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留学者とその家族を支えたい! ケイロン・イニシアチブの取り組み

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200417

世界で活躍することを目指す研究者と、その家族を支援するNPO法人ケイロン・イニシアチブが、研究者留学に帯同する家族を対象とした助成金制度を創設。理事長の足立春那(あだち・はるな)氏と、副理事長として活動をサポートする夫の剛也(たけや)氏に、設立のきっかけと設立に込めた思いを聞いた。

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RomoloTavani/iStock / Getty Images Plus/Getty

–– ケイロン・イニシアチブとは?

足立春那:「研究者の家族」の支援を通して科学とイノベーションを推進することを目的に、2019年9月に設立認証されたNPO法人です。

研究者の中には、配偶者のキャリアパスや子どもの教育、親の介護などの問題で、海外留学や研究継続を断念する「家族ブロック」を余儀なくされる事例が少なくありません。そこで、研究者の家族に向けた助成金制度「Cheiron-GIFTS」を創設しました。2020年の応募締め切りは4月30日です。

–– 設立のきっかけは?

足立剛也:まず、私がヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)のサイエンティフィックオフィサーとして、事務局のあるフランスのストラスブールに赴任することとなりました。HFSPは1987年、当時首相だった中曽根康弘氏が提唱して始まった国際研究プロジェクトで、世界のサイエンスに貢献しています。一家で渡仏したので、家族全体の環境変化が契機になったかと。

CNRS/ストラスブール大学などの兼業先では、専門である難病や免疫・アレルギーの研究も継続していますが、HFSPで世界をリードする基礎研究の支援の枠組みを目の当たりにし、研究を研究者側と研究支援者側双方の視点から俯瞰的に捉えられるようになった気がします。言い過ぎですね(笑)。

足立春那:私自身は、渡仏して間もない頃に夫が「子どもたちが一緒でなければ来なかったかもしれない」と言ったことが頭に残っていました。実際に、言葉も分からず慣れない生活の中、子どもたちの笑顔は心の支えになりました。ただ、子どもの教育含め、経済的にも時間的にもそれなりの投資が必要で、他の研究者のご家族も大変な思いをしているだろうと感じていました。

それに、業界に関する知識もなく、夫の言っていることもよく分からない。まずは、私たち家族のコミュニケーションの問題が第一の壁でした。研究者との間の見えない壁の存在は、社会全般でも言えることではないかと思い、研究者の家族として、次元の違う存在と捉えられがちな研究者を身近な存在へと変えていきたいと思うようになりました。

そんな中、HFSPの奨学金(ポスドクフェローシップ)の内容を夫から聞きました。生活費と研究費だけでなく、育児手当が追加で支給される。さらに、家族を含めた引越し手当もあり、産休もしっかりとれるというのです。

衝撃を受けました。留学は研究者自身が望んでするのだから、家族への支援なんて!と固定観念に縛られていたこともありますが、一方で、日本の研究者は世界と戦うためのベースラインにすら立てていない気がしたのです。そこで夫に、「海外に挑戦する研究者の家族にも安心を提供できないものか」と思いを打ち明けました。これが活動の始まりで、渡仏から4カ月ほど過ぎた2018年12月のことです。

–– 具体的に、どのような支援を?

足立春那:大きく3つのサポートを考えています。1つ目は、海外在住の研究者家族が直面する課題解決に役立つ情報プラットフォームです。すでに米国、フランス、シンガポールを中心に、課題解決の体験談を提供するとともに、有益な情報のリンク集を国別・課題別に紹介しています。2つ目は、前述の助成金制度、3つ目は、家族に関連する既存の取り組みとの連携です。

助成金の原資は、留学の際に大変な思いをされた研究者や、そのご家族からの寄付金が中心です。研究(者)の一番の理解者である家族を含めて研究者を支援することが、そのエコシステムを推進する第一歩になる、そんなビジョンを共有する方々がパートナーとして連携してくださっています。

また、こうしたビジョンに共感してくださった複数の企業さまとも、少しずつ話し合いを進めております。

–– ところで、日本から欧州への留学者数は、米国や中国に比べると少ないですが、どのような要因があるのでしょう?

足立剛也:海外で活躍する日本人研究者6000人をつなぐ「海外日本人研究者ネットワーク(UJA)」が、米国を中心とした各地の日本人研究者勉強会/コミュニティ間のネットワークを形成しています。UJAを通じて米国で活躍する研究者には比較的容易にたどり着くことができる一方、欧州のコミュニティは国・地域ごとの活動が主体となっているかもしれません。そのため、欧州で研究する魅力が十分伝わらなかったり、ロールモデルが分散してしまったりという懸念があります。

UJAは、ケイロン・イニシアチブの連携団体であり、私自身も理事を務めていて、今後は欧州や中国での展開を検討しています。まずは、良いロールモデルと知り合う機会を国内外で増やすことで、少しでもこの問題を解決できればと考えています。各学会と連携し、海外の日本人研究者を招致し、生の声を聞く「留学のすゝめ」という留学推進イベントも開催していますので、ぜひ足を運んでもらえれば幸いです。

–– 日本の研究者へメッセージを。

足立春那:家族が研究(者)の一番のサポーターであるという事実をもっと大きな強みに変えていけたら、それはさらに大きな力となり、明るい未来へとつながることでしょう。家族としても何よりうれしいことです。ただ正直、私たち家族がケイロン・イニシアチブに支援されたい! と毎日思っています(笑)。

(編集部)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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