News in Focus

遺伝的変異から閉経時期を予測できるかもしれない

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211004

原文:Nature (2021-08-04) | doi: 10.1038/d41586-021-02128-y | Genetic variations could one day help predict timing of menopause

Heidi Ledford

このほど、生殖寿命を支配する要因に関する 手掛かりが得られた。そうした要因を利用すれば、将来、生殖能力を伸ばせる可能性がある。

卵巣内の卵母細胞は周りを顆粒細胞に囲まれている。これを1つのユニットとし、卵胞と呼ぶ。図の左側の原始卵胞が右上のような一次卵胞へと発育し、その後いくつかの過程を経て排卵期に成熟卵胞となる。 | 拡大する

Ed Reschke/Stone/Getty

20万人以上の女性を対象とした研究で、閉経年齢の決定に関与する290の遺伝子バリアントが明らかになった1。これらのバリアントの多くは、損傷したDNAを持つ未成熟卵に体がどのように反応するかに関与するものであり、DNA損傷応答過程の重要性がはっきりと示された。さらに、将来これらのバリアントを利用して、自然な生殖寿命を延ばしたり、体外受精の成功率を向上させたりできる可能性も示唆された。

この遺伝子カタログは、診断テストの開発にも役立つ可能性があり、閉経時期の予測精度が上がるかもしれない。「理想は、自然な生殖期間が短いケースを予測して、そうした女性たちがより多くの情報に基づいて、出産についての選択をできるようにすることです」と、ケンブリッジ大学(英国)の遺伝学者で、この研究を率いたJohn Perryは述べている。「今のところ、ほとんどの女性は自分の生殖可能期間を全く認識していません」。

卵子の在庫

出生時に女性という性別に分類されたほとんどの人(シスジェンダーの女性[生物学的にも自己認識上でも女性]、トランスジェンダーの男性[生物学的には女性でも自己認識上は男性]、および一部のノンバイナリーの人々[自らを女性でも男性でもないと認識している人々]やインターセックスの人々[男女の身体的特徴を併せ持つ人々]を含む)は、生まれた時には既に、将来卵子になる全ての細胞(卵母細胞)が卵巣に存在する。時間が経つにつれて、卵母細胞のいくつかは成熟して卵子となり、排卵時に放出される。一方、卵母細胞のうち損傷したDNAを含むことが分かったものは、破壊される。

こうした卵母細胞の減少は、年齢と共に加速する。DNA修復機構の働きが低下し、損傷を受けたDNAの蓄積が増していくからだ。閉経が始まる頃には(通常は50歳前後)、卵巣に貯蔵されていた卵母細胞は枯渇する。閉経の10年ほど前に受胎能力が劇的に低下するのは、よくあることだ。

しかし、閉経年齢には大きなばらつきがあり、環境と遺伝の両方の影響を受ける。遺伝的要因を理解するために、Perryらはまず、20万人のシスジェンダーのヨーロッパ系女性に関するデータを集めた。次に、参加者が閉経した年齢に影響を与えていると思われる遺伝子の塩基配列を探し、その結果を約8万人の東アジア系女性のデータを使用して確認した。

今回、閉経の時期に関連する290のバリアントが発見されたことにより、これまでに分かった生殖寿命に影響する遺伝的要因の数は5倍以上になり、閉経年齢の変動の約10%が説明できるようになった。個々のバリアントは、閉経時期が早いか遅いか(数週間または数年の範囲)に関連している。最大の影響は、CHEK2と呼ばれる遺伝子の機能が失われた女性に表れ、閉経が平均3.5年遅くなった。

CHEK2が生成するCHEK2タンパク質は、DNAが損傷している細胞の分裂を停止させたり、細胞の自己破壊を誘導したりすることができる。Perryらは、マウスにおいてCHEK2と相同な遺伝子であるChek2がない場合、未成熟卵の卵巣での貯蔵がより長く続くことを発見した。また、Chek2を持たないマウスは、体外受精で未成熟卵の放出を誘発するために使用されるホルモンに対してもより強く反応した。

さらに、研究チームは、DNA修復に関与するChek1(ヒトのCHEK1と相同な遺伝子)と呼ばれる遺伝子の余分なコピーを1つ持つマウスは、Chek1のコピーを2つしか持たないマウスよりも、出生時とその後の生涯の両方で、卵巣の未成熟卵が多いことも発見した。

健康への影響

閉経を遅らせるためにCHEKタンパク質を標的にするという考え方は、ヒトで試験するには時期尚早である。だが、今回の研究の結果により、不妊治療を改善したり、生殖寿命を延ばしたりするための治療法開発への期待が高まる。それでも研究者たちは、CHEK2に干渉することにより不健全な卵子が保存されることがないよう注意する必要がある。エール大学(米国コネチカット州ニューヘイブン)の不妊治療専門家Kutluk Oktayは、「DNA修復を促すことは、閉経を遅らせるために非常に有望だと考えています。しかし、損傷した卵母細胞を取り除く細胞のチェックポイント機構を無効にすることは、危険かもしれません」と話す。

DNA損傷応答遺伝子の操作で生殖寿命を延ばす
DNA損傷応答(DDR)に関連する遺伝子、CHEK1CHEK2は、それぞれ、DNA修復、DNA損傷を受けた卵母細胞の破壊に関わる。Ruthら1は、CHEK2などのDDR関連遺伝子のバリアントが閉経年齢に影響を与えていることを突き止めた(a)。また、マウスで、同様の機能を持つ相同な遺伝子Chek2Chek1について調べると、Chek2がない場合には卵母細胞の貯蔵が長く続き、またChek1の余分なコピーを1つ持つ場合には出生時からずっと卵母細胞が多いことが分かった(b)。 | 拡大する

他にも健康上の懸念があり得る。閉経を遅らせることは、2型糖尿病や骨の健康状態悪化のリスク低減に関連するが、一部の乳がんなど、ホルモン感受性がんが生じる可能性が高くなることにも結び付けられている。

この研究論文の筆頭著者であるエクセター大学(英国)の遺伝学者Katherine Ruthは、特定の人が早期閉経となる可能性があるかどうかを確実に予測するのに十分な数の遺伝的変異を、研究チームはまだ見つけていないと述べている。「この研究は将来的に確実に改善できる分野だと、私たちは考えています」とRuthは言う。

予測を改善する1つの方法は、遺伝的バリアントがどのように相互作用するかを解明することかもしれないと、ジャクソン研究所(米国メイン州バーハーバー)でDNA損傷と生殖を研究しているEwelina Bolcun-Filasは言う。しかし、閉経の時期は、喫煙や肥満などの環境要因にも影響を受ける可能性があり、遺伝学を利用して閉経時期を予測する取り組みはそのために複雑になっていると、彼女は付け加える。

「私たちが問題にしているのは、例えば、生活様式、環境、食事といった、数千とまではいかないにしても、数百もの外部要因が関与する形質です」と、マグナ・グラエキア大学(イタリア・カタンツァーロ)の産婦人科医Roberta Venturellaは述べる。「明らかなのは、私たちは、長い道のりの出発点に立っているにすぎないということです」。

(翻訳:古川奈々子)

参考文献

  1. Ruth, K. S. et al. Nature 596, 393–397 (2021).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度