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標的遺伝子だけオンに! エピゲノム編集登場

畑田 出穂、森田 純代

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2016.161121

2012年に登場するやいなや、世界中で使われるようになったゲノム編集技術CRISPR-Cas9。狙ったDNA配列を簡単に操作できることから、DNAの修飾状態を改変する「エピゲノム編集」への応用も期待されている。今回、群馬大学 生体調節研究所の畑田出穂教授と森田純代研究員は、狙った遺伝子のスイッチだけをオンにするDNA脱メチル化技術を完成させた。

–– ゲノム編集技術の応用で、画期的な成果を挙げられました。

畑田: 私は一貫してエピゲノムの研究領域にいます。ゲノム研究は1990年頃から飛躍的な進歩を遂げてきましたが、当時は網羅的な解析手法がありませんでした。そのような状況で私は、制限酵素の切断部位を指標に、ゲノム上の多数の位置を1枚のゲル上で網羅的に示す技術(RLGS法)の開発に携わっていました。その過程で、メチル化された塩基を特異的に切断する制限酵素を使って、ゲノム上のメチル化の変化を観察する手法を完成させました1。この成果がエピゲノム研究の原点になりました。現在では、マイクロアレイや次世代シーケンサーなどでメチル化を詳細に観察できるようになりましたが、観察と対をなす「操作」については、十分な技術がまだありません。こうした状況において、今回、メチル化をピンポイントで操作する技術の1つを開発できたといえます。

森田: 私は人類遺伝学やシグナル伝達の研究室を経てこちらに来ました。ゲノムインプリンティングと肥満関連遺伝子などの研究を進めていましたが、CRISPR-Cas9の登場を機に、今回の研究を始めました。

–– そもそも、メチル化やエピゲノムとは?

畑田: 多くの真核生物では、DNAを構成する4種類の塩基のうちシトシンだけがメチル基の付加・除去という修飾を受けます。遺伝子発現を制御する領域(プロモーター)中に多く見られるCpG配列(シトシン–グアニンの2塩基からなる繰り返し配列)においてシトシンがメチル化されると、遺伝子スイッチをオンにするためのタンパク質がアクセスできなくなるので、スイッチはオフになります。逆に、脱メチル化されるとスイッチはオンになります。このように、遺伝子配列はそのままの状態で遺伝子のオン・オフが制御されることをエピゲノムといい、DNAメチル化はその代表格です。

–– 今回、特定のDNAメチル基を外す手法を開発されました。

畑田: DNAメチル基は、TET1と呼ばれる酵素によって外されます。生体内では、別の因子が働くことで、TET1が必要な領域でだけ作用して脱メチル化が起こり、遺伝子がオンになるように制御されているわけですが、実験レベルで特定の領域だけを脱メチル化することは困難でした。ところが、画期的なゲノム編集技術が登場し、状況が一転しました2。CRISPR-Cas9のシステムは、狙った配列にDNA切断酵素Cas9を誘導する「ガイドRNA」(gRNA)などをうまく設計することで、ピンポイントにDNA二重鎖を切断できます。するとDNA修復機構が発動し、標的遺伝子のみを改変できるのです。

CRISPR-Cas9以前にもZFNやTALENというゲノム編集ツールがありましたが、CRISPR系は圧倒的に簡便です。また、ZFNやTALENを応用して脱メチル化を行う試みもありましたが、効率は高くありませんでした。そこで私たちは、CRISPR-Cas9をベースにした技術を模索することにしました。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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