Nature ハイライト

構造生物学:タンパク質の構造をライブで見る

Nature 458, 7234

in-cell NMRは、生きた細胞内でのタンパク質の三次元(3D)構造を原子レベルで解明するための有望な手法だが、今回、その幅をさらに広げると思われる2つの進歩が報告された。この手法は感度が比較的低く、試料の寿命は短いために、タンパク質の構造決定に十分な構造情報を得ることは、これまで難しかった。NMRデータの収集には2日程度かかることがあり、これは生きた細胞には長すぎる。榊原大介(首都大学東京)たちは、この問題を克服して十分なデータを数時間で集め、生きた大腸菌細胞で得た情報だけに基づいてタンパク質の3D構造を初めて決定したことを報告している。この原理証明実験で用いたモデルタンパク質は、高度好熱菌のThermus thermophilus由来の重金属結合タンパク質と推定されるTTHA1718である(Letter p.102)。これまで生きた細胞へのin-cell NMRの適用は、細菌とアフリカツメガエル卵母細胞に限られており、生きた真核細胞へ応用範囲を広げるには、同位体標識したタンパク質を細胞内へ送達する効率が低いことが制約となっていた。猪俣晃介(京都大学)たちは、適切な標識をつけたタンパク質に細胞浸透性ペプチドを共有結合させ、ピレン酪酸処理を行うことで、このタンパク質をヒト細胞の細胞質へと導入できることを明らかにしている。細胞に内在する酵素の活性により、あるいは自発的還元切断によりこのタンパク質が遊離すれば、生きたヒト細胞内での高分解能異種核二次元NMRスペクトルが得られる。これは、細胞内タンパク質を標的とする薬物の設計やスクリーニングに役立つ強力な手法になる可能性がある。News & Views(p.37)ではD S BurzとA Shekhtmanが、ほかのin-cell NMR技術の最近の進歩を概観しながら、この2つの論文について論じている。

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