Nature ハイライト

遺伝:チンパンジーとヒトのゲノムには際立ったちがいがある

Nature 437, 7055

ヒトと類縁関係の一番近いチンパンジーのゲノム塩基配列の全容が、今回明らかになった。ヒトと他の動物の間に一線を画すものは何なのか、その答えを探す旅の道標の1つにたどり着いたわけである。このゲノム配列は、チンパンジーゲノム配列解読・解析共同研究体という国際研究グループにより、現在多くの生物種ゲノムの配列解読に使われている全ゲノムショットガン法を使って決定され、今週号にまとめて掲載されたチンパンジーゲノム研究報告の1つとして発表された。  このグループがヒトとチンパンジーのゲノム配列を比較したところ、ヒトゲノムでは強い自然選択を受けた形跡があるのにチンパンジーの対応する配列ではそれがない領域が、複数見つかった。これらの配列は、言語などヒトに特異的な形質を見きわめるのに大いに役立ちそうである。  しかし、ヒトとチンパンジーの違いは考えられていたよりも大きいのかもしれない。両者のゲノム配列は遺伝子中の単一塩基の置換について見ると1.2 %しか違わないが、もっと長いDNA区間の重複や並び替えを考慮すると違いはさらに2.7 %増えるとE Eichlerたちが報告している。また別の研究でB Traskたちは、こうしたヒトゲノムの「分節重複」は染色体末端近くのサブテロメアと呼ばれる領域に高頻度で生じていることを示し、これらの部位が両種間の遺伝的違いが生じる「ホットスポット」にあたるのではないかと述べている。  またD Pageたちの報告によると、チンパンジーの「性的な習性」がY染色体にとって不都合に働いている可能性があるという。Y染色体は精子の製造を担う遺伝子群を抱えているが、この染色体は小型なのでチンパンジーでもヒトでも、他の染色体ほど簡単には組み換えが起こらない。乱交型のチンパンジーでは、雄は自分の精子で雌を受胎させようと激しい競争をしており、それには大量の精子を作らなければならないから、精子の製造は雄にとって重要問題である。そのため、さまざまな有害変異がこれらの大事な遺伝子群に便乗して子孫に伝えられたとしても、それが自然選択によって排除されないのだ。

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