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米国のポスドクの給料格差

Credit: ATU Images/Getty

ある科学擁護団体が2017年11月1日、米国の52の大学に勤務するキャリア早期の研究者の給料について、1年に及んだ調査の結果を発表した。この給料データは不完全で、時に不正確であるように見える。給料がゼロと報告されているポスドクがいたりする上、現在進められている別の調査では、米国のポスドクが全体としてもっと高額の給料を得ていることが示唆されているからだ。けれども今回の分析は、「ポスドク」が学術研究機関の被用者の中で周囲からの認知も理解も十分得られておらず、彼らに関する基本的な情報を入手することが難しいという事実を浮き彫りにした、という意義がある。

米国マサチューセッツ州ボストンを拠点とする科学擁護団体「フューチャー・オブ・リサーチ(Future of Research)」の執行役員で、以前は発生生物学者として働いていたGary McDowellは、米国の情報自由法(Freedom of Information Act)を利用して51の公立大学の約1万3000人のポスドクの給料報告書を収集した他、人脈を活用して1つの私立大学の給料情報も入手した。

McDowellによると、大部分の大学は彼に給料情報を提供するために精一杯調べてくれたが、彼が接触した時点で手元に数字を持っていた大学はほとんどなかったという。McDowellはさらに、電話口で大学の職員に「ポスドク」の意味を説明するのにかなりの時間を取られたという。「『あなたのところのポスドクの給料はいくらですか?』というごく基本的な質問をしただけなのに、多くの混乱がありました。このことからも、ポスドクに対する大学の関心度合いがよく分かります」とMcDowell。

さらにいくつかの大学は、あり得ないような数字を報告してきた。その1つであるユタ大学(ソルトレークシティー)は、給料の年額が0ドルのポスドクが50人いると報告している。McDowellは、この研究者たちが無給のボランティアである可能性は低く、ユタ大学を含むいくつかの大学は、大学からポスドクに直接支払われた金額だけを報告し、奨学金や外部の収入源を見落としたのではないかと考えている。ユタ大学の広報担当者も、「本学のポスドク研究者は、仕事に対する報酬を得ております」と述べる。

データをまとめるにあたり、McDowellは年額2万3660ドル(約260万円)未満と報告されている411件を除外することにした。この金額を下回っているポスドクの多くは、連邦法に基づいて超過勤務手当を請求できるはずだ。「おそらく報告ミスでしょう」とMcDowellは言う。

ポスドクの給料格差
ポスドクの給料の調査から、米国のポスドクの3分の2強は給料の年額が5万ドル(約550万円)未満であることが明らかになった。分析結果は、52の大学の約1万3000人のポスドクの給料データに基づいている。 Credit: SOURCE: GARY MCDOWELL/FUTURE OF RESEARCH

残りの1万2554件の給料報告は年額2万3660~11万4600ドル(約1260万円)まで幅があった(「ポスドクの給料格差」参照)。McDowellは、一部の大学は報告データに、スタッフサイエンティストやその他の被用者への支払いを含めているのではないかと推測している。そう考えれば、最高額の給料の一部は説明がつく。こうした点を考慮しても、彼の調査は、ポスドクの給料に大きな格差があることを示している。報告された給料の中央値が最も低かったのはイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の2万7515ドル(約300万円)で、最も高かったのはメリーランド大学カレッジパーク校の5万6000ドル(約620万円)だった。

McDowellは、データがまだ不完全であることを強調する。いくつかの大学はごく一部の被用者の給料しか報告していないし、カリフォルニア大学システム(大学群)はMcDowellの要請を完全に拒否した。Natureが同大学システムの公記録局に拒否の理由を問い合わせたところ、「McDowell氏から要請されたデータ報告書を作成するのに必要なプログラミング」を行う能力がないからだと説明された。

ポスドクの給料について情報を収集する試みは他にもあるが、これほどの抵抗は受けていない。全米ポスドク協会(NPA;メリーランド州ロックビル)は、発表を予定している報告書のために、200以上の加盟大学のうち127の大学から給料情報を得た。そのうちの85%が、全てのポスドクに最低4万7484ドル(約520万円)を支払っていると報告している。4万7484ドルという金額は、米国立衛生研究所(NIH)が2017会計年度に定めたポスドクの最低給料だ。NPAは2018年1月に完全な調査結果を発表する予定である。

McDowellの分析は2017年11月1日の発表では終わらず、それから1カ月間、フューチャー・オブ・リサーチのウェブサイト(futureofresearch.org)で、各大学や大学システムの給料の分析結果を毎日発表した。このような形で発表を行うことで、キャリア早期の研究者の待遇についての対話を促すことが彼の狙いだ。「大学では金の話はするべきではなく、金を欲しがってはいけないとされています。けれども私は、科学者は科学者をもっと尊重するべきだと思っています」とMcDowellは言う。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2018.180214

原文

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  • Nature (2017-11-09) | DOI: 10.1038/nature.2017.22932
  • Chris Woolston