学術界サバイバル術入門 — Training 10:学会発表 ①
学術誌で論文を発表してあなたの研究内容を伝えることは、あるトピックについてあなたが得た新しい知識をその分野の仲間と共有するための、とても重要な方法です。一方、国際的な学会で研究結果を発表することもまた、それに負けずとも劣らない重要な方法です。
国際的な学会への参加には、多くの利点があります。第一に、学会に出席している同輩はまさに、あなたが「私の論文を読んでほしい」と望んでいる人々です。同輩たちと直接顔を合わせる場で研究結果を披露することは、あなたの研究を、ターゲットとしている聴衆と共有するための最良の方法です。第二に、学会では、まだ論文として発表されていない現在進行中の研究に触れることができるので、あなたの分野の主要な傾向を確実に把握できます。さらに、研究者たちと直接会って彼らの研究について尋ねる機会が得られます。学術誌に発表された論文を読んでいるときにはまず得られないチャンスです。第三に、学会で出会った研究者とネットワークをつくる機会や、国際的な共同研究を立ち上げる機会も生まれるでしょう。いくつかの研究で、国際的な共同研究を行った論文はインパクトの強い学術誌に掲載される傾向が強く、引用の数も多くなることが示されています。1,2,3
学会への参加が重要であることはこれで明確ですね。しかしその一方で、あなた自身がその分野において確かな評判を確立するために、学会で同輩たちに強い印象を与える必要があります。この目的を達成するには、ポスターやスライドを使ってあなたの発見を明確かつシンプルに発表し、そして、自信を持ってはっきりと研究成果を伝えて信頼を得る必要があるでしょう。
まず、ポスター発表についてお話ししましょう。ポスター発表は、あなたが現在行っている研究について発表し、同輩たちと1対1で議論する機会を与えてくれる素晴らしい方法です。ですから、ポスター発表はしばしばスライド発表よりもはるかに対話的であり、興味をそそるものになります。ポスター発表を上手に活用して、同輩たちと新しいネットワークを築きましょう!
ポスターに関して覚えておくべき最初の重要なポイントは、ポスターは「見せるためのもの」だということです。人々はポスターを「読む」のではなく、「見る」のです。ですから、ポスターでは研究結果に焦点を合わせて、文章はどうしても必要な場合だけにとどめましょう。ポスターを論文要旨の視覚的表現の場と考えると、想像しやすいかもしれません。まさに要旨と同じく、背景はごく簡潔に触れるにとどめ、方法は最小限にまとめ、結論は要点のみに絞るべきです。そして、研究結果に焦点を合わせるようにします。人々が知りたいのはそこなのですから。
背景は、150ワード以内の1パラグラフに簡潔にまとめましょう。その中でトピックを紹介して、なぜ今、このトピックをこの分野で研究する必要があるかを説明します。ここでは研究を行った動機を明示することが肝要です。また、こうした情報を表す助けとして図やモデルを活用できればさらにいいでしょう。こうすれば、背景のセクションで、視覚を介して聴衆を案内できるのです。
方法のセクションでは、細部に触れ過ぎないようにして、研究設計と重要な技術について要約するべきです。ここでも、こうした情報を表す際に、視覚に訴える図やフローチャートなどを使うと、聴衆を導くのに役立つ場合があります。
ポスターの大部分は、研究結果に関する図が中心となるでしょう。読みやすいように、十分に大きく、画質の良いものを使いましょう。印刷用の画像は一般にCMYKおよび300dpi以上(デジタル画像の場合はRGBで72dpi以上)です。表は、罫線がたくさんあると読みにくいため、罫線の使用は最小限に抑えます(有名な学術誌に発表されている表を参考にして、適切な表の形式について学び、読みやすさを改善しましょう)。グラフに関しては、全ての軸に適切なラベルが付いていること、データが明確に表されていることを確認しましょう。図の説明文は、論文の「result-discussion(結果-考察)」一体型のセクションで使用するものに近いです。最初に、図が示す内容について論じ、次に重要な傾向と関係を明示し、あなたの研究に関連するこれらの結果の重要性についてのあなた自身の解釈で締めくくります。
最後に、研究の要点をまとめた短い結論を提示します。聴衆はあなたの研究結果をずっと見てきて、おそらく少々飽きていると思われますから、ここは箇条書きにしてもよいでしょう。覚えておくべき重要な点を箇条書きで強調することで、同輩たちに確実に、あなたの研究がその分野にとって価値があるものだと分かるはずです。
ポスターの形式に関して、カギとなるのは簡潔さです。まず、情報は横列ではなく縦列でまとめるようにしましょう(図参照)。こうすることで、人々はポスターを上から下に読み、そして次に、左から右へと移ることができます。横列で書かれていると、人々はポスターの前を行ったり来たりしなければならず、あなたのポスターを見ている他の人とぶつかってしまうかもしれません。次に、フォントはArialやHelveticaのようなサンセリフ体を使用しましょう。離れた場所からでも読みやすい字体だからです。そしてフォントサイズは、1~1.5m離れた所からでも確実に読める大きさにしましょう。タイトルには、遠くからでも容易に読めるように85ptのフォントを、著者名には50ptを使用しましょう。見出しには36~44pt、本文には24~28ptが適切です。最後に、色の数は最小限に抑えましょう。関心が研究結果からそれるのを避けるためです。カラフルな数字を使うなら、背景は非常に地味な色(例えば、白か明るい灰色)にします。数字がほとんどモノクロであるなら、ポスターをもう少し目立たせるために、ほんの少しだけカラフルな背景色を使用してもいいでしょう。
(翻訳:古川奈々子)
ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)
ネイチャー・リサーチにて編集開発マネージャーを務める。ペンシルべニア大学でPhD取得後、シンガポールおよび日本の研究所や大学に勤務。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。学術界での20年にわたる経験を生かし、研究者を対象に論文の質の向上や、研究のインパクトを最大にするノウハウを提供することを目的とした「Nature Masterclasses」ワークショップを世界各国で開催している。
Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 9
DOI: 10.1038/ndigest.2019.190918
参考文献
- Parish, A. J. et al. PloS ONE, e0189742 (2018).
- Smith, D. P. et al. PloS ONE, e0109195 (2014).
- Guerrero Bote, V. P. et al. J Am Soc Info Sci Technol. 64, 392–404 (2013).
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