」。入手できた検体のおよそ3分の2では、抗PF4抗体が全く検出されなかった。こうした患者はVITTではなく、おそらくワクチン接種とは無関係の血栓症を発症していたと考えられるとKeltonは話す。

最終的にKeltonの研究チームは、治療を受ける前の5人のVITT患者から検体を入手することができた。その検体に含まれる抗体を分析したところ、一部の抗体はヘパリンが結合するのと同じ部位でPF4に結合しており、ヘパリンと同様の機序で血小板を活性化させることが分かった5。この結果から、ワクチン関連症候群の発症機序はHITのものと似ているが、引き金としての役割を果たすのがヘパリンではなく、ワクチンであると考えられた。

3Dプリンターで造形した、スパイクタンパク質。SARS-CoV-2の表面にあるこのタンパク質が、ヒト細胞への感染のカギとなる。 | 拡大する

NIAID

ワクチンに含まれる何か、あるいはワクチンに反応して体内で産生される何かがPF4に結合しているのは間違いないが、いったいそれは何なのだろうか? VITTは2種類のCOVID-19ワクチンで起こり得るとされているが、どちらのワクチンも不活化させたアデノウイルスを「ベクター(運び屋)」として使って、スパイクタンパク質と呼ばれるコロナウイルスのタンパク質をコードする遺伝子をヒトの細胞に送り込む。送り込まれた遺伝子は細胞内で発現し、スパイクタンパク質が合成される。スパイクタンパク質が免疫系によって認識されると、コロナウイルスへの感染を防ぐために重要な、スパイクタンパク質に対する抗体が産生される(2020年6月号「コロナウイルスワクチンの開発レース」、2021年1月号「SARS-CoV-2ワクチンの開発競争を注視する」参照)。

ワクチンの製造過程で残留した不純物(溶液中に浮遊するDNAの断片や、ウイルスの増殖用培地に含まれるタンパク質など)がPF4と相互作用して、抗体の標的となる凝集体が形成されるという説を唱える研究者もいる6

また、アデノウイルスそのものが原因ではないかと考える研究者もいる。アデノウイルスはマウスの血小板に結合し、血小板減少を引き起こし得ることが以前の研究で分かっている7。論文の筆頭執筆者で、クイーンズ大学キングストン校(カナダ)で血液凝固の研究をしているMaha Othmanは、この血小板減少を起こしたマウスも、もっと長く観察していれば血栓を生じていた可能性があると言う。

COVID-19パンデミック(世界的大流行)が起こる以前から、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)によるエイズ(AIDS;後天性免疫不全症候群)やエボラ出血熱などの感染症に対してアデノウイルスを使ったワクチンが開発されていたが、大規模な接種は行われていなかった。これらのワクチンでVITTに似た副反応が起きたという報告はないが、それはオックスフォード大学/アストラゼネカ社のCOVID-19ワクチンほど大規模な治験が行われなかったからかもしれない。

メイヨークリニック(米国アリゾナ州フェニックス)の血液学者Mitesh Boradらは、オックスフォード大学/アストラゼネカ社のワクチンに使われたチンパンジーアデノウイルスの構造を解析し、強い負の電荷を帯びていることを突き止めた。分子シミュレーションによると、この負の電荷とウイルスの形状が相まって、正の電荷を帯びたPF4タンパク質に結合できる可能性がある8。もしそうであるとしたら、ヘパリンに対する稀な反応とよく似たカスケード反応が始まる可能性があるとBoradは話すが、実際にそれが起きているのかどうかはまだ分かっていない。

もしアデノウイルスが原因だったとしても、アデノウイルスをワクチンに使うのをやめるように主張するつもりはないとBoradは言う。手を加えて負の電荷を減らすことができるアデノウイルスもあり、また、負の電荷が元々少ないものもある。J&J社のCOVID-19ワクチンに使われているAd26アデノウイルスは、チンパンジーアデノウイルスほど負の電荷を帯びておらず、それがJ&J社のワクチンの接種者にVITTが少ない理由かもしれない。ロシアのスプートニクV COVID-19ワクチンはAd26アデノウイルスと、負の電荷がさらに少ないAd5アデノウイルスの両方を使っているが、今のところVITTの発症は報告されていないと、Boradは付け加えて言う。

スパイクタンパク質そのものが原因となっている可能性も考えられる。ある研究チームは、VITT患者で生じたPF4に結合する抗体は、スパイクタンパク質に対する免疫応答で生じた有害な副産物ではないかと考えた。しかし、抗PF4抗体はスパイクタンパク質には結合できないことが分かり、スパイクタンパク質に対する免疫応答で生じたものではないことが示唆された9

ゲーテ大学フランクフルト・アム・マイン(ドイツ)のがん研究者Rolf Marschalekらは、スパイクタンパク質をコードするRNAが、ヒトの細胞内でいくつかに切断されてから、さまざまな組み合わせで再びつなぎ合わされることを明らかにした。生成物のそれぞれはスプライスバリアントと呼ばれ、そのいくつかはスパイクタンパク質を合成する鋳型となる。合成されたスパイクタンパク質は血中に侵入し、血管の内壁を覆う細胞の表面に結合する10。その部位にはSARS-CoV-2に感染した人の一部でも見られるような炎症反応が起こり、重症になると血栓が形成されることもある。

J&J社のワクチンがオックスフォード大学/アストラゼネカ社のワクチンに比べて血栓症の発生率が低いのは、スプライスバリアントの生成に必要な部位を除去するようにRNAが設計されているからではないかとMarschalekは指摘する。もしこの仮説が証明されたならば、オックスフォード大学/アストラゼネカ社のワクチンやアデノウイルスを使ったその他のワクチンも、RNAの設計を変更することで安全性を高めることができるだろうと彼は考えている。

オックスフォード大学/アストラゼネカ社とJ&J社のワクチン開発チームは、より安全なアデノウイルスベクターの開発に取り組んでいると報じられている。企業がアデノウイルスベクターを完全に捨て去ることはあり得ないだろうとMarschalekは言う。他の研究者たちもこの意見には同意している。Othmanはアデノウイルスワクチンの製造や改変が容易であることや、多くの人にとって安全であることを示す豊富なデータが存在することを理由として挙げ、「アデノウイルスワクチンはとても広く普及していて、今後も広く利用され続けると思います」と話す。アデノウイルスベクターを捨て去ってしまうのではなく、「アデノウイルスワクチンに対する免疫応答をもっと研究すべきです」と彼女は言う。

アデノウイルスワクチンの安全性に影響を与える要因の1つとして、投与方法が考えられる。COVID-19ワクチンは筋肉に注射するが、針を誤って静脈に刺してしまうとワクチンが血流中に入ってしまう。ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(ドイツ)の心臓専門医Leo Nicolaiらはマウスを使った研究で、オックスフォード大学/アストラゼネカ社のワクチンを血管内に注射すると、血小板がアデノウイルスと共に凝集して活性化されることを発見した。筋肉に注射した場合は、そのような現象は認められなかった11

マウスでの研究のようにワクチンを誤って静脈に注射してしまうことは、稀とはいえあり得るとNicolaiは言う。ワクチンを実際に注入する前に、まずプランジャーをわずかに引いてシリンジ内に血液の逆流がないのを確認することで、VITTの多くのケースは回避できるかもしれない。この方法は既に一部の国々では標準的に採用されており、デンマークではCOVID-19ワクチンの接種法に関する公式ガイドラインに追記されている。

治療法の改善

英国での研究によれば、2021年3〜6月にVITTと診断された220人の患者のうち49人が死亡しており1、より優れた治療法の開発が求められている。現在のところ、VITT患者にはヘパリン以外を用いた抗凝固療法を行い、血漿製剤に含まれる自然に生じた抗体を大量に投与することで治療している。投与された抗体は、抗PF4抗体と血小板上の結合部位を巡って競合し、抗PF4抗体が血液凝固を促進する能力を低下させる。「正常な抗体の濃い霧の中に危険な抗体を隠してしまい、願わくは患者の体をだませないだろうかというわけです」とKeltonは話す。「しかし、これはとても大ざっぱな治療法と言えるでしょう」。

バーミンガムのNicolsonは、より特異的なアプローチの開発に取り組んでいる。VITT患者の血清を分析し、別の疾患のために開発された薬剤をVITTの治療薬として転用できないかを検討しているのだ。具体的には血小板上のあるタンパク質を阻害する治療法に注目し、VITTで見られる血小板の活性化や、血栓形成につながる一連の事象を防止できる薬剤がないかどうかを調べている。

だが、こうした治療法の臨床試験を開始する準備が整ったとしても、その対象となる人は、もうほとんどいない。2021年3月にNicolsonが最初の症例に出合ってから、英国ではワクチン接種の方針が変更され、現在ではオックスフォード大学/アストラゼネカ社のワクチンは40歳以上の人にのみ推奨されている。VITTは若いワクチン接種者に多く見られるが、それはおそらく若者で起こる免疫応答がより強いからだろう。

オックスフォード大学/アストラゼネカ社のワクチンがmRNAワクチンに比べて比較的安価で確保も容易であることを考えると、「接種対象を中年以上の人に限定する」という贅沢を、英国以外の国々でも同じようにできるかどうかは分からない。また、これまでVITTは主に欧米で報告されてきたが、その理由がVITTの発生しやすさに地域差があるからなのか、それともワクチンの潜在的な副反応に関するデータを収集する報告システムの違いによるものなのかは、まだ分かっていない。例えばタイでは、オックスフォード大学/アストラゼネカ社のワクチンの接種が170万回行われたが、VITTの症例は見られなかったと2021年7月に報告されている12

クイーンエリザベス病院に紹介されてくるVITT患者の数は激減したとNicolsonは言う。「もう患者を見掛けることもないでしょう。ほとんど起こらなくなったのです」。

(翻訳:藤山与一)

Heidi Ledfordは、英国ロンドン在住のNature シニア・レポーター。

参考文献

  1. Pavord, S. et al. N. Engl. J. Med. https://doi.org/10.1056/NEJMoa2109908 (2021).
  2. Schultz, N. H. et al. N. Engl. J. Med. 384, 2124–2130 (2021).
  3. Greinacher, A. et al. N. Engl. J. Med. 384, 2092–2101 (2021).
  4. Scully, M. et al. N. Engl. J. Med. 384, 2202–2211 (2021).
  5. Huynh, A., Kelton, J. G., Arnold, D. M., Daka, M. & Nazy, I. Nature https://doi.org/10.1038/s41586-021-03744-4 (2021).
  6. Greinacher, A. et al. Preprint at Research Square https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-440461/v1 (2021).
  7. Othman, M., Labelle, A., Mazzetti, I., Elbatarny, H. S. & Lillicrap, D. Blood 109, 2832–2839 (2007).
  8. Baker, A. T. et al. Preprint at bioRxiv https://doi.org/10.1101/2021.05.19.444882 (2021).
  9. Greinacher, A. et al. Blood https://doi.org/10.1182/blood.2021012938 (2021).
  10. Kowarz, E. et al. Preprint at Research Square https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-558954/v1 (2021).
  11. Nicolai, L. et al. Preprint at bioRxiv https://doi.org/10.1101/2021.06.29.450356 (2021).
  12. Noikongdee, P. et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/10.1101/2021.07.15.21260622 (2021).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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