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小児がんをゲノム解析で攻略する

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180504

原文:Nature (2018-02-28) | doi: 10.1038/d41586-018-02359-6 | Genome studies unlock childhood-cancer clues

Heidi Ledford

数十種類の小児がんの横断解析によって、新たな薬剤標的候補が多数見つかった。

ゲノム解析を使って開発した治療薬が、いつの日か小児がん患者に役立つだろう。 | 拡大する

RJ Sangosti/The Denver Post via Getty Images

小児がん20種類以上に相当する1700例以上の腫瘍検体のゲノムが細かく解析され、小児がんの薬剤標的候補が明らかになるとともに、小児でがんがどのように生じるかを理解するさらなる手掛かりが得られた。

Nature 2018年3月15日号に掲載された2本の論文1, 2は、小児がんの研究にゲノミクスを活用するという、現在高まりつつある取り組みの一環である。世界中の研究者が手を携え、小児がんの研究に有用なゲノム解析データや技術、細胞株の共有を進めているのだ。

こうした取り組みから、がんの引き金として重要な遺伝的変化を列記した長大なリストが作成されつつある。しかし、これらの遺伝的手掛かりの中から最適な薬剤標的候補を絞り込むには、今後さらに研究を積み重ねる必要があるだろう。「単にゲノム解析データを丹念に調べればいいというわけではないのです」と話すのは、米国の小児がん患者支援組織「Childrenʼs Cause for Cancer Advocacy」(CCCA)の創設者Susan Weinerだ。「薬剤標的の妥当性も問題になるのです」。

薬剤標的候補の絞り込みは、ある意味では、成人のがんよりも小児がんの方がたやすい。成人よりも小児の方が腫瘍内に蓄積されている変異の数が少ないため、腫瘍の増殖を実際に促進する遺伝的変化を特定しやすいからだ。

しかし、小児がんはどちらかといえば希少であり、従って臨床試験に登録できる患者数は少なく、塩基配列を解析するための腫瘍検体の数も少ない。また、関連する医薬品市場がかなり小規模であるため、この領域の創薬に関心を持つ製薬会社も少ない。「我々は、成人がんの薬剤開発からの遅れを取り戻そうとしているところです」とWeiner。

小児がんに共闘で挑む

今回の2つの研究チームは、重要な遺伝的変異の検出能力を上げるため、さまざまな種類の腫瘍を横断する形でデータを統合した。一方のドイツがん研究センター(ハイデルベルク)のチームは、24種類のがんに相当する計961例の腫瘍検体を調べた1。もう一方の、聖ジュード小児研究病院(米国テネシー州メンフィス)の計算生物学者Jinghui Zhangのチームは、白血病3種類と脳や骨に見られる固形腫瘍3種類について、計1699例の腫瘍検体を解析した2

それぞれの研究で、ドライバー遺伝子(腫瘍の発生や増殖促進など、悪性化に直接関与する遺伝子)と推定されるものが140以上見つかった。聖ジュード小児研究病院チームが見つけたドライバー遺伝子のうち、成人腫瘍の解析で見つかっているドライバー遺伝子候補と一致したのは、45%にとどまった。ドイツがん研究センターのチームの研究では、見つかった遺伝子の約半数が薬剤標的として有望だと推定された。

意外だったのは、小児腫瘍の検体に、DNA修復に異常がある可能性を示すものが数多く存在したことだ。これは、遺伝子BRCA1BRCA2に変異のある成人がんで見られる影響と類似している。そうした成人がんに対しては現在、DNA修復異常のある細胞を標的とする「PARP阻害剤」という薬剤を投与することが多くなってきている(Nature ダイジェスト 2014年9月号「息を吹き返した抗がん剤『PARP阻害薬』」参照)。今回の2件の研究結果からみて、PARP阻害剤が一部の小児がんで有効かどうかを調べる価値もあると考えられる。

今回の2件の知見は、小児がんで重要な他の遺伝子を検出するための検査法にもつながる可能性がある。こうした検査法を使って、適切な治療薬を選び出せるかもしれない。現在、この種の検査法は、成人がんに存在する変異をスクリーニングするためのものが多く、従って、特に小児の腫瘍にある変異を対象に含んではいないと思われる。「小児がんに特化して開発された検査用遺伝子パネルは今のところありません」とZhang。

今後の目標

しかし、変異の特定から有効な薬剤の開発に至る道のりは今もって遠い。

2018年2月20日、数百人の研究者や、患者支援団体、規制当局などがワシントンD.C.に集結し、小児がん治療の最も有望な標的を絞り込む方法について議論した。この会合を主催したのは、同地にある非営利のがん研究シンクタンクでロビー団体でもある「Friends of Cancer Research」だ。会合開催の推進力となったのは、2017年に成立したある法律である。この法律によって米国食品医薬品局(FDA)は、たとえ成人がん用に開発された抗がん剤であっても、一部のものを小児で試験するよう製薬企業に求める権限を与えられた。ただしFDAがそう要求するには、該当する実験的薬剤の分子標的が、小児がんに対して「有意な関連性」があると見なせる場合に限られる。

この「有意な関連性」という言葉の意味を確定することは難しいのではないかと、ダナ・ファーバーがん研究所(米国マサチューセッツ州ボストン)の小児がん専門医Katherine Janewayは話す。「どんな分子標的が小児がん患者と関連するかについては、分からないことがたくさんあるからです」と彼女は言う。

しかし、ゲノミクスの分野にしっかりした土台を築くことは出発点として有効だと、同じくダナ・ファーバーがん研究所の小児がん専門医のScott Armstrongは話す。また現在、複数の研究室が、そうした変異ががんにどう関与しているかを探ろうとしている。例えば、ブロード研究所(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)は、ゲノム編集ツールを使って、小児がん細胞の遺伝子機能を体系的に調べているところだ。

「これらのスクリーニングは非常に有用な情報源になるでしょうが、それで話が終わるわけではありません」とArmstrongは話す。「こうしたスクリーニングは、小児がんで起こっていることを理解するためのさらなる出発点となるのです」。

(翻訳:船田晶子)

参考文献

  1. Gröbner, S. N. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature25480 (2018).
  2. Ma, X. et al. Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature25795 (2018).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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