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「時間結晶」を初めて実現

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170632

原文:Nature (2017-03-09) | doi: 10.1038/543185a | Marching to a different quantum beat

Chetan Nayak

結晶は空間の中で同じ構造が繰り返される物質状態であり、それが自発的に生成する。一方、物理量が時間とともに周期的に振動し続ける自発的な物質状態を「時間結晶」という。時間結晶は仮説上の存在だったが、今回、2つの研究グループがある種の時間結晶を初めて作り出したと報告した。

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ALFRED PASIEKA/SCIENCE PHOTO LIBRARY/Science Photo Library/Getty Images

結晶は、古くから知られた物質状態だが、結晶では対称性が「自発的に破れて」いる。というのは、こういうことだ。原子の集団内の相互作用は、原子がどこにあっても同じだから、物理学の方程式は空間並進に対して不変だ。つまり、どの場所も他の場所と変わりはない。しかし、ある温度以下になると、原子は結晶状態に自発的に落ち着く。このとき、原子がある場所(結晶の格子点)という特別な場所が生じ、空間の並進対称性が破れている。このように対称性が破れた状態は、磁石、液晶、超流動体など、自然界にはいっぱいある。

これと同様に、物理法則の時間並進対称性を自発的に破ることがあり得るだろうかと考えるのは自然なことだ。物理法則に関する限り、どの時刻も他の時刻と変わりはない。2012年、米国の物理学者フランク・ウィルチェックは、時間並進対称性が自発的に破れた新しい物質状態(連続的な時間並進対称性が離散的な時間並進対称性に自発的に破れ、物理量が周期的に振動し続ける物質状態)を「時間結晶」と呼び、その具体的な実現アイデアを初めて提案した1。その後の研究で、時間結晶は、当初から予想されたように不安定であることが示されたが2-4、最近、非平衡状態での改訂版である「フロケ時間結晶」という新たな概念が提案された5-8。今回、メリーランド大学カレッジパーク校共同量子研究所(米国)のJiehang Zhangら9と、ハーバード大学物理学科(米国)のSoonwon Choiら(筑波大学、量子科学技術研究開発機構などの日本の研究者を含む)10は、フロケ時間結晶を初めて実験的に作り出したことをNature 2017年3月9日号217ページ221ページでそれぞれ報告した。

フロケ時間結晶を理解するためには、通常の結晶の表面を考えるとよい。結晶中の原子の空間的配列のために、結晶表面は離散的な空間並進対称性を持つ。結晶を作っている原子とは異なる元素の原子が結晶表面に吸収されるとき、その原子は、結晶表面の対称性を引き継ぐこともあるだろうし、1つおきの吸着場所のみを占有するなど、より低い並進対称性を持つ原子層を作ることもあるだろう。もしも後者が起これば、結晶表面の離散的な並進対称性が自発的に破れたことになる。これと同様に、時間的に周期的な外場によって駆動される系は、離散的な時間並進対称性を持つだろう。この離散的時間並進対称性が自発的に破れたものが、フロケ時間結晶だ。

このアイデアの潜在的な問題は、周期的な駆動が系を熱し続けるので、いかなる種類の秩序状態も存在できなくなると予想されることだ11。しかし、研究者たちは、2つの抜け道を発見した。第一に、もしも駆動の周波数が系の局所的なエネルギースケールと比較して大きければ、加熱はゆっくりと起こり、前熱平衡化状態と呼ばれる長寿命の準定常状態が存在して12、そこでは非自明な物質状態が現れ得る13。第二に、移動しない不純物を系が高密度に含む場合は、多体局在と呼ばれる現象が起こり得る14。この現象では、不純物が励起をトラップするので、エネルギーの拡散は起こらない。この場合は、加熱は全く起こらず15、フロケ時間結晶などのエキゾチックな物質状態は無期限に生き延びることができる6

フロケ時間結晶の標準的な理論モデルでは6-8、1セットの磁気モーメント(スピン)たちが、その選択軸にだいたい沿ったランダムな強さの磁場が存在する中で、強磁性相互作用により相互作用する(図1)。その後、これらのスピンは、近似πパルスと呼ばれる、スピンの選択軸に垂直な一時的な磁場にさらされる。近似πパルスは、スピンを約180度回転させる強さと持続時間を持つ。しかし、回転角は必ずしも正確に180度ではない。この2つのステップが循環的に繰り返され、周期的な駆動を行う。

図1 フロケ時間結晶
Zhangら9とChoiら10は、フロケ時間結晶と呼ばれる、エキゾチックな物質状態の実験的証拠を得た。ここに示したのは単純化された理論モデルだ。
a. 1セットの磁気モーメント(スピンであり、その方向を紫色の矢印で示している)は、スピンの選択軸におおむね沿ったランダムな強さの磁場(B1)が存在する中で強磁性相互作用を行う。ここでは、3番目のスピンとその他のスピンとの相互作用のみを示している。また、全てのスピンが同じ方向を指している初期状態からの時間発展を示しているが、時間結晶は本来はそうした特別な初期状態を必要としない。
b. スピンはその後、選択軸に垂直な一時的な磁場(B2)にさらされる。磁場は、スピンを約180度回転(赤い矢印)させる強さと持続時間を持っている。この2つのステップが循環的に繰り返される。もしも強磁性相互作用が強ければ、B2がスピンを正確に180度回転させないときでも、スピンは2周期の駆動後に元の状態に戻る。これは「時間並進対称性」が破れていることを意味し、時間結晶の証である。 | 拡大する

参考文献9から改変

強磁性相互作用が弱ければ、スピンは、正確なπパルスで駆動された場合を除き、やがて駆動と同じ周期性を持つ状態へ緩和する。しかし、強磁性相互作用が強ければ、2周期の駆動で、スピンは正確に2回反転して元の状態に戻る。これは、離散的な時間並進対称性を破る。強磁性相互作用が系に「剛性」を与えるため、近似πパルスが正確なπパルスと著しく異なり、駆動が標準的モデルからいくらか逸脱するときでさえ、対称性の破れが熱揺らぎや量子揺らぎによって消し去られることはない。また、1つの領域と時間での秩序が、任意の離れた領域と後の時間での秩序と相関する、長距離秩序を系は示す。長距離秩序を持つことは時間結晶の特徴であり、自然界の他の振動と時間結晶を区別する。

ZhangらはとChoiらは今回、フロケ時間結晶と考えて矛盾のない実験データを報告した。2つの実験には明らかな共通点がある。第一に、どちらの研究グループも、スピン依存蛍光と呼ばれる性質を使って、よく隔離され、駆動された、相互作用のある量子系が、駆動よりも低い時間並進対称性を持つことを示した。第二に、どちらの実験も、位相コヒーレンスを時間的に保つ相互作用によって系が安定化されていることを示した。しかし、2つの実験の違いを認識することも重要だ。

Zhangらの研究では、最大で14個のトラップされたイッテルビウムイオンの系に、多体局在を促す周期的なレーザーパルス列を加えた。系が小さいので、その量子力学的運動方程式は分かっていて、信頼できるシミュレーションが可能であり、Zhangらは理論8と実験結果がよく一致することを見いだした。しかし、系が小さく、実験の時間が比較的短い(Zhangらは、1回に1個のイオンにランダム強度磁場を加えるという骨の折れる方法をとったため)ので、長距離秩序は完全には実証されていない、ともいえる。

一方、Choiらは、ダイヤモンドの中にランダムに分布した、約100万個の窒素空孔中心を使った。Choiらは、窒素空孔中心に所定のマイクロ波パルス列を加えたが、窒素空孔中心間の磁気双極子相互作用はランダムであり、また、あまりに数が多いためにシミュレーションはできない。Choiらの系は、多体局在が起きたり、前熱平衡化状態を作ったりするとは考えられていない。しかし、系は、無視できるほどではなく、理由も不明だが、極めてゆっくりと熱くなる。

Zhangらの実験は、フロケ時間結晶の標準的理論モデルの1つのバージョン8の直接的な実現であり、一方、Choiらの実験は、フロケ時間結晶は予想されたよりも自然界で容易に生じるのかもしれないことを示し、計測学などの分野に応用の可能性があることを示唆した。2つの研究グループは、時間結晶を実現した証拠を報告したが、彼らの今回の結果は、周期的な振動が長時間にわたって持続し、不可避の揺らぎによって消し去られないことを真に実証する実験が必要であることを示している。

(翻訳:新庄直樹)

Chetan Nayakは、マイクロソフトリサーチ・ステーションQとカリフォルニア大学サンタバーバラ校(米国)に所属。

参考文献

  1. Wilczek, F. Phys. Rev. Lett. 109, 160401 (2012).
  2. Bruno, P. Phys. Rev. Lett. 111, 070402 (2013).

  3. Nozières, P. Europhys. Lett. 103, 57008 (2013).
  4. Watanabe, H. & Oshikawa, M. Phys. Rev. Lett. 114, 251603 (2015).

  5. Sacha, K. Phys. Rev. A 91, 033617 (2015).

  6. Khemani, V. et al. Phys. Rev. Lett. 116, 250401 (2016).
  7. Else, D. V., Bauer, B. & Nayak, C. Phys. Rev. Lett. 117, 090402 (2016).

  8. Yao,N.Y.,Potter,A.C.,Potirniche,I.-D.& Vishwanath, A. Phys. Rev. Lett. 118, 030401 (2017).
  9. Zhang, J. et al. Nature 543, 217–220(2017).
  10. Choi, S. et al. Nature 543, 221–225 (2017).

  11. D’Alessio, L. & Rigol, M. Phys. Rev. X 4, 041048 (2014).
  12. Abanin, D. et al. Preprint at http://arXiv.org/abs/1509.05386 (2015).

  13. Else, D. V., Bauer, B. & Nayak, C. Phys. Rev. X (in the press); preprint at http://arXiv.org/abs/1607.05277 (2016).

  14. Basko, D. M., Aleiner, I. L. & Altshuler, B. L. Ann. Phys. 321, 1126–1205 (2006).

  15. Ponte, P., Chandran, A., Papić, Z. & Abanin, D. A. Ann. Phys. 353, 196–204 (2015).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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