Nature ハイライト

物理:量子シフト

Nature 430, 6995

自然界の基本的な方程式の1つのわずかな摂動から、分子をつなぐ結合のような、あるかないか分からない存在を計量することが可能になるかもしれない。 サイクロトロンは物理学者がいじり回す最も重要なツールの1つであり、荷電粒子が磁場に束縛されて環の中を威勢よく廻っている。粒子がサイクロトロンを回る速度は、その電荷と質量の単純な関係式で表される。この関係式は質量を精密に比較する基礎となり、生体分子の同定や化学反応速度の研究などさまざまな応用がある。 今回J K Thompsonたちが、分極性粒子について、この関係式からのずれがあることを報告している。彼らはCO+イオンの高精度測定において、周回運動している粒子に誘起された磁気双極子がサイクロトロン周波数をシフトさせることを発見し、このシフトを利用してイオンの量子状態を非破壊的に測定することができた。この効果はまた、これに匹敵する精度の測定の少ない分子イオンに関しても双極子モーメントを測定する方法を提供している。 この新たに観測された効果は、アインシュタインの質量-エネルギー公式やCPT(電荷-パリティー時間)反転対称性の直接測定、またひょっとすると化学結合の計量も含めて、現在得られる最も精密な質量比較に影響を及ぼすかもしれない。

2004年7月1日号の Nature ハイライト

目次へ戻る

プライバシーマーク制度