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中性子星の核心に迫るNICER

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170909

原文:Nature (2017-06-01) | doi: 10.1038/546018a | Neutron stars to open their heavy hearts

Elizabeth Gibney

NASAが打ち上げた中性子星観測装置NICERが、宇宙で最も高密度な物質の内部を初めて覗き込む。

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NASA/Keith Gendreau

高速で回転しながら放射を発生する中性子星、パルサー。天文学者と物理学者はもう半世紀も、パルサーを眺めては首をかしげてきた。公園ほどの大きさの物質が、どうして太陽よりも大きい質量を持つことができるのだろう? 物質がどのような構造をとれば、こんな途方もない高密度になれるのだろう? 地上の実験室の中でこれらの疑問に答えることは不可能だ。けれども2017年6月3日に国際宇宙ステーションに向けて打ち上げられたNASAの中性子星観測装置NICER(Neutron Star Interior Composition Explorer)なら、いくつかの疑問に答えられるはずだ。この装置により天文学者は初めて、高速で回転する謎の天体の内部を詳細に見ることが可能になる。

理化学研究所数理創造プログラム(埼玉県和光市)のプログラムディレクターである理論物理学者の初田哲男は、「宇宙で最も高密度の物質の特性解明に向けた、非常に大きな一歩です」と言う。「核物理学者と天体物理学者は、パルサーが初めて発見されたときからずっと、中性子星の核にある超高密度物質の状態を解明したいと思ってきました」。

パルサーは、磁極から短い周期で光を放射しているため規則的に明滅する。この特徴が1967年の発見を可能にした。中性子星は、爆発した恒星の残骸が圧縮されたものから形成される。中性子星の内部の物質がどのような状態で存在しているかは、基本的な力を介した素粒子の相互作用の仕方や、ブラックホールやその他の天体についての私たちの理解にも関わってくる。

アムステルダム大学(オランダ)の天体物理学者Nathalie Degenaarは、「中性子星の内部がどのようになっているかを大きく絞り込む最初の機会になるかもしれません」と言う(「中性子星の内部」参照)。6月中旬に国際宇宙ステーションに設置されたNICERは洗濯機サイズの箱型をしていて、中性子星の極から放射されるX線を観測して中性子星の大きさを計算する。

中性子星の内部
中性子星の内部では、物質が宇宙で最も高い密度で存在している。NASAのNICERミッションは、X線分光法を用いて中性子星の内部を探る。 | 拡大する

SOURCE: ADAPTED FROM NASA GODDARD SVS

中性子星の大きさを知ることは重要だ。中性子星が大きいなら、重力による圧縮にかなりのところまで耐えられる硬い核があり、中性子が原子核より高い密度で押し合いへし合いしていることになる。中性子がもっと小さく圧縮されているなら、内部は軟らかいはずで、中性子はクォークの海に溶けているのかもしれない。この他にも、中性子星の核は重いストレンジクォークを含む「ハイペロン」からできているなどとする極端な提案もある。

NICERは、中性子星が放射する光が巨大な重力場によってどのように曲げられるかを調べることで、中性子星の半径を特定する。国際宇宙ステーションから中性子星を見るとき、極から放射された光線がこちらを向いていないときには暗くなるが、中性子星の重力場が一部の光の向きを変化させてこちらに向かわせるため、完全に見えなくなることはない。天文学者は、光線が国際宇宙ステーションの方を向いていないときに光がどのくらい暗くなるかを調べることで重力場について知ることができ、そこから中性子星の質量半径比を知ることができる。そして、質量半径比を質量の測定値と組み合わせることで(中性子星の質量は、X線を放射するタイミングとエネルギーを調べることで導かれる。放射のタイミングとエネルギーは、中性子星の他の特性の影響を受けている)、従来のミッションの2倍以上の精度で中性子星の大きさを導き出すことができる。

複雑に絡まり合ったこれらの効果を解きほぐすには、できるだけ多くのX線を集める必要がある。NICERは、X線スペクトルの長波長側(多くの中性子星が最も明るく輝く波長域)を調べるために、56個のX線集光系を通してX線を集める。X線集光系の焦点面にはシリコンドリフト検出器が配置され、個々のX線の到着時刻を100ナノ秒より高い精度で記録する。マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の天体物理学者Ronald Remillardは、「これまで誰も試みたことのない、驚異的な計時能力です」と言う。彼は、NICERの主要なパルサー・ミッションが終わったら、これを使ってブラックホールの中に落下する物質を観測する予定である。

NICERミッションでは、未来の宇宙船が地上の望遠鏡に頼らずに自分の位置を特定できるようにする、ある新しいナビゲーション技術の試験も行う。GPSが人工衛星の原子時計の時刻データを用いて受信機の位置を三角法によって決定するように、パルサーから規則的に発せられる光の到着時刻を利用する「パルサー・ナビゲーション」である。NICERは、10個のパルサーについて、こうしたシステムに利用できるかどうかを調査するのだ。

NICERミッションの主任研究者であるゴダード宇宙飛行センター(米国メリーランド州グリーンベルト)の天文学者Keith Gendreauは、今回の試験がうまくいけば、NASAが開発中の新型宇宙船「オリオン」で、従来航法のバックアップとしてパルサー航法技術を利用する可能性があると言う。「パルサーをナビゲーションに利用して、太陽系内やその先の宇宙を目指せるようになるのです」とGendreauは語る。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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