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改良が進む樹状細胞ワクチン

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150630

原文:Nature (2015-03-19) | doi: 10.1038/nature14211 | Dendritic-cell vaccines on the move

Rachel Lubong Sabado & Nina Bhardwaj

抗腫瘍免疫応答を誘導する樹状細胞ワクチンは、がん患者の治療にはあまり有効ではなかったが、今回、ワクチン接種部位を前処置して炎症を誘発しておくと、このワクチンの効果が増強される可能性があることが分かった。

破傷風は死亡率が高いことから、日本では1952年に破傷風トキソイドワクチンが導入された。現在は、乳児期のうちからワクチン接種が開始される。 | 拡大する

evgenyatamanenko/istock/thinkstock

樹状細胞(DC)は「天然のアジュバント」と呼ばれることがある。これは、DCが免疫応答の開始を助けることに由来する。DCは体内を循環しており、病原体や腫瘍に由来するタンパク質を取り込むとそれをプロセッシングして、自己の細胞表面に抗原として提示する。抗原を提示したDCは、リンパ節に移動してT細胞を活性化し、防御免疫応答を引き起こす。DCのこのような特性を基盤に、がん患者に抗腫瘍免疫応答を誘導するための「腫瘍抗原を提示したDCを含むワクチン(DCワクチン)」開発が進められていたが1、この戦略は期待外れの結果に終わっている。しかし、デューク大学医療センター(米国ノースカロライナ州ダーラム)のDuane A. Mitchellらは、DCのリンパ節への移動を増加させるだけで、ヒトおよびマウスにおいて抗腫瘍免疫応答が劇的に増強されることを示し、DCワクチンの使用法を最適化する戦略をNature 2015年3月19日号366ページに報告した2

DCワクチンは、抗腫瘍免疫応答を長期間継続して安全に誘導できると一般に考えられている。DCワクチンの接種により、進行がん患者の一部には、少なからず臨床結果の改善が見られた3。例えば、DCワクチンのシプロイセルT(米国での使用が承認された、細胞を基盤とする唯一のがんワクチン)は、前立腺がん患者の生存期間の中央値を4カ月延長した4。しかし、DCワクチンの有効性を左右する因子が不明であることから、この結果にはまだ改善の余地があると考えられている。使用したDCの種類や採取組織、DCのリンパ節に移動する能力などのいくつかの要因により、DCワクチンの有効性が制限された可能性があることや、接種されたDC自体は免疫応答を直接引き起こさないとしても、リンパ節にすでに存在しているDCを介して間接的に機能した可能性もあるからだ5

改良できると考えられる問題は他にもある。DCワクチンに含まれるDCがリンパ節に到達する割合は、5%未満でしかないのだ6。しかしマウスでは、活性化DCを接種する、あるいは皮膚のワクチン接種部位を炎症性分子TNF-αで前処置することで、DCのリンパ節への移動能を改善できる7ことが分かっている。そこでMitchellらは、ヒトにおいてDCワクチンを接種する部位に局所的な炎症応答を引き起こす前処置を行うことで、DCのリンパ節への移動効率を高められるかどうかを調査した。Mitchellらは、破傷風ジフテリア(Td)トキソイドで前処置を行い、次にDCワクチンを接種することにした。ほとんどの人は、小児期に受けた予防接種によりこのトキソイドに曝露されたことがあり、再度曝露されると、Td抗原のみを認識する記憶CD4+T細胞と呼ばれるT細胞のサブセットが活性化され、Td抗原の存在下で強力かつ迅速な炎症性免疫応答が誘導される。

多形性膠芽腫(GBM)は侵攻性の脳腫瘍で、腫瘍細胞特異的にpp65の発現が見られる。pp65は、サイトメガロウイルスと呼ばれる一般的なヘルペスウイルスに由来する抗原であることから、pp65は免疫療法の魅力的な標的になっている。Mitchellらは、GBM患者(腫瘍除去後に化学療法を受けている)のDCワクチン接種予定部位にあらかじめ、Tdあるいは、対照としてpp65に遭遇したことのない成熟DCのどちらかを接種した。次に、これらの前処置を受けた全ての患者にpp65で刺激したDCをワクチン接種した。そして、腫瘍の再発が見られるまで、毎月このDCワクチンの接種を行った。

Td前処置を受けた患者のリンパ節には、Td前処置を受けていない対照患者よりも多くのDCが蓄積していた。しかも、Td前処置を受けた患者の平均生存期間は対照患者よりも長かったのである。6人のうち3人はこの試験の終了後も生存していたが、これは標準的な治療で予想される生存期間の約2倍である。Mitchellらは患者の転帰改善の理由について、Td前処置患者では対照患者よりもpp65特異的T細胞応答が長く持続し、またその応答が増強されていたことを挙げている。しかし、これは小規模試験の結果にすぎない。それに加え、増強されたT細胞応答と臨床転帰の関係は明らかではなく、より大規模な患者コホートで調査を行う必要がある。

そこで、Mitchellらは、ヒトでの結果をマウスで検証した。腫瘍抗原としてオボアルブミンを用い、Tdに曝露されたことがあるマウスと曝露されたことのないマウスを用意した。DCワクチン接種後、Td前処置群ではオボアルブミン抗原提示DCのリンパ節への移動が増加したのに対し、Tdに曝露されたことのない対象群では移動が効率的に行われなかったことから、抗原提示DCの移動の増加がTd特異的記憶CD4+T細胞に依存していることが示された。この結果はヒトでの臨床結果を裏付けるといえる。その上、DCのリンパ節への移動効率は、前処置が片側のみのマウスであっても体の両側で上昇した。この全身的な効果はケモカインCCL3によって仲介されていると考えられる。ケモカインとは、白血球の遊走を誘導するシグナル伝達タンパク質である。Mitchellらが血清中の各ケモカイン量を調べたところ、Td前処置後、ヒトでもマウスでもCCL3のみが迅速に産生されていた。

図1:樹状細胞ワクチンの最適化
a 腫瘍由来の抗原を提示した樹状細胞(DC)はリンパ節に移動して、2種類の免疫細胞(記憶CD4+ T細胞とCD8+ T細胞)を活性化する。DCが提示する腫瘍の抗原に曝露されたことがある記憶CD4+ T細胞は、強力かつ迅速な免疫応答を発揮する。CD8+ T細胞は、その抗原を発現する細胞を殺傷する。がん患者に腫瘍抗原pp65を提示したDCを含むワクチンを接種する治療は、このようなDCの特性を利用しているが、接種されたDCがリンパ節へと移動する効率が悪く、T細胞に出会えないという問題がある。
b Mitchellらは、DCワクチンを接種する部位を破傷風ジフテリア(Td)トキソイドで前処置し、その後DCワクチンを接種することで、Tdを認識するCD4+ T細胞が仲介する炎症性免疫応答の誘導やCCL3タンパク質の産生により、DCのリンパ節への移動効率が改善することを報告した2。CCL3はCCL21タンパク質の産生を上昇させ、CCL21はDCやT細胞のリンパ節への移動を促進する。また、CCL3が直接、CD8+ T細胞をDCとCD4+ T細胞の相互作用部位に動員する可能性も示唆されている。 | 拡大する

Mitchellらはこうして、DCの移動にはCCL3の発現とTd特異的な記憶CD4+T細胞応答の両方が必要であることを実証した。彼らは次に、CCL3が皮膚やリンパ節において別のケモカインCCL21の発現を上昇させることで機能するという仮説を立てた。CCL21はケモカイン受容体タンパク質CCR7に結合することで活性化し、この相互作用が活性化DCおよびT細胞の効率的な移動に重要であることがこれまでに示されているからだ8,9。Mitchellらはこの仮説を検証するため、オボアルブミンを発現する黒色腫のマウスモデル(野生型、CCL3を欠失したマウス、CCL21を発現しないマウス)の各々においてオボアルブミンを提示するDCワクチンの有効性を比較する実験を行い、DCワクチンによる腫瘍の増殖阻害には、CCL3に加え、CCL21の発現が必要であることを明らかにした。これらのことから、抗原提示DCの移動はTd前処置とCCL3およびCCL21の産生に依存していることが実証された(図1)。

これらの結果は、DCワクチンを成功に導くことができるいくつかの機構を我々に示している。DCもCD4+T細胞も抗原認識後にCCL3を産生するので10、これらの細胞種間の相互作用は、前処置の効果が宿主のCCL3産生およびTd特異的記憶CD4+T細胞に依存するという事実を説明付けると考えられる。また、CCL3は、DC前駆細胞の動員、DCの成熟や移動の調節に加え、DCとCD4+T細胞の相互作用部位へのCD8+細胞(がん細胞を殺傷する細胞)の動員においても重要な役割を担っているとの報告もある11。こうした免疫応答を介して、DCワクチンをさらに増強できるかもしれない。最後に、制御性T細胞がCCL3の産生を減少させ腫瘍特異的免疫応答を抑制することを考えると12、前処置には制御性T細胞の効果を打ち消すのに十分なほどCCL3の産生を上昇させる効果があるのかもしれない。

現在、腎臓がんとGBMを対象とした、腫瘍抗原を提示する患者由来DCを用いるワクチンの大規模第III相臨床試験が行われている。これらの臨床試験の結果によらず、MitchellらはDCワクチンを最適近くにまで改良できる興味深い手法を示したといえる。しかし、Mitchellらが観察した「有効性の増強」には、他の要因も影響しているかもしれない。例えば、これまでに用いた腫瘍抗原13よりも、より強力な免疫応答を誘導する腫瘍抗原を用いたこと、腫瘍をすでに除去した患者に対してワクチン接種を行ったこと、患者は制御性T細胞を枯渇させる化学療法14を受けていたことなどである。それゆえ今後は、どの患者がワクチンの標的であるpp65を実際に腫瘍に発現していたかを特定することが重要になるだろう。今回のMitchellらの研究成果から、DCワクチンは、前処置によりDCワクチンをより強力に活性化したり15、ワクチンと腫瘍特異的免疫応答抑制因子の拮抗薬を併用したり16、直接腫瘍を標的とするDCワクチンを用いたりする17ことで、さらに有効性を高められる可能性があるといえる。

(翻訳:三谷祐貴子)

Rachel Lubong SabadoとNina Bhardwajは共にマウント・サイナイ医科大学アイカーン医学系大学院(米国ニューヨーク)に所属。

参考文献

  1. Sabado, R. L. & Bhardwaj, N. Ann. NY Acad. Sci. 1284, 31–45 (2013).
  2. Mitchell, D. A. et al. Nature 519, 366–369 (2015).
  3. Palucka, K. & Banchereau, J. Immunity 39, 38–48 (2013).
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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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