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CRISPR作物はGM作物と同じくEU法の規制下に

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2018.181113

原文:Nature (2018-07-25) | doi: 10.1038/d41586-018-05814-6 | CRISPR plants now subject to tough GM laws in European Union

Ewen Callaway

欧州最高司法府が遺伝子編集作物について示した判断は、科学者や遺伝子編集作物推進者に衝撃を与えている。

EU では、遺伝子編集作物は今後、遺伝子組換え生物と同じ規制下で取り扱われる。 | 拡大する

CHRIS RATCLIFFE/BLOOMBERG/GETTY

欧州司法裁判所(ECJ;ルクセンブルク)は7月25日、「遺伝子編集作物は、従来のGMO(genetically modified organisms;遺伝子組換え生物)と同一の厳密な規制を受けなければならない」との判断を下した。ECJは、欧州連合(EU)の最高裁判所に相当し、EU法の解釈を担う機関だ。この判断は、科学者をはじめとする多くの遺伝子編集作物推進者たちにとって大きな打撃となった。CRISPR–Cas9のような比較的新しい正確な遺伝子編集技術で作り出された生物は、GM作物の栽培と販売を制限している既存のEU法の適用を免れることが期待されていたからだ。

ECJは今回の判断で、遺伝子編集技術によって改変された作物も、2001年に制定されたGMO指令(Directive 2001/18/EC)の対象とすることを決定した。この法令は旧来の育種技術のために作られ、食用GM作物の開発に高いハードルを設定している。

EU法と国際法に精通するワーヘニンゲン大学研究センター(オランダ)の法学者Kai Purnhagenは、「今回の判断は重要で、とても厳格なものです」と話す。「CRISPR–Cas9食物などの新しい発明品は全て、時間のかかるEUの承認手続きを経る必要があります」。

今回の判断について「ひどくがっかりした」と評するのは、ロザムステッド研究所(英国ハーペンデン)の作物遺伝学者Nigel Halfordだ。彼は、遺伝子編集技術は今後も作物開発用の研究ツールとして用いられるだろうが、欧州の企業が進んでその開発に手を出すことはないだろうと考えている。「企業は、商用化が全く期待できない技術には投資しないでしょう」。

一方、環境保護団体Friends of the Earth(FoE;本部はオランダ・アムステルダム)は声明を発表し、裁判所の今回の判断を称賛した。彼らは、遺伝子編集が施されている全ての産物について、規制と、健康と環境への影響に関する評価、および遺伝子編集作物と分かるよう表示することを求めていた。

DNAの変化

ECJの判断の背後にあるGMO指令は、GMOが意図的に環境に放出されることへの懸念を受けて制定されたもので、遺伝子全体や長いDNA配列が導入された種が対象であった。一方、放射線照射など、生物のDNAに変化を生じさせるが外来の遺伝物質は加えない「変異誘発」技術を用いてゲノムが改変された生物は、この指令の対象外とされた。

2016年、フランス政府はECJに、2001年以降に登場した植物育種技術を考慮した上でのGMO指令の解釈を求めて提訴した。

CRISPR–Cas9などの遺伝子編集技術について、多くの植物育種家や科学者は、DNAを変化させられるが外来遺伝子を挿入するものではないため、放射線照射と同様の変異誘発法と見なして、GMO指令の適用対象から外すべきだと主張した。しかしGMOに反対する人々は、遺伝子編集によって行われる改変は意図的なものであり、指令の対象にすべきだと主張した。

2018年1月、裁判所の法務官Michal Bobekは1万5000語に及ぶ意見書を発表した。Bobekは、遺伝子編集作物は確かに指令の対象であるGMOに該当するが、遺伝子編集に用いられている技術など2001年以降に開発された技術で操作された種は、他種由来のDNAや人工DNAを含まない限り、適用対象から除外され得る、と論じていた。この意見書について、両陣営はそれぞれ、一部は自分たちに有利だと主張していた。

しかし今回ECJが示した判断によれば、変異誘発技術についてのみ「以前からさまざまな用途で用いられていて、長年にわたり安全だった実績がある」ため「こうした規制の対象から除外する」と決定した。遺伝子編集など、2001年以降に開発された変異誘発技術を用いて作られた生物は、GMO指令の対象から除外されなかったのだ。

インセンティブがない

ウーメオ大学(スウェーデン)の植物生理学者Stefan Janssonは、「GMO指令がこれまで15年にわたって研究界の熱を奪ってきたように、今回の判断も研究を冷え込ませる方向に働くことでしょう」と話す。「社会が有用と認めるものを作れなければ、我々に資金が回ってくる可能性は低くなるでしょう」。

Janssonはまた、今回の判断が、彼が実践しているある事柄にどう影響するか気になっている。彼は自家用に「CRISPRキャベツ」を開発し、家庭菜園で栽培中なのだそうだ。

「昨日写真を撮り、裁判所の判断が出た後でもう一度撮影しました。同じ植物ですが、昨日はGM作物ではなかったのに、今日からはGM作物です。自分が何をしなければならないのか、少し興味があります。引き抜かなければならないでしょうか」。

Purnhagenは、遺伝子編集技術が、放射線照射などのすでに規制の対象外とされている変異誘発法と同程度に安全であることを科学者たちが証明できれば、適用除外を勝ち取れる可能性があると言う。だが、遺伝子編集作物の開発に携わる科学者や企業が望みを持ち続けるかは疑わしい。

(翻訳:小林盛方)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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