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加熱しても冷却してもできる超分子ポリマー

宮島 大吾

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170915

プラスチックなどポリマーは温度が上昇するとバラバラになるという常識を覆し、加熱すると結合(重合)する「超分子ポリマー」の開発に、理化学研究所の宮島大吾上級研究員、相田卓三グループディレクターらの研究チームが成功した。分散した状態で冷却しても同様の重合が見られ、新たな材料開発に道を開くものとして注目される。6月26日付Nature Chemistry電子版に掲載された1。開発の背景、今後の研究の方向性などについて、研究を中心となって進めた宮島上級研究員に聞いた。

–– まずは、研究の背景について教えてください。

宮島: 身の回りを見渡すと、プラスチックなど高分子が重合した製品があふれています。我々の研究室は、今までにない新しいポリマー(有機高分子化合物)の開発に挑戦しています。ポリマーは、それを構成するモノマーが共有結合という強い力で数珠のようにつながって形成されます。一方、30年ほど前に、モノマー同士が水素結合などの弱い力でくっつく「超分子ポリマー」という新しい高分子が開発されました。従来のポリマーの共有結合より、かなり弱い力で重合したものです。私たちは超分子ポリマーの、従来のポリマーにはない性質に注目し研究を行ってきました。

–– 超分子ポリマーでどのようなことを目指されたのですか?

宮島: 超分子ポリマーに限らず、熱力学の法則より全てのポリマーは加熱するとある温度でバラバラになってしまいます。モノマー同士が弱い力でくっついている超分子ポリマーは特にバラバラになりやすく、材料への応用の際、問題視されていました。私たちは、加熱するとバラバラになるという常識に反し、加熱すると重合するポリマーができれば面白いのではないかと考えました。

–– どのようにして、熱力学の法則を打ち破ったのですか?

図1 ポリマーがLCSTにより凝集する仕組み
水溶液中のポリマーを加熱すると、ある温度でポリマーが凝集して白く濁る。加熱することで水分子がポリマーから解放され、ポリマー同士が結合しやすくなった。 | 拡大する

宮島: 熱力学の法則を破ることはできませんが、一見するとこの法則に反するような現象が報告されており、それがヒントになりました。ある種のポリマーを水溶液に溶かし加熱すると、水中でバラバラだったポリマーが凝集し、沈殿や不透明な集合体を形成することが報告されています。この集合体ができる温度は「下限臨界共存温度(LCST)」と呼ばれます。加熱するとポリマーが凝集しますので、前述の熱力学の法則に反する現象です。しかし、実際には、この現象も熱力学の法則にしっかりと則っています。このような現象を示すポリマーは、水素結合などで多くの水分子を表面に吸着しています。熱力学の法則より、加熱するとこの水分子がバラバラになりポリマーから離れていきます(図1)。その結果、水分子から解放されたポリマー同士が結合しやすくなり、凝集するのです。この原理を応用すれば、超分子ポリマーが作れるのではないかと考えました。

–– LCSTというのは面白い現象ですね。他の研究者も注目されているのでしょうか?

宮島: はい、現在も多くの研究者たちが熱心に研究を行っています。その中でも東京女子医科大学の岡野光夫教授らはこの原理を利用し、無侵襲でシート状培養組織を回収する技術を確立し実用化しています。「ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)」というLCSTを示すポリマーからなるシート上で細胞を培養することで、LCSTまで温度を上昇させて培養組織を簡単に剥がすことができるのです。このように多くの研究が行われていますが、私たちのように加熱してポリマーを形成するためにLCSTの原理を応用しようと考えた研究者はあまりいなかったようです。

–– 今回の開発した超分子ポリマーについてお聞かせください。

宮島: 私たちは「PORCu」というモノマーを設計・合成し、ここにアルコールを加えることで、加熱すると重合する超分子ポリマーを実現しました。PORCuは、中央に銅(Cu)があるポルフィリンに側鎖が4つ結合した構造をしています。1つの側鎖には2つのアミド基(-NH-CO-)があります。アミド基(図2青い円)は、アミド基同士で水素結合を形成することができます。PORCuは、中央の構造のπ共役コア同士が重なることで生じる「π–π相互作用」と、側鎖のアミド基同士の分子間水素結合で重合していると考えられます。

 PORCu以外に4種類設計しましたが、いいものができるまで1年かかりました。PORCuは極性(分子内の電気的な偏り)が低い有機溶媒中では重合してポリマーを形成します。110℃以上に加熱しても脱重合は起こりません。

–– ところがアルコールを加えると、性質が変わるのですね。

宮島: そのとおりです。十分な量のヘキサノール(C6H13OH)などを加えると重合せず、PORCuはバラバラな状態で存在することが分かりました。アルコールの水酸基(-OH)が、PORCuの8つのアミド基と水素結合することで、PORCu同士の水素結合形成が妨げられるためと考えられます。この状態は常温など比較的温度の低い状態で安定しています。

–– アルコールを入れる前の重合より、アミド基と水酸基の水素結合の方が強いということですね。

アミド基と水酸基の水素結合の方が、アミド基同士の水素結合に比べて十分強いというわけではありません。しかし、加えるアルコールの量を増やすと、アミド基の数に比べてアルコールの数が圧倒的に多くなり、アミド基同士の水素結合を全て、アミド基と水酸基の水素結合に置き換えることができます。

–– これを加熱したということですね。

宮島: 加熱することで、アルコールがPORCuから離れ、再びPORCu同士の相互作用で重合し、超分子ポリマーが形成されるのではないかと仮説を立てたわけです。実際、アルコールの量とPORCuの濃度を調整することで、加熱すると超分子ポリマーが形成するのが確認できました。逆に温度を下げると、超分子ポリマーはバラバラになりました。これまでのポリマーの常識を覆し、加熱すると形成される超分子ポリマーの開発に成功した瞬間です。

–– 超分子ポリマーが形成される温度はどのくらいですか。

宮島: アルコールの量でこの温度は調整できます。ヘキサノールの場合40~70℃の範囲で制御できます。また面白いことに、アルコールの量が適切だと、60℃の溶液ではPORCuはバラバラに存在するのですが、その溶液を110℃に加熱するか、もしくは20℃近くまで温度を下げても、超分子ポリマーができることが分かりました。つまり、温度を上げたり下げたりすることで、超分子ポリマーを自在に形成させることができるのです(図2)。

図2 PORCuの分子構造(左)と、加熱・冷却により超分子ポリマーが形成される様子の模式図(右)
十分な量のアルコール(ヘキサノール)存在下では、PORCuのアミド基とアルコールの水酸基が水素結合を形成しているため、PORCuはバラバラの状態で存在する。加熱・冷却によりアルコールがPORCuから離れ、PORCuのアミド基同士が水素結合して重合する。 | 拡大する

–– なぜ、冷却しても重合が起きたのでしょうか。

図3 ヘキサノールを加えた溶液でPORCuの重合度と温度の関係のグラフ
加熱の場合(青線)、60℃を超えると重合が始まり、100℃でピークを迎える。冷却の場合は、50℃以下になると重合が始まり、20℃でピークを迎える。ヘキサノールがない場合、変化はない(赤線)。 | 拡大する

宮島: ミセルをご存じでしょうか。界面活性剤に代表される、親水性部位と疎水性部位からなる有機化合物が形成する球状の集合体のことです。水中では、疎水性部位が水と相互作用しないように球の中心に集まろうとします。その結果、水に溶けにくい油などがミセルの中心部に取り込まれることで、洗剤としての効果を発揮します。実は非極性溶媒中のPORCuに加えられたアルコールは、冷却されることで、アルコール同士が水素結合を形成し、「逆ミセル」を作ると考えられます。ミセルとは逆に、親水性物質が中央に集まった構造です。温度を下げると逆ミセルの形成が促進され、PORCuと結合するアルコールが少なくなることでPORCuの重合が進んだと考えられます。加熱、冷却にせよ、この超分子ポリマーの形成には、アルコールをうまくコントロールしていくことがカギを握っているわけです。

図4 各温度でのポリマーを原子間力顕微鏡で撮影した観察結果
50℃では何も映らず、20℃、110℃付近ではポリマーが観測された。つまり重合が起きたことを証明。 | 拡大する

–– 興味深いですね。どんな用途に使えますか?

宮島: 同じ素材で、加熱、冷却どちらでも重合が進む超分子ポリマーは世界初と言えます。例えば、エンジンオイルなどに応用できないかと考えています。エンジンオイルは、温度が高くなると粘度が下がり、エンジンの摩耗が問題になります。しかし、エンジンオイルの粘度を上げると、冬場など低温時でのエンジンの始動が困難になります。ある一定の温度以上では粘度などを可逆的に変えられるPORCuは役立つかもしれません。正直、どんな分野に応用できるかは未知数ですが、従来にない新しい性質の超分子ポリマーが手に入ったことで、ポリマーの設計などの新しい指針になることを期待しています。

–– 宮島さんは若手ですが、次々に成果を出しています。何が大切だと思いますか。

宮島: 今回の成果は、温度が下がっても重合することまでは予想しませんでした。全くの偶然です。机上で思いつくアイデアは他の研究者も想像し得るものであり、大きなインパクトを与える成果にはなりにくいです。計画は大事ですが、予想外の結果に「気付き」、気が付いたことを徹底的に考える姿勢が大事だと考えています。私の上司である相田先生は、予想外の発見を「泥の中から金塊を見つける」とたとえますが、泥の中に金塊があると信じて探し続ける執念、これだけは他のグループに負けていないと思っています。

–– ありがとうございました。

聞き手は、玉村治(サイエンスライター)。

Author Profile

宮島 大吾(みやじま・だいご)

理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発ソフトマター機能研究グループ上級研究員
2013年東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻修了。博士(工学)。同年、理化学研究所特別研究員。2017年より現職。専門は材料化学・超分子化学。博士課程時代に世界初の強誘電性カラムナー液晶を開発し(2012年Science)、2013年に日本学術振興会育志賞・東京大学総長賞を受賞。その後も精密超分子重合(2015年Science)、超高感度薄膜アクチュエータ(2016年Nature Materials)など新しい材料開発に挑戦し続けている。

宮島 大吾氏

参考文献

  1. Venkata Rao, K. et al. Nature Chemistry http://dx.doi.org/10.1038/nchem.2812 (2017).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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