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アルツハイマー病では脂質担体が血液脳関門を破壊する

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 8 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200836

原文:Nature (2020-05-07) | doi: 10.1038/d41586-020-01152-8 | Risk factor for Alzheimer’s disease breaks the blood–brain barrier

Makoto Ishii & Costantino Iadecola

APOE4遺伝子バリアントを持つ人は、アルツハイマー病を発症するリスクが平均より高い。今回、このバリアントが、血液脳関門の異常とその後の認知機能低下に関連していることが明らかになった。

アルツハイマー病の脳の顕微鏡画像。アミロイドβタンパク質の凝集(黒く染色)が見られる。 | 拡大する

UCSF/Image Source/Getty

アルツハイマー病の最もよく知られた特徴は、誤って折り畳まれたアミロイドβ(Aβ)タンパク質やタウタンパク質の凝集した塊が脳内で見られることである。しかし、Aβとタウの凝集が全てではない可能性があることが認識されてきており、血液脳関門(BBB)の変化も、この神経変性疾患の初期マーカーであることが明らかになっている1。BBBの崩壊の程度が、生じた認知機能障害の程度と相関しているのだ2。だが、BBBが崩壊する原因は分かっていない。このほど、アルツハイマー病の主な遺伝的リスク要因であるアポリポタンパク質E4がBBBの崩壊に関連しているという証拠を、南カリフォルニア大学ケック医学系大学院(米国ロサンゼルス)のAxel Montagneら3Nature 2020年5月7日号71ページで報告している。

アポリポタンパク質E(APOE)遺伝子は、脳の主要な脂質担体タンパク質であるApoEをコードしている4。APOEには、3つの主要なバリアントとしてAPOE2、APOE3、APOE4が存在している。ヒトは、ほぼ全ての遺伝子と同様に、APOEも2コピー持っていて、同じバリアントを2つ、あるいは異なるバリアントを1つずつ持っている。APOE4バリアントは、より一般的なAPOE3バリアントと比較して、アルツハイマー病のリスクを顕著に上昇させる。APOE4バリアントを1コピー持つ人では最大4倍、2コピー持つ人では最大15倍にアルツハイマー病のリスクが上昇するのだ4。また、アルツハイマー病を発症している人のうち、APOE4を保有している人は、APOE4を保有していない人より若齢でその症状が現れる傾向がある4

APOE4を保有していても認知機能が正常な人や、現在の認知機能は正常であるがやがてアルツハイマー病を発症する人の脳脊髄液(脳と脊髄の周囲を満たす液体)には、血漿由来のタンパク質が見られる。これらのタンパク質はおそらくBBBを介して脳内に漏出しており、認知機能が低下する前に血液脳関門の完全性が喪失していることを示している5。マウスモデルやアルツハイマー病で死亡した人の脳から得られた証拠から、BBBの崩壊は、脳の毛細血管壁を取り巻くように位置する周皮細胞の変性によって引き起こされると考えられている。周皮細胞は通常、毛細血管壁を構成する内皮細胞間の結合部の破壊を防ぐことにより、BBBを保護している5

ApoE4が、単独で、あるいはAβやタウと協調して、アルツハイマー病初期のBBB機能障害の原因となるのかは分かっていない。Montagneらは、この知識のギャップを埋めるために、DEC-MRI(dynamic contrast-enhanced magnetic resonance imaging;ダイナミック造影磁気共鳴画像法)と呼ばれる技術を用いて、正常な認知機能または軽度の認知障害(アルツハイマー病の前段階)がある人のBBBの透過性を調べ、保有するAPOEバリアントごとにグループ分けを行った。その結果、正常な認知機能だがAPOE4を1コピーあるいは2コピー持つ人は、記憶と認知機能に重要な脳の2領域、すなわち海馬と海馬傍回でBBBの漏出が起こっていることが分かった。この漏出は、軽度の認知機能低下が見られるAPOE4保有者ではさらに重度であった。

驚くべきことに、これらの影響は、海馬や海馬傍回の組織喪失の兆候より早く表れ、BBBの崩壊は神経変性が開始する際の初期事象であるという考えが裏付けられた。またMontagneらは、脳脊髄液の試料や、別の脳イメージング技術である陽電子放出断層撮影法(PET)によってAβおよびタウの蓄積を評価することで、BBBの漏出はAβやタウの蓄積とは無関係であることを示した。さらに、BBBは、APOE4保有者では漏出が見られたが、正常な認知機能のAPOE3保有者では無傷であることが分かった。一方、認知機能障害があるAPOE3保有者でもBBBの漏出が見られたが、これは同等の段階の認知機能障害があるAPOE4保有者よりも軽度であった。

次に、Montagneらは、APOE4保有者のBBBの崩壊が周皮細胞の変性と関連しているかどうかを調べた。その結果、APOE3保有者よりもAPOE4保有者の脳脊髄液では、周皮細胞の損傷のバイオマーカーで可溶性血小板由来増殖因子受容体β(sPDGFRβ)として知られるタンパク質が上昇していることが分かり、この考えが裏付けられた。APOE4保有者に見られる高レベルのsPDGFRβは、BBBの漏出や認知機能障害と関連していた。その一方で、sPDGFRβの上昇はAβやタウとは無関係であった。

続いてMontagneらは、周皮細胞が傷害される機構の候補についての手掛かりを探した。彼らはシクロフィリンA(CypA)とマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP9)に注目した。この2つのタンパク質は、APOE4による周皮細胞の損傷とBBBの崩壊に関与する炎症経路で機能する6。すると、軽度の認知機能障害があるAPOE4保有者は、同程度の認知機能障害があるAPOE3保有者や認知機能が正常なAPOE4保有者よりも、脳脊髄液におけるCypAやMMP9のレベルが高かった。繰り返すようだが、この変化もAβやタウの増加とは関係がなかった。

最後に、Montagneらは、APOE3あるいはAPOE4を発現するヒト誘導多能性幹細胞(iPS細胞)からin vitroで周皮細胞を作り出した。APOE4を発現する周皮細胞は、APOE3を発現する周皮細胞よりもかなり多くのCypAとMMP9を分泌することが分かった。周皮細胞から分泌されるApoE4(ApoE3ではない)は、近傍の周皮細胞のCypA–MMP9経路を活性化し、それにより活性化された細胞では細胞死が引き起こされた。さらにApoE4は、内皮細胞のCypA–MMP9経路も活性化することができ、内皮細胞はAPOE4の有害な影響に感受性であることが分かった7。つまり、周皮細胞と内皮細胞の損傷は、どちらもBBBの漏出を引き起こす可能性がある(図1)。

図1 APOE4遺伝子バリアントとアルツハイマー病
APOE4の保有者はアルツハイマー病のリスクが高い。Montagneら3は、ApoE4タンパク質が周皮細胞と呼ばれる細胞から分泌されるという証拠を示した。周皮細胞は、血液脳関門(BBB)で脳の毛細血管壁を構成する内皮細胞に隣接して存在している。分泌されたApoE4は、周皮細胞のシクロフィリンA(CypA)タンパク質を活性化する。これによって、周皮細胞や、場合によっては内皮細胞において、炎症性タンパク質であるマトリックスメタロプロテイナーゼ9(MMP9)の活性化を含む下流のシグナル伝達経路が開始する。その結果、隣接する内皮細胞間の結合部が破壊され、学習と記憶に関与する脳領域のBBBが開く。BBBの崩壊は認知機能障害に関連するが、この2つを結び付ける機構は分かっていない。 | 拡大する

これらの観察から、APOE4バリアントのアルツハイマー病での役割に新たな光が当てられた。それは、APOE4バリアントはAβやタウの蓄積を促進することによってのみ疾病に関与している4という、これまで広く受け入れられてきた考えに異論を唱えるものだ。APOE4保有者がアルツハイマー病を罹患しやすい理由は、BBBの機能障害によって説明されると考えられるのだ。Montagneらの知見から、APOE4保有者は、他のAPOEバリアントの保有者よりも、脳卒中や外傷性脳障害の後の転帰が不良である8理由も説明可能かもしれない。とはいえ、アルツハイマー病が進行するにつれて、APOE4保有者でもAβやタウの除去が遅くなり、それによって認知機能が著しく低下すると考えられる。

さらに注目すべきことは、APOE4保有者とAPOE3保有者では認知機能障害の初期のドライバーが異なっているという知見である。Montagneらの知見から、CypA経路の活性化と周皮細胞の損傷は、最も一般的なAPOEバリアントであるAPOE3保有者の認知機能障害には関与していない可能性があることが示されている。しかし、周皮細胞とは無関係の要因(例えば、Aβによって引き起こされる内皮細胞の損傷1)によって引き起こされるBBBからの漏出が、APOE3保有者の認知機能障害に関与するかどうかは分かっていない。また今回の研究では、APOE2は評価されておらず、APOE2保有者におけるBBBの役割も分かっていない。APOE2は他のAPOEバリアントよりもアルツハイマー病のリスクが低いが、これはBBBの回復力が高いためとは考えられない。というのは、APOE2保有者は微小出血のリスクが上昇していて、血管の脆弱さが示唆されているからである4

BBBの崩壊が認知機能障害につながるかどうか、またその仕組みはどのようなものかはまだ解明されていない。BBBの崩壊は、アルツハイマー病の過程での原因であるのか、あるいは結果なのだろうか? マウスにおける証拠から、フィブリノーゲンなど、血液中のいくつかのタンパク質がニューロン間のシナプス接続を破壊することが示されている9。しかし、これらのタンパク質がヒト脳において病因につながる役割を持つかどうかはまだ実証されていない。

このような疑問はあるが、Montagneらの研究により、APOE4が認知機能障害を促進する仕組みについての理解が深まった。また、さまざまなAPOE状態が異なる機構を介してアルツハイマー病を促進する可能性があることを実証した。遺伝子バリアントがアルツハイマー病を形作る仕組みについてより深く理解することは、罹患者の多い治療不能なこの疾患を治療するための、より個別化された手法の開発に重要である可能性がある。

(翻訳:三谷祐貴子)

Makoto Ishii & Costantino Iadecolaは、ワイルコーネル医科大学(米国ニューヨーク州)に所属。

参考文献

  1. Cortes-Canteli, M. & Iadecola, C. J. Am. Coll. Cardiol. 75,942–951 (2020).
  2. Nation, D. A. et al. Nature Med. 25, 270–276 (2019).
  3. Montagne, A. et al. Nature 581, 71–76 (2020).
  4. Yamazaki, Y., Zhao, N., Caulfield, T. R., Liu, C.-C. & Bu, G.Nature Rev. Neurol. 15, 501–518 (2019).
  5. Profaci, C. P., Munji, R. N., Pulido, R. S. & Daneman, R. J. Exp. Med. 217, e20190062 (2020).
  6. Bell, R. D. et al. Nature 485, 512–516 (2012).
  7. Koizumi, K. et al. Nature Commun. 9, 3816 (2018).
  8. Mahley, R. W., Weisgraber, K. H. & Huang, Y. Proc. Natl Acad. Sci. USA 103, 5644–5651 (2006).
  9. Merlini, M. et al. Neuron 101, 1099–1108 (2019).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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