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非コードRNAに、ペプチドがコードされていた!

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150731

原文:Nature (2015-04-02) | doi: 10.1038/nature14378 | Coding in non-coding RNAs

Peter M. Waterhouse & Roger P. Hellens

マイクロRNA配列の前駆体の非コード領域にペプチドがコードされていることが分かり、新しい遺伝子調節段階が明らかになった。遺伝子の間にある「がらくた」配列は、がらくたではないのかもしれない。

動植物では、多種多様な遺伝子の発現をmicroRNA(miRNA)が調節している1。そうした調節は、発生段階を通じた変化や環境ストレスへの応答など、さまざまな過程にとって極めて重要である。miRNAは配列が短く、primary miRNA(pri-miR)と呼ばれる前駆体転写物から酵素で切り出されて生成する。これまでpri-miRは、タンパク質をコードすることがないと考えられてきた。しかし、Nature 4月2日号の90ページで、トゥールーズ大学(フランス)のDominique Lauresserguesらがそれに対する強力な反証を提示している2。研究チームは、一部のpri-miRがペプチドをコードし、それがmiRNAの生成を強化していることを明らかにしたのだ。これはpri-miRがコードする機能性ペプチドに関する最初の報告であり、miRNAを直接生成しないpri-miR領域の重要性に新しい展望をもたらしている。

1970年代、タンパク質をコードするゲノム領域(すなわち遺伝子)がタンパク質非コード配列の海に浮かんでいることが明らかになり始めた頃、機能を持たない「がらくた(junk)」DNAという考え方が熱い議論の的になった。例えば、タンパク質コード領域(エキソン)を分割している遺伝子の内部の配列「イントロン」は、メッセンジャーRNA(mRNA)に転写された後に切り出されて除かれるため、がらくたDNAの一種とされるが、近年、発現調節などの注目すべき役割が明らかになっている。現在の生物学者たちはそれを知っているが、遺伝子間のゲノム配列を表わすのに「がらくたDNA」という用語が漠然と使われ続けているため、こうした配列は重要ではないように思われている。

タンパク質非コードDNA配列の有用性をめぐる議論は過熱し続けている3,4。また、pri-miRを生じる配列は、極めて多くの植物および多数の動物のゲノムの遺伝子間領域に存在し、このような配列が無用のものでないことは明らかである。しかし、pri-miR内にあってmiRNAや高度に構造的な隣接配列を生じない領域は、概して看過されたり、場合によっては機能のないがらくたRNAと考えられたりするという同様の運命に甘んじた。

図1:miRNAとそれに関連するペプチド
植物のmiRNAの前駆体はpri-miR配列と呼ばれ、酵素RNAポリメラーゼII(Pol II)によってDNAから転写される。転写されたpri-miRはキャップ形成および3'末端へのポリアデニル基(ポリA尾部)付加による修飾を受ける。続いて、miRNA二本鎖が酵素Dicer-like1によって切り出されて細胞質に輸送される一方、pri-miRのそれ以外の部分は分解される。さらにプロセシングを受けて生じたmiRNA配列は、RNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)の要素として遺伝子発現の抑制を導く。Lauresserguesら2は、一部のpri-miRが短いオープンリーディングフレーム(ORF)配列を含み、ペプチド(miPEP)を生成する場合があることを明らかにした。miPEPはpri-miRの発現を増強することによってmiRNAを増加させ、標的遺伝子のメッセンジャーRNAの切断効果を高める。そうしたORFは、Dicer-like1によるプロセシングを受けることなく核外に移行する可能性があるpri-miRの一部として、分解を回避していると考えられる。 | 拡大する

植物でも動物でも、pri-miRは核内でRNAポリメラーゼIIという酵素によってDNAから転写される(図1)。転写産物内にある、miRNA配列を取り囲む構造化(折り返し)領域は、DroshaまたはDicer-like1という2種類の酵素のいずれかによって認識およびプロセシング(切断)される(動物では、miRNA配列を含む短いヘアピン様のRNA「pre-miR」をDroshaが切り出す5。植物では、Dicer-like1がmiRNAを二本鎖の形で切り出す6)。次に、切り出された配列は輸送体タンパク質によって細胞質に運び出される。そこでさらにプロセシングされてRNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)を導く能力を獲得し、mRNAの切断または翻訳抑制のいずれかによって標的遺伝子を抑制する。

一般に、折り返し領域上下流のpri-miR配列は、埋め込まれているmiRNAの切り出し後にすばやく分解されると考えられている。しかし、転写されたばかりのpri-miRには、RNAポリメラーゼIIが生成する全てのmRNAと同じ特徴が備わっている(具体的には、キャップ形成と呼ばれる修飾によって5'末端が改変され、3'末端にはポリアデニル基が付加する)。すなわち、プロセシング前のpri-miRには、核外に移行するためのシグナルと、細胞質での安定性および翻訳のためのシグナルが装備されているのである。また、miRNAへのプロセシングを逃れる全長pri-miRがその後どうなるか(例えばトウモロコシでは、そうしたpri-miR配列の長さが250~2500ヌクレオチドに及ぶ7)や、それがペプチドをコードし得ることについて、ほとんど気に留められず、あるいは無視されてきた。

Lauresserguesらは、2種の植物の多種多様なpri-miRに短いオープンリーディングフレーム(ORF;潜在的にタンパク質をコードすることができる配列)を発見した。そのうち5個に関して、研究チームはORFに対応するアミノ酸配列を予測し、対応するペプチドを合成して、それに対する特異的な抗体を作製した。その抗体を用いた研究チームは、植物体内でORFが自然の過程によって翻訳されてペプチドを生じていることを明らかにし、それをmiPEPと命名した。

調べたケースにおいて、miPEPは関連する成熟miRNAと組織分布が重なり、こうしたmiRNAの発現と効果を高めていた。さらにmiPEPは、miRNAの安定性を高めるのではなく、対応するpri-miRの転写を促進した。この発見により、非折り返しpri-miR配列の少なくとも一部に関する予想外の機能が明らかになり、それと同時に、さらに新たな遺伝子調節段階が明らかになった。この事実はまた、そのような短いORFが潜在的にコードする他のペプチドの存在や機能についても問いを投げかけている。

植物では、pri-miRをコードする能力を有するゲノム配列が絶えず進化している。pri-miRをコードする配列は、ヘアピン様RNAの生成につながる完全な遺伝子またはその断片の逆位重複から生じると考えられる8。そうしてできたヘアピン様RNAから遺伝子調節に有用なmiRNAが生み出されると、このmiRNAは改良されてpri-miRとなるが、有用なものができなければ淘汰される。これが新旧のmiRNAの概念につながった。古いmiRNAは、多くの種で配列と機能が保存されていて数億年にわたって存続しており、今後の植物進化にとって極めて重要なものになると考えられる。新しいmiRNAは種特異性が高く、機能と未来の確実性がはるかに低い。

今回の論文で発見されたmiPEPは、複数ファミリーのmiRNAと関係している。miR165をmiR166のファミリーに含めると(両者の違いは1ヌクレオチドにすぎない)、今回の論文で発見された全7種類のmiPEPは、全ての顕花植物の間で保存されている古いmiRNAファミリーと関係することになる。従ってその全てには、機能的に有用なペプチドをコードするORFを作り出すための進化的時間があった。このことから、古いmiRNAファミリーの中には未発見のmiPEPが広く存在している可能性が高く、新しいmiRNAファミリーのmiPEPは関連するmiRNAと検出可能なレベルで共進化している可能性もある。また、動物のpri-miRの中にもmiPEPをコードしているものがあるかもしれない。

バイオインフォマティクスのみを利用してmiPEPを次々と発見するのは容易ではないかもしれない。Lauresserguesらが発見した7種類のmiPEPのうち5個は、100ヌクレオチドに満たないORFにコードされている。このサイズのORFに基づいて潜在的なペプチドをコードする配列は、短くなるほど偶然だけで発生する可能性が指数関数的に高まるため、自動ゲノムアノテーションプログラムで無視されたり除外されたりすることが多い。

一方、短くても機能性のペプチドをコードするORFは、タンパク質をコードする従来型の大きなORFの上流でも発見され始めている9。その多くは、一般的でない開始コドン(タンパク質合成を開始する配列)を持っており、従来の考え方を打ち破った10

miPEPをはじめとするこのような小ペプチドが実験で発見されたことで、不都合な問題が提起されたといえる。つまり、バイオインフォマティクス解析のデザインが検出に十分なものになっていないせいで、生物学的に重要なペプチドシグナルの巨大なライブラリーが見過ごされている可能性が考えられるのだ。

(翻訳:小林盛方)

Peter M. WaterhouseとRoger P. Hellensは、クイーンズランド工科大学熱帯作物バイオコモディティーセンター(オーストラリア・ブリズベーン)に所属。

参考文献

  1. Ameres, S. L. & Zamore, P. D. Nature Rev. Mol. Cell Biol. 14, 475–488 (2013).
  2. Lauressergues, D. et al. Nature 520, 90–93 (2015).
  3. Birney, E. et al. Nature 489, 57–74 (2012).
  4. Kellis, M. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 111, 6131–6138 (2014).
  5. Carthew, R. W. & Sontheimer, E. J. Cell 136, 642–655 (2009).
  6. Fang, Y. & Spector, D. L. Curr. Biol. 17, 818–823 (2007).
  7. Zhang, L. et al. PLoS Genet. 5, e1000716 (2009).
  8. Cuperus, J. T., Fahlgren, N. & Carrington, J. C. Plant Cell 23, 431–442 (2011).
  9. Andrews, S. J. & Rothnagel, J. A. Nature Rev. Genet. 15, 193–204 (2014).
  10. Laing, W. A. et al. Plant Cell 27, 772–786 (2015).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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